聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

文字の大きさ
上 下
47 / 67

48

しおりを挟む
 ユリエルは走った。
 アリスを抱えながら走った。

 腰にぶら下げている刀剣のさやが、カチャカチャと音を立てている。

 走って走って、森の中へ入って、その先にある鉱山跡を目指した。

 カントランドを離れてしまうことも考えたが、思った以上に警備隊の手回しが早く、様々なところで検問やら捜索やらをしているのが目に付いたため、ここまで一気に走って逃げてきたのだった。

「ちょっと、休憩……!」

 と言って、アリスを下ろすユリエル。

「大丈夫……?」
「いや~…… 最近、ここまで走ったこと無かったから……」

 両手を膝につきながら、ユリエルが息も絶え絶えに言った。

「ごめんね、抱えさせて……」
「歩幅が違うから仕方ないって。それより……」

 と言って、背筋を伸ばしながら深呼吸を一つして、続きを話した。

「どうやって、俺の牢屋まで来られたの?」
「なんて言えばいいのかな……」

 アリスは、人差し指の横側を唇にあてながら、困った顔をしていた。

「確か、宿直室に連れていかれたよな?」
「うん、そうなんだけど……」
「見張りとか、いなかったのか?」
「警備隊長と一緒に、朝食を食べに行って……  任されてた人も呼び出しでいなくなっちゃったの」

「なるほど……  それで鍵は?」
「ノックがしたと思ったら、誰も入ってこなくて…… 気になって扉をあけようと思ったら、鍵たばの付いた鍵が、取っ手からぶら下がっていたの」

「誰が付けたのか、分かるかな? 怪しいヤツが近くにいたとか……」
「パッと見ただけだから、よく分からなかった……
 だって、鍵がぶら下がってるんだもん。見つかったらって思っちゃって」

「それもそうか……」
「鍵を取ったはいいけど、どうやってユリエル君のところへ行こうか考えてたの。
 それで、トイレに行くフリをして、留置所の管理室へ入ったら…… 見張りの人たちがみんな、倒れてて……」

「多分、机に残ってた朝食が原因だろうね」
「睡眠薬が入れられてたってこと?」
「あの時間って、当直じゃない人間は朝メシいに行ってるんだよ。しかも、今日は奉納祭の前日…… 前夜祭の日だろ?」

「あっ」

 意外そうな顔で、アリスが言った。

「忘れてた……」

「色々あったもんな」と、苦笑うユリエル。「まぁ、そんな感じで、いっつもこの時期は詰め所に人がいないんだよ」

「じゃあ、人がいない時間を狙って私に鍵をくれたってこと?」
「だって、あんなに都合良く火口ほくち狼煙のろし用の有機燃料が置いてあるわけないからさ」

「味方…… なのかな?」
「分からない。だから、今は信用しない方がいいかな」
「そうよね…… でも、誰かがあなたをおとしいれようとしたのは、間違いない事実でしょ?」

「色々と思うところはあるけど、確証が無いから分からない。何が狙いなのか、イマイチよく分かってないっていうか……」
「――とにかく、今は身を隠しましょう」

 アリスが、ユリエルを見上げるように視線を合わせて言った。

「捕まったら、考える時間もないでしょ?
 幸い、この先に古い廃坑の入り口があったはず。色んな場所に繋がってるから、逃げるのにも都合がいいでしょ?」

「そうだけど…… 大丈夫か?」
「何が?」
「奉納祭って、明日なんだぜ?」
「もういいの」
「でも……」
「いいから行きましょ。奉納祭なんかより、あなたが死刑にならない方が大事だもん」

 そう言って、アリスがユリエルの手を握った。

「絶対に、無実を立証してみせる……!」

 ユリエルは思わず口角をあげた。

「どうしたの?」
「あ、いや…… なんか、昔のねえさんらしくなったなって」
「――ねえさんはやめてよ」
「あぁ…… ごめん、そうだった」

 ユリエルが頭をかいた。
 すると、アリスがユリエルのあいた方の手を引っ張って、歩き出す。

「じきにこの辺りにも捜索隊が来るはずです、さっさと廃坑へ逃げましょう!」
「ああ!」

 二人はそのまま、足早に森の中を歩いていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

処理中です...