聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 ライールが大通りのすみの方で、煙の収まった詰め所を見ながら、仁王立ちしていた。

 そこへ、「ライール隊長」と男が近付いてくる。彼もライールと同じ近衛このえ騎士の格好をしていた。

「鉱山にいた捜査員たちも全員、合流が完了しました」
「分かった、指示があるまで待機していてくれ。それほど時間は掛からんだろう」
「了解です」

 敬礼した男が立ち去ると、

「どうかしたの?」

 彼の隣に、エリカがやって来て言った。すれ違う男の方をチラッと見やっていた。

「丁度いいところに来たな」とライール。
「まるで仁王像みたい……」
「なんだ? それ」
「あ~…… 私の世界の、守護神みたいな存在」
「そんなのがいるのか?」
「まぁね。それより、何か引っ掛かることでも?」
「管理室の連中だが、睡眠薬を盛られていたらしい」

「そうみたいね、あたしも挟んだ。あと、ユリエルの入っていた牢屋に鍵が落ちていたらしいわよ?」

「その鍵のことなんだが」と、ライールがエリカを見やった。「予備用の鍵らしい」
「予備用? あぁ、スペアキー……」

 エリカは、最後の言葉を独りごちに言った。

「もし脱獄を手伝う人間がいたとして」と、ライールは気にせず言った。「そいつが管理室の連中を眠らせたのなら、そいつらの腰にある鍵を使うのが普通だろ?」

「わざわざスペアキーを取りに行ってから、管理室の人を眠らせたのはおかしいってこと?」

「お前はどう思う?」
「管理室にいる人たちって、鍵を常に身に付けてるの?」
「専用のベルトを巻いているらしい。それに、鍵を腰から外されないために、鍵輪には長い鎖が付いていて、それが別の看守の腰にもつながっているそうだ」

「なんか、えらく面倒な管理方法を取ってるのね」
「裏を返せば、牢屋へ行くにしても、部屋の外へ出るにしても、必ずもう一人が付いて行く必要があるってことだ。――手洗いのとき、どうするのかは知らんが」

「そこは興味ないし、無視して大丈夫」
「そうか? 大事な部分だぞ」
「どうしてよ?」エリカが怪訝けげんな顔になった。

「二人のズボンを脱がせばベルトも付いてくるから、鍵は自由にできるだろ? 後で、そいつを鎖で縛っておくことだって可能になる」

「でも、普通は簡単に脱げないようにしてるんじゃないの?」
「当たり前だ。簡単に脱げたら大変だし、鍵付きベルトも上半身につながっているからな」

「だったら、アリスさんが脱がすのって無理なんじゃない? 
  眠っている警備兵の、しかも上半身にもつながってるベルト付きのズボンを脱がすなんて……
 普通にベルトやズボンを、ナイフで引きいた方が早そうなんだけど?」

「その通りだ。つまり、保護下にある丸腰の子供だったら、厳しいというより不可能と思っていい」
「あっ、そうか!」

 アリスが納得した顔に変わった。

「アリスさんが子供だって知っていたからこそ、鍵を盗むのが容易じゃないって気が付いた……
 だから脱獄幇助ほうじょの犯人は、眠らせただけで終わらせず、予備用の鍵を持ち出して、アリスさんに渡したってことね?」

「ああ。予備用の鍵自体は、警備隊長の部屋の金庫に保管されていたらしい。
  そうすると、金庫の鍵と番号…… 後は部屋の主がいない時間帯を狙えば、盗むのも簡単だろう。最後に、アリス様へそれとなく渡せたらいい」

「条件が厳しいわね…… 簡単に思えないけど、不可能よりは簡単なのかな」

 アリスが渋い顔になって、つぶやいた。

「俺も最初は、なぜこんな面倒なことをしたのか…… 不思議でならなかったんだ。
  だが、あることに気付くとスルスル分かるようになってきた」

「――らさないで教えてよ」
「いつも焦らされるんだ。ちょっとくらいな……」
「ライール……?」

 彼は鋭い視線を送るエリカから目をそらしつつ、せき払いをした。

「警備隊長の部屋を出入りしても、不自然じゃない人間って誰がいる?」
「不自然じゃない……」

 エリカが視線を落とし、アゴをさすりながら考えた。

「目上の人よね? 部下が出入りすると変な感じだし……」
「その線だと色々と思い当たるだろうが、直近で彼とやり取りしている人間がいただろう? ユリエルを逮捕するために」

「まさか……」と、エリカがライールに視線を合わせる。
 彼も合わせながら、「そう、ハロルドだ」と言った。

「なんで? 捕まえたのって彼が原因…… っていうか、ユリエルを疑ってた張本人でしょ?」
「理由は分からんし、なぜ彼が、ユリエルを逮捕したり脱獄させる助けをしているのかも分からない。――ただ、一つだけハッキリしたことがある」

「二人に何かしら、用があるってことね?」
「それと、レックたちの居場所だ」

 エリカが珍しく驚いた顔をした。
 それで、ライールが自然と笑みをこぼす。

「そろそろ、警備隊長が一段落している頃だろう。会いに行こう」
「分かった。――鬼が出るかじゃが出るか、ね」
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