聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

文字の大きさ
上 下
46 / 67

47

しおりを挟む
「な、なんですと?!」

 マグニー大司祭が、思わず如雨露じょうろを落として言った。
 彼は大聖堂の敷地内にある、庭園にいた。そこには野菜などがあり、アリスが育てていた薔薇バラ系の植物やコスモスのような花も植えられている。

「間違いない」

 グレイが言った。
 他には、シェーン大司教がいる。
 ライールとエリカは、詰め所に残って片付けを手伝うと言うので、ここにはいなかった。

「聖女アリスは子供の姿になっている」グレイは続けた。「原因は王冠によるものだという見解が有力だ」
「あ、あり得るのですか? そのような絵空事が……!」
「あり得るから、このような事態となっているんだ」

 マグニ-大司祭は、まだ信じられないというような表情で立ち尽くしていた。

「奉納祭は明日です」と、シェーン大司教が言った。
「もはや、一刻の猶予ゆうよもありません。ここは正直に、事態を公表すべきでは?」
「な、なりません!」

 マグニー大司祭がさえぎるように言った。

「もし、聖女が呪いに掛かったなんてことが知られては……!
 大聖堂はおろか、ロンデロントにある教会の威厳にも関わるし、ひいてはアル・ファームの権威の失墜にもつながりますぞ?!」

「原因は呪いではなく、魔導具の作用によるものとエリカさんはお考えのようですよ?」
「エリカ……?」
「アルメリア王女の侍女じしょだった方です」
「あ、ああ…… あの女性でしたな……」

「彼女は侍女の頃、魔導具の研究に参加していたということです。
  ――マグニー大司祭もご存じでしょうが、魔導具は『異世界から来た人間』でなければ扱えない。
  我々にできることは誠意を見せ、カントランドで暮らす人々にも協力してもらい、アリス様とユリエルと王冠、それとライール殿が追っている犯人たちの情報を提供してもらうことだけですぞ?」

「いや、しかし……」
「待ってください」

 ハロルドが現れ、三人のところへ近付いていった。

「君は…… ハロルド君、だったかな?」
「お久しぶりです、グレイ様。――今回の件について、僕から謝らなければならないことがあります」
「なんだ?」
「アリス様が子供になっていること、僕は前々から承知していました」

 三人とも、驚いた顔でハロルドを注視した。
 しばらくの沈黙の後、「どういうことだね?」と、グレイが口を開く。

「ユリエルが妙な動きをしていたし、子供が狙われているとか、ベリンガールの近衛騎士がなぜかカントランドに来て調査をしているといううわさも耳に挟んでいたもので……
 ひょっとすると、なんて思って、監視していたのです」

「結果、ユリエルが犯人の一味だったわけだ。そうだろ?」

 マグニーの言葉にうなずくハロルド。

「どうも」グレイが言った。「私には信じ難いことだな」

「どうしてです?」

 と、首をかしげるハロルド。彼はさらに続けた。

「事態が事態だけに、警備隊長に頼んで秘密裏に捜査してもらっていたことが裏目に出た…… 
  それは私のミスであり、お詫びします。
 ですが、ユリエルが誘拐などを企てた可能性は高いと思われます。状況証拠もそろっていますよ?」

「それだけでは、彼を犯人とするには不十分だ。状況はあくまでも状況…… 彼が犯行に及んだという決定的な証拠が必要不可欠じゃないか?」

「では、なぜ詰め所を放火して、脱獄して逃亡する必要があるのです?」

「それは簡単な話だ。
 我々が信用ならんから、独自に身の潔白を証明しようというのだろう。アリスも同じ考えだからこそ、一緒に出ていったんだ」

「へぇ、一緒に……」
「その辺りについては、ライール君の調査結果を待とうじゃないか。アリスが見張りの連中を眠らせ、脱獄の幇助ほうじょをしたというのなら、それはそれで犯罪行為だからな」

「それに」

 と、シェーンが口をはさむ。

「煙はなるべく白くなるように工夫されていて、誰もおらん地下留置所から燃やされていたそうじゃないか。
 燃え広がる場所も少なく、火災にまで発展しないようにしてあるなんて、とても気のいた犯人じゃな?」

 沈黙が流れた。

「では、あなた方はあなた方で犯人をお捜しください。僕はユリエルを見つけ出すので」

 そう言って、ハロルドがきびすを返す。

「ハ、ハロルド……!」

 マグニーが呼び止めると、彼は半身になるよう振り返って、

「父さんは大司教と話し合って、事態の真相を公表するかどうか考えておいてください。
 ただ、公表するにしてもしないにしても、大聖堂の記録書には残される。それだけは覚悟しておいて下さいよ? 、残り続けるのだから」

「だったら、なおさら我々に任せなさい! お前は探偵でも警備兵でもないんだ! ユリエルと同類の連中なんて、すぐに捕まえられるッ!」

「いつもそうだね、父さんは」

 ハロルドが口角をあげつつ言った。しかし、目が笑っていない。

「真実は無色透明で、絶対に目では見えないのに…… それを、自分だけは見られるなんて考えてるの…… 傲慢ごうまんでしかなんだよ」

 そう言って、立ち去った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

処理中です...