聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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「ど、どうしたんスか?」

 ユリエルが驚きながらハロルドへ尋ねた。

「それはこっちの台詞だ。なんだ? その格好」

 ユリエルは自分の服装を見やる。

 ――そう言えば、服を裏返しに着ていたんだった。

「え~っと…… これはっスね」
「飲んでるのか?」
「え、ええ、まぁ……」
「お前、護衛兵としての自覚あるのか?」
「その話、もうさんざんされたんで勘弁してほしいっス……」

 ハロルドが溜息をつきつつ、

「着替えてこい。ちょっと話があるから」
「は、話って?」
「お前、結局はアリス様を見つけられてないんだよな?」
「そ、そうッスね…… まだっス」

「ったく…… それで呑兵衛のんべえか? お前は本当に、アリス様のことになると精神がおかしくなるな」

「元々こんなもんッスよ。俺、優等生でも才能があるってワケでもなかったし……」
「とりあえず、さっさと着替えてこい。明日まで待ってられるほど、時間的な余裕はないんだ」
「了解っス。ちょっとお待ちを」

 扉を閉めたユリエルが、鍵代わりに、扉のところへ発光ランタンを置いた。それからクローゼットの方へと向かった。

(あけるよ)

 と、ささやいてから、クローゼットを開く。
 中にアリスがいたから、

(着替えるから、ちょっと目を閉じてて)

 言いながらユリエルが上着を脱ぎだすから、アリスはいそいで目を閉じた。
 しばらく布のこすれる音が、部屋に響く。

「よし」

 普段着になったユリエルは、目を閉じているアリスに、

(いいか? 何があっても、絶対に自分から扉をあけたりしないようにな)

 と言ってから、クローゼットの扉を閉めた。
 それから玄関先に置いてあるペーパーナイフをポケットへねじ込んで、玄関の扉の前に置いてあるランタンを、脇へどけてから、

「――お待ち遠様どおさま」と言った。

「やっと来たか……」
「それで、話ってなんスか?」
「ここじゃなんだから、家に入ってもいいか?」

 そう言ったハロルドが、脇に抱えていた木箱を手前に出してきた。

「こいつを手に入れたんで、持って来たんだ」
「なんスか? それ」
「おいおい…… 見覚えくらいあるだろ?」

 ちんぷんかんぷんな顔をするユリエルに、ハロルドがまた溜息をついた。

「ほら、見てみろ」

 彼が箱をあけた。

 ――王冠だ。

 ユリエルはビックリして、思わずハロルドのあけた上蓋うわぶたを抑えつけた。

「――中に入ってもいいか?」
「ど、どうぞっス……」

 ユリエルは下がりながら、ハロルドを招き入れた。


「思ったよりも整理整頓せいとんしてるじゃあないか」

 ハロルドが関心しながら周囲を見渡して言った。

「てっきり独身の男に特有の、ゴミ屋敷の一歩手前みたいな場所だと思っていたが」
「何気にメチャクチャ失礼なこと言うっスよね、ハロルドさん……」
「ひとまず、王冠をここに置かせてもらうぞ?」
「ど、どうぞ」

 ハロルドが卓上の上に木箱を置いた。続いて懐中時計を机の上に置いてから、椅子いすに座った。

「ちょっと長話になるかもしれないから、座らせてもらう。いいか?」
「もちろん、いいっスよ。存分に座ってください」
「「…………」」
「普通、お前も前に座らないか?」
「えっ? あ、俺っスか?」

「家主を放って座ってるなんて、不作法にも程があるだろ? 立ち話は気忙きぜわしいし、頼むから座ってくれ……」

「ゴメンっス!」

 そう言って、ユリエルがササッと座った。
 ハロルドがせき払いで調子を整えてから、話し始める。

「実はな、お前に言っておきたいことがある」
「なんスか? 改まって……」

「俺はもう、最悪の事態を想定している。
 だから、アリス様が王冠の呪いに掛かって、その王冠を持ち出していることを、今から父さんとシェーン大司教、あとはグレイ様にご報告しようと思う」

「…………」
「今から話すのも急なことだが、明日の土壇場どたんばに話すよりはマシだと思ってな。――お前のさっきの姿からすると、アリス様がどこにいるのかさえ、見当も付いてないんじゃないか?」

 帰宅するまではその通りだったから、ユリエルはもくしたままハロルドを見やった。

「王冠はこうして無事に戻ってきた。しかし問題は、ここからなんだ。どうやって戻ってきたのか知りたいだろ?」

「それ! それがメッチャ知りたいっス!」
「結論から言うと、アリス様の身が危ない。この王冠が戻ってきたのには、そういう事情もあるってことは頭に入れておけよ?」

 ユリエルが二度うなずく。
 ハロルドは口角をあげ、

「なんか、いつもと違う感じだな」と言うと、ユリエルが首をかしげた。
「そうっスか?」

「単に俺が、そう感じたってだけの話だ。気にしないでくれ。今から経緯を説明するから、ちゃんと聞いてろよ?」

 そう言って、ハロルドが一呼吸を置いてから話しだした。
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