聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 翌日となる。

 聖女アリスの失踪とユリエルの逮捕は、大司祭のマグニーと大司教のシェーンにだけ伝えられ、奉納祭までの定時礼拝と前夜祭の挨拶は、シェーンが代役でおこなうことが内々で決められた。

 彼は、じきに奉納祭であり、それまでにアリスが見つからなかった場合を想定し、グレイや他の人々にも正しく公表すべきだと主張した。が、マグニーや他の司祭、神職者たちがそれを許さなかった。

 大聖堂側としては、一〇〇〇年ほどの歴史において始めて起こったであろう内部不祥事を、内々でみ消す方向にかじを切っていた。

 事の真相を知ろうと、シェーンはユリエルと住所不定の女の子――アリスとの面会を求めて、詰め所へ向かった。が、捜査中の容疑者と重要参考人に会わせるわけにはいかないと、玄関口で丁重ていちょうに断られた。

 すると……

「シェーン大司教?」

 彼が振り返ると、そばにライールがいた。

「確か君は……」
「どうかしましたか?」
「ええ、まぁ……」
「――せっかくです、一緒に朝食でもどうですか? 帰りは、私がお送りします」

 シェーンが口角をあげた。

「いいですな、あなたと一緒なら護衛も必要なさそうですよ」
「では、よろしくお願い致します」

 そう言って、彼はシェーンと共に歩き出した。

「すぐそこに、美味しいお店があるんですよ」
「あそこの喫茶きっさ店でしょうか?」
「そうそう。――いつもは奉納祭が終わった後に行くんだがねぇ」
「実は、そのことについて少々お話を聞かせ頂ければと……」
「ふむ。私も君にきたいことがあったんだ。いいかね?」
「むしろ、丁度よかったと言うものです」

 二人が店内へと入る。

「シェーン大司教……」

 と、困惑したライールが言った。

「扉に準備中というふだがありましたが……」
「逆に、他のお客がおらんということですよ。――やぁ、元気かい?」

 シェーンが手をあげつつ呼びかけると、店主らしき人物が応えるように手をあげ、

「今日は随分ずいぶんと若いお友達をお連れなさったようで」
「今から護衛してくださる、ベリンガールの近衛騎士このえきし様じゃよ。少々、話がしたくてね」

「分かりました。いつもの朝食でいいですか?」
「お願いしますよ。――君も同じでいいかな?」
「ええ、構いません」
「よっこいしょ…… 君もお座りなさい」
「では、失礼します」

 一礼したライールが、椅子いすに腰掛けた。
 そのとき丁度、奥から店主が出てきて、

「どうぞ」

 と、飲み物を置いた。

「ありがとうございます」
「悪いね」

 シェーンはそう言ってから、厨房ちゅうぼうへ戻っていく店主を眺めつつ、

「どちらから話をしようかね?」と尋ねる。
「私の方は完全に私用ですので、シェーン大司教からお先にどうぞ」
「じゃあ、尋ねさせてもらおうかな」

 飲み物を口にしてから、シェーンが話をし始めた。

「君は、四半期ほど前に起こった事件の事後処理として、この地方にやって来たと言っていたね?」
「その通りです」

「事後処理というのは、具体的にどういうモノなのかな? お目に掛かったときは、それほど心配するようなことではないと言っていたようだけど」

「他言無用でお願いできますか?」
「無論。私も同じく、他言無用にして頂きたい」
「了解致しました。――おっと、その前に朝食が来そうですね」

 シェーンが厨房ちゅうぼうのある方へ目を向けると、店主が厨房暖簾ちゅうぼう のれんを分けながら現れた。

「お待たせしました」
「ありがとう」
「いつもながら、美味しそうだねぇ」
「ありがとうございます。――奥にいますので、何かあればお呼びください」
「そうするよ」

 一礼した店主が奥へと引っ込むと、シェーンが「頂きます」と言うから、ライールも同じように、頂きますと告げた。
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