聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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「お前、奉納祭の期間中は詰め所に出入りしてるから、見たことくらいはあるんじゃないか? ベリンガールから来たとかいう近衛このえ騎士と、その付き人の女を」

「あ、ああ…… 確かにいたっスね。挨拶あいさつしたことあって、名前も知ってるっスよ」

 ユリエルは、少しだけ曖昧あいまいにして返した。
 ガッツリ知っていると言うと、説明が必要になって面倒になると思ったからだ。

「その二人は」と、ハロルド。「ちょっと前に起こった反社会組織の事件の事後処理として、ここへ来ているらしい」

「へ、へぇ~…… 道理で、たたずまいがすごいと思ったっス」
「まぁ、お前に他国の世情を理解しろとは言わない。問題は、その二人がどうしてこの町に来たかだ」

「事後処理って言ってたっスよね?」
「つまりは、この町に反社会組織とつながりのある、何かがあるってことだろ?」

 口を開いたユリエルが、そのまま何も言えずに半開きのままとなった。

「夜間に子供を付け狙う連中がいるって話…… お前も知ってるよな?」
「そっちは知ってるっスよ? でも、まさか……」
「多分な。反社会組織とつながってるヤツらが、子供を狙ったのかもしれない」
「で、でもなんでっスか? 何が狙いで……?」

「子供兵に仕立てるつもりなのか、身代金が目当てなのか…… その辺りはなんとも言えないが、どうもロンデロントで何かしていたらしい。
 それで向こうに居づらくなって、ここへ逃げてきたようだ」

「よくそんな情報……」
「俺は実質、大司祭と似たような立場にいるからな。それに、余所者よそものについての情報を聞き出すのは、カントランドの連中を調べるよりも簡単だ」

「なるほどなぁ」
「――で、だ。あの二人は、その指名手配犯を捜している。そして、潜伏先を調べたら王冠の入ったが見つかったらしい」

「え? じゃあ、なんでハロルドさんが持ってるんスか?」
「俺が詰め所から預かったんだ。警備隊長と色々、話をしてな」
「それで、指名手配犯ってのは捕まったんスか?」

「いや、まだらしい。隠れるのがうまいみたいでな。警備隊長によると、仲間がもう一人いるようで、そいつがまた切れ者で厄介って話だ」

 ――良かった。

 ユリエルはそう思って安堵あんどする。
 なぜなら、霊廟れいびょうで話しをしていた二人組が、その仲間と指名手配犯の二人だったということになるからだ。

「その仲間って、どんなヤツなんスか?」
「エルエッサムで指名手配になってる、有名な詐欺師らしい。ジャナスって名前らしいが、ここでは偽名を使っているだろうな」

「奉納祭の最中に来るなんて、面倒な野郎っスね」
に来てるんだろう。そう言えば、特に怪しいこともない」
「でも、なんで王冠なんか?」

「闇市で売るつもりだったのかもな。――国宝の王冠だ。下手すれば一生、遊んで暮らせるくらいの額を請求できる」

「そんな金を積むとか、想像しにくいっス……」
「エルエッサムからすれば、元々は自分たちの物だっていう思いもあるかもしれんしな」
「あぁ~…… そういうやからに売るってことっスか?」

「むしろ、依頼されたのかもしれない。そこは色々と考えられるが……
 問題は、王冠を持ち出したのはアリス様で、そのうち、王冠が戻ってきたってことだ。――そうだろ?」

 ユリエルが何度かうなずいた。

「アリス様がその男たちに捕まっていたからこそ、お前が町中を探し回っても見つからず、こんな晩遅くに、男の潜伏先でこの王冠が発見されて、俺たちの手元に戻ってきた。違うか?」

「そうなるっス」
「だとすると、アリス様がのは、なぜだと思う?」

「えっと…… なぜっスか?」
「男に連れ去られたか、一人で脱出したか、二つに一つってことだ」

 ――やっぱり鋭いと、ユリエルは思った。

 ハロルドは、なおも話し続けた。

「どちらの場合でも、状況は最悪だ。男に連れ去られた場合、安否不明で相当にヤバい。脱出しているなら、今は一人だ…… それもヤバい状態と言える」

「一つ気になってるんスけど」とユリエル。「王冠を見つけたのが警備兵たちと、ベリンガールの近衛騎士だったとしたら、もう事情が割れてるってことっスか?」

「少なくとも、王女が子供になっているという部分は守られている」
「そ、そうっスか…… じゃあ、王冠だけが無くなったってことに?」
「それで今、もう一つヤバい事態が起こっている」
「ま~だあるんスか……」
「お前が王冠を盗んだ人間ってことで、疑われている」
「えっ……?」

 長い沈黙に落ちた。
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