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しおりを挟むハロルドは鋭い視線でユリエルを見やっている。
ユリエルは何を言っているんだという目で見返している。
「ユリエル」
ハロルドがようやく、低い声音で言った。
「お前、今日は本当に、ずっとアリス様を捜していたんだな?」
「あ、当たり前でしょ!? 何を言ってるんスかッ?!」
ハロルドが、木箱の中にある王冠を取り出して、机の上に置いた。
「実はな、これは偽物だ」
「にせ…… えっ?」
「正確に言うと、この木箱だけが本物であり、見つかった代物だ。お前が引っ掛かるかどうかを試すために、王冠は美術館から借りてきた」
「まさか、ハロルドさん……!」
「ああ、俺はお前が犯人だと思っている」
また沈黙が流れた。
「いくつか気になる証言もあったし、お前がアリス様を子供にして、連れ出している可能性も考えた」
「俺がそんな――」
「嘘をつくなッ!」
ぴしゃりとハロルドが抑えた。
「粉物屋台の店主から、お前が少女を連れて食べに来ていたという証言があった。その少女は誰だ? 迷子か?」
ユリエルは答えられなかった。
「次に、串刺し遊びの屋台で、金髪の少女とゲームに興じていたそうだな? 目撃者も多数だ。それから、お前が少女を連れて大聖堂へ向かったと言う証言もあった。
ちなみに、その少女は金髪のワンサイドアップ…… つまり、髪を片側にだけ結ってある髪型をしていたらしい。えらくアリス様に近い髪型をしているじゃあないか」
ユリエルは何も言えない。
「次に、その髪型の少女が何者かに追われたって話を、ベリンガールの近衛騎士から聞いた。
そいつの話では、お前が連れて帰ったそうだが…… どこへ連れていった?」
ユリエルは押し黙ったままだ。
「極めつけに、今日だ。お前が闇夜に紛れるように大聖堂の墓地へ向かったのを、俺が確認した。
――何をしに行った? 墓地で会っていた男と、どんな話をしていた?」
そう言って、ハロルドが立ちあがる。
ユリエルも反射的に立ちあがった。
「俺はお前を、多少は買ってたんだぞ?
それなのに、護衛兵にあるまじき行動をたの数々を取った。なぜだ?」
「確かに」とユリエル「アリスと祭りに出掛けたのは事実だし、今日、酔った勢いで霊廟に行ったのも事実だ。でも、俺はそこで妙な二人組が会話しているのを聞いた」
「当事者なんだから当たり前だろう?」
「違うッ!」と、ユリエルが手を払った。「俺も知らない連中だッ!」
「じゃあ、どんな会話だった?」
「何か、効果抜群の物がどうとか、量産がどうとか……
あと、聖女がどうとかって言ってた。間違いなく、その二人組が誘拐や王冠の盗難に関わってる!」
「なるほど…… じゃあ、詳細は後で聞くことにしよう。そろそろ、到着する時刻だからな」
ハロルドが机の上の懐中時計を拾いあげながら言った。
ユリエルは身構えたが、ハロルドは次いで木箱を拾いあげると、玄関の方へと向かい、扉を開いた。
――ぞろぞろと警備兵たちが入ってくる。
先頭に立っているのは、警備隊長だった。
「ユリエル。大聖堂にあるお前の衣装箱から、こんな物が見つかった」
彼は懐から布袋を取り出し、その袋の中から、畳んだ紙切れを出してきた。
「鑑識官によると、これは特定の条件で揮発し、意識を昏睡させる薬物らしい」
「お、俺はそんなもの、持ち込んだ覚えないぞ……?!」
「だが、お前の衣装箱にあって、しかも使用された形跡があった」
「使用だって?」
「アリス様の部屋だ」
ユリエルは驚いた顔をした。
「ハロルドさんの持っているこの木箱から、薬物が使用されたという反応が出た。エルエッサムでよく作られているタイプの、睡眠導入剤の錬成版だ」
「大方、例の詐欺師から購入したんだろう」とハロルド。
「待てよ! 俺はそんなもの、買った覚えなんかないぞッ!?」
「隠し通路の存在、なんで黙ってた?」
いきなりハロルドが言った。
不意打ちを食らったユリエルが、言葉を出せなくなる。
「お前、今日はグレイ様に無礼を働いて、決闘の寸前までいったらしいな? その話を聞いたとき、グレイ様からお聞きしたんだ。
――アリス様が大聖堂からいなくなったから、司教の部屋から誰にも知られずに脱出する方法があるのかどうか」
「…………」
「あの隠し通路は、司教たちだけの口伝で伝えられてきたものらしい。
だが、お前はアリス様から聞かされていたか、実際に見たんだろ? アリス様を墓地へ送ったときにでも。
それか、今日の晩に墓地へ行ったのは、部屋に置き忘れた薬物の処理のためか?」
「ち、ちが――」
「待ってッ!!」
ついに、アリスがクローゼットから飛び出してきた。
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