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ユリエルが目を覚ました。
鉄格子の小さな窓から明かりが漏れてきたから、それで目を覚ませた。
光の加減から言って、もう朝食の時間は過ぎているようである。無論、朝食なんてここには無い。
彼は上体を起こしてから、伸びをした。
「寝床、かってぇなぁ~……」
背中を動かすように、上体を左右へ動かしながらつぶやいた。
――まさか、自分が犯人になるとは思ってもみなかった。
「日頃のおこないが悪かったのかなぁ~……」
しかし、起きたところで何もすることが無い。
昨日は、指名手配犯をどこに匿っているのか、とか、王冠をどこへ運び出すつもりなんだとか、聖女アリスをどこへ監禁しているんだとか、有ること無いことを根掘り葉掘り訊かれた。
知るわけないから、最終的には黙っていたけれど、そのせいか少々疲れが残っている。
ユリエルは、せっかくだからと寝転がり、二度寝する準備を整えた。
「ハァ~……」
――アリスは無事なのだろうか。
彼女のことは考えないでおこう…… そんな風に思うと、余計に安否が気になって仕方なかった。
「大丈夫、大丈夫。俺が気にしても仕方ないって……」
そう言って、ユリエルが目を閉じた。
しばらくすると、カツカツ足音がしてきた。
妙に間隔が狭いから、走ってきているように聞こえる。
足音が最大音量となって、ピタリと止んだ。
「ユリエル君……!」
彼の目が見開く。
パッと起き上がって、鉄格子の向こう側の廊下を見やる。
そこには小さな女の子――アリスがいた。格子をつかんで、こちらを見ている。
「大丈夫……?!」
「え……? あれ? えぇっ……?!」
「話はあと……!」
そう言って、アリスが持っていた鍵を、扉の錠前に合わせていく。
「合った……!」
次の瞬間、パチンと鍵が解かれて、甲高く耳障りな音を鳴らしながら格子扉が開いた。
「ほら、早く来て!」
「い、いやいやいや! 脱獄は不味いって!」
「いいから来るのッ!」
アリスが牢屋へ入って、ユリエルを引っ張った。
子供にねだられる父親みたく、引っ張り起こされたユリエルが、アリスにそのまま引っ張られて牢屋の外に出た。
「ど、どういうこと? 鍵とか、どうやって手に入れたの? 看守は……?」
「分からないけど、とにかく脱出! ここから安全に出る方法とか無いの?!」
「えっと…… それもそうか……」
ユリエルが少し考えてから、
「看守、ひょっとして気絶させたとか?」
アリスが首を横に振って、「なんか、もう寝てた」と言った。
「寝てた……? まさか、誰かに?」
「そんなことは後回し! どうするか考えてよ、ユリエル君!」
「どうするって……」
ユリエルが周囲を見渡す。
特に使えそうな物が無いから、看守のところへ行こうと言って、アリスと共に看守がいるであろう管理室へと向かった。
誰もいない牢屋が両脇に並ぶ中を走って、つき当たりにある道を曲がって、階段を登っていく。
やはり鉄格子の扉があいていて、看守が二人、机の上に上体を預けるようにして眠っていた。
「――本当に眠ってる」
「誰がやったのか気になるし、これも罠かもしれないけど…… 身動きが取れないんじゃ、無実を証明することもできないでしょ?」
「まぁ…… 確かにそうだけどさ……」
「お願い、ユリエル君」
アリスがユリエルの手を力一杯に握った。
「諦めず、一緒に来て……!」
しばらく彼女を見下ろしていたユリエルが、根負けして溜息をついた。
「――分かった。ひとまず脱獄を優先しよう」
やっと、アリスの顔が焦燥から解放された。
ユリエルは周囲を一瞥し、
「もう、これしかなさそうだ。――無茶するけど、いいか?」
アリスが力強くうなずいた。
鉄格子の小さな窓から明かりが漏れてきたから、それで目を覚ませた。
光の加減から言って、もう朝食の時間は過ぎているようである。無論、朝食なんてここには無い。
彼は上体を起こしてから、伸びをした。
「寝床、かってぇなぁ~……」
背中を動かすように、上体を左右へ動かしながらつぶやいた。
――まさか、自分が犯人になるとは思ってもみなかった。
「日頃のおこないが悪かったのかなぁ~……」
しかし、起きたところで何もすることが無い。
昨日は、指名手配犯をどこに匿っているのか、とか、王冠をどこへ運び出すつもりなんだとか、聖女アリスをどこへ監禁しているんだとか、有ること無いことを根掘り葉掘り訊かれた。
知るわけないから、最終的には黙っていたけれど、そのせいか少々疲れが残っている。
ユリエルは、せっかくだからと寝転がり、二度寝する準備を整えた。
「ハァ~……」
――アリスは無事なのだろうか。
彼女のことは考えないでおこう…… そんな風に思うと、余計に安否が気になって仕方なかった。
「大丈夫、大丈夫。俺が気にしても仕方ないって……」
そう言って、ユリエルが目を閉じた。
しばらくすると、カツカツ足音がしてきた。
妙に間隔が狭いから、走ってきているように聞こえる。
足音が最大音量となって、ピタリと止んだ。
「ユリエル君……!」
彼の目が見開く。
パッと起き上がって、鉄格子の向こう側の廊下を見やる。
そこには小さな女の子――アリスがいた。格子をつかんで、こちらを見ている。
「大丈夫……?!」
「え……? あれ? えぇっ……?!」
「話はあと……!」
そう言って、アリスが持っていた鍵を、扉の錠前に合わせていく。
「合った……!」
次の瞬間、パチンと鍵が解かれて、甲高く耳障りな音を鳴らしながら格子扉が開いた。
「ほら、早く来て!」
「い、いやいやいや! 脱獄は不味いって!」
「いいから来るのッ!」
アリスが牢屋へ入って、ユリエルを引っ張った。
子供にねだられる父親みたく、引っ張り起こされたユリエルが、アリスにそのまま引っ張られて牢屋の外に出た。
「ど、どういうこと? 鍵とか、どうやって手に入れたの? 看守は……?」
「分からないけど、とにかく脱出! ここから安全に出る方法とか無いの?!」
「えっと…… それもそうか……」
ユリエルが少し考えてから、
「看守、ひょっとして気絶させたとか?」
アリスが首を横に振って、「なんか、もう寝てた」と言った。
「寝てた……? まさか、誰かに?」
「そんなことは後回し! どうするか考えてよ、ユリエル君!」
「どうするって……」
ユリエルが周囲を見渡す。
特に使えそうな物が無いから、看守のところへ行こうと言って、アリスと共に看守がいるであろう管理室へと向かった。
誰もいない牢屋が両脇に並ぶ中を走って、つき当たりにある道を曲がって、階段を登っていく。
やはり鉄格子の扉があいていて、看守が二人、机の上に上体を預けるようにして眠っていた。
「――本当に眠ってる」
「誰がやったのか気になるし、これも罠かもしれないけど…… 身動きが取れないんじゃ、無実を証明することもできないでしょ?」
「まぁ…… 確かにそうだけどさ……」
「お願い、ユリエル君」
アリスがユリエルの手を力一杯に握った。
「諦めず、一緒に来て……!」
しばらく彼女を見下ろしていたユリエルが、根負けして溜息をついた。
「――分かった。ひとまず脱獄を優先しよう」
やっと、アリスの顔が焦燥から解放された。
ユリエルは周囲を一瞥し、
「もう、これしかなさそうだ。――無茶するけど、いいか?」
アリスが力強くうなずいた。
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