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グレイが左の肘関節の内側を、口と鼻に当てつつ、煙の中を突っ走っていく。
不思議と煙は白く、そこまで強烈な刺激も息苦しさも無かった。だから妙に思ったのか、グレイが怪訝そうな顔になっている。
不意に、人影が奥の部屋――隊長の執務室へ入っていくのが見える。
その人影は、何かを抱きかかえていた。
グレイは直観で、子供だと悟ったらしい。
彼は走る速度をあげ、扉を蹴り飛ばしながら部屋へと入った。
「貴様……!!」
ユリエルが丁度、上着をかぶせていたアリスを下ろしている最中だった。
彼の腰には、奪ったであろう西洋式に近い刀剣が付いている。
「お、お父様!?」
「えっ?!」
「逃がさんッ!!」
グレイが柄に手を掛けたと思ったら、一足で彼の喉元へ、薙ぐように抜刀していく。
刃先が首へ掛かる寸前、別の刀身が立つように現れ、グレイの刀身を十字に受ける。受けてすぐ、その刀身がグレイの鍔元へ滑っていく。
相手の刀剣が、グレイの鍔に当たった。
当たってすぐに、相手の刀剣が下に向かう。
グレイの鍔が、巧みに下へ抑え付けられる。
今度は相手が、体ごと鍔元に詰まってきた。
鍔同士が、かち合う。
相手が自身の鍔をしゃくりあげるように使って、グレイの刀剣を跳ねあげる。
グレイの手元から刀剣が離れ、天井につき刺さってぶら下がる。
彼は離れた刀剣ではなく、足下にいる少女――アリスを見ていた。
アリスはいつの間にか、ユリエルが帯刀していた刀剣を抜き放ち、グレイの斬撃をいなして、さらに武器を吹き飛ばしたのだ。
「アリス、お前……」
小さな彼女は真っ直ぐな目で、義父を見上げている。
対してグレイは、誰にも見せたことがないような、驚いた顔をしていた。
その驚きは、身長の半分もあるような刀剣を扱ったことに対してなのか、ついにやってきた反抗期に、驚きを隠しきれなかったのか……
「…………」
扉が無いせいで、煙が部屋へどんどん入ってくる。
「アリス、こっちだッ!」
知らないうちに、窓をあけ放っていたユリエルが言った。
「ごめんなさい、お父様」
アリスが言った。
「私は、高潔な聖女ではないの……」
グレイは黙っていた。
アリスはユリエルの方へ走っていく。
「一つだけ答えろッ!」
二人が窓枠を越える前に、グレイが言った。
「アリスを子供にしたのは、お前かッ?!」
「違うから、こうやって逃げるんスよ! 詳細は無罪を勝ち取ったらってことで!」
「だったら、今は見つかるな! 街道も施設も乗り物も、全て封鎖されているぞ!」
「――了解っス!」
口角をあげたユリエルが、アリスから受け取った刀剣を鞘へ戻すと、彼女を持ち上げて、窓から外へと出た。
外は細い裏路地であり、入り組んだ通路だった。
彼はアリスを抱えたまま、誰もいないその通路を走っていく。
一方、部屋に残っていたグレイは、あいている窓を見ながら拳を握りしめ、
「是の奴や……!」
と、古めかしく言った。
不思議と煙は白く、そこまで強烈な刺激も息苦しさも無かった。だから妙に思ったのか、グレイが怪訝そうな顔になっている。
不意に、人影が奥の部屋――隊長の執務室へ入っていくのが見える。
その人影は、何かを抱きかかえていた。
グレイは直観で、子供だと悟ったらしい。
彼は走る速度をあげ、扉を蹴り飛ばしながら部屋へと入った。
「貴様……!!」
ユリエルが丁度、上着をかぶせていたアリスを下ろしている最中だった。
彼の腰には、奪ったであろう西洋式に近い刀剣が付いている。
「お、お父様!?」
「えっ?!」
「逃がさんッ!!」
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刃先が首へ掛かる寸前、別の刀身が立つように現れ、グレイの刀身を十字に受ける。受けてすぐ、その刀身がグレイの鍔元へ滑っていく。
相手の刀剣が、グレイの鍔に当たった。
当たってすぐに、相手の刀剣が下に向かう。
グレイの鍔が、巧みに下へ抑え付けられる。
今度は相手が、体ごと鍔元に詰まってきた。
鍔同士が、かち合う。
相手が自身の鍔をしゃくりあげるように使って、グレイの刀剣を跳ねあげる。
グレイの手元から刀剣が離れ、天井につき刺さってぶら下がる。
彼は離れた刀剣ではなく、足下にいる少女――アリスを見ていた。
アリスはいつの間にか、ユリエルが帯刀していた刀剣を抜き放ち、グレイの斬撃をいなして、さらに武器を吹き飛ばしたのだ。
「アリス、お前……」
小さな彼女は真っ直ぐな目で、義父を見上げている。
対してグレイは、誰にも見せたことがないような、驚いた顔をしていた。
その驚きは、身長の半分もあるような刀剣を扱ったことに対してなのか、ついにやってきた反抗期に、驚きを隠しきれなかったのか……
「…………」
扉が無いせいで、煙が部屋へどんどん入ってくる。
「アリス、こっちだッ!」
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「ごめんなさい、お父様」
アリスが言った。
「私は、高潔な聖女ではないの……」
グレイは黙っていた。
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「一つだけ答えろッ!」
二人が窓枠を越える前に、グレイが言った。
「アリスを子供にしたのは、お前かッ?!」
「違うから、こうやって逃げるんスよ! 詳細は無罪を勝ち取ったらってことで!」
「だったら、今は見つかるな! 街道も施設も乗り物も、全て封鎖されているぞ!」
「――了解っス!」
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外は細い裏路地であり、入り組んだ通路だった。
彼はアリスを抱えたまま、誰もいないその通路を走っていく。
一方、部屋に残っていたグレイは、あいている窓を見ながら拳を握りしめ、
「是の奴や……!」
と、古めかしく言った。
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