聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 エリカと別れたユリエルが、家に到着した。
 彼の家は大聖堂からそう遠くない場所にあって、人気もそれほど無い、郊外でも外れの方にある小さな一軒家だった。

 一軒家と言うと聞こえは良いが、人からすると小屋みたいなものである。
 周りに何も無いから、月明かりが無ければかなり暗い。町からも少し離れていて、そこからの明かりも届かない。だから、彼はこの地域特有の明かり――発光石を埋め込んだランタンを腰からぶら下げていた。

 燃料系の発光源よりも安くて、携帯に便利な反面、定期的に石に衝撃を与えないと明かりが消えてしまう不便さがある。

 明かりが消える前にランタンを振って衝撃を与えたユリエルは、ブツブツ言いながら自宅の扉をあけようと鍵を取り出す。

「ん?」

 鍵があいていた。

 閉め忘れたのかと思って、今度はふところからマッチ箱――先端にはりんではなく、この世界特有の発火物が着いた物を取り出す。そうして、側にある小型ランタンへ明かりをともそうと手を伸ばした。

「あれ……?」

 ――小型ランタンが見つからない。

「どこかへやったかな……」

 ユリエルはつぶやきながら、発光石のランタンを掲げた。

 ――確かに、ここへ置いたはずなのに。

「盗まれた……?」

 そう思ったユリエルは、捜しされていないかを調べ始めた。

 食料の貯蔵はあるし、生活用品もそのままで、貴重品が入っている戸棚やタンスも代わりなかった。

「ランタンだけられたのか?」

 ――でも、どうして?

 そう思っていると、背後から気配を感じた。
 振り返ると、誰かが玄関口に立っているのが分かった。
 ユリエルが急いで発光石のランタンを向けてやると、ぼんやりと、女の子の青白い輪郭が見えた。

「あっ……」

 ユリエルが見ていたのは昔、夜の霊廟れいびょうで見た幽霊だった。

 ――何か言いたい。

 捜していたときには、これからどうするのかとか、なんでこんなことになったのかとか、怒ったりとか励ましたりとか、そういうことを考えていた。

 けれども、今のユリエルにそんな気持ちは微塵みじんも湧かなかった。見つかったという安堵しかなかった。

 彼は女の子の近くまで行って、膝をついた。

「捜したっスよ」

 素直に言葉を出す。
 アリスは黙ったまま、うつむいている。

「とにかく、無事で良かったっス」

 彼女はまだ、うつむいたままだった。

「えっと……」

 さすがに困ったユリエルが、苦笑いしながら話し続けた。

「酒臭いのはッスね、ちょっと気晴らしに飲んできちゃって……! えっと……」

 やはり、会話が続かない。
 なおも困ったユリエルが、

「お、おなかとかすいて無いっスか?」

 と言うと、アリスが急に彼へ抱きついた。
 驚いたユリエルだったが、すぐ真顔になる。

「ゴメンなさい、ゴメンなさい……!」

 泣きながら必死に謝ってくるアリスに、ユリエルは掛ける言葉が見つからなかった。
 それでも、何か言葉を掛けなければならない……
 胸元でずっと謝ってくるから、

「俺に謝られても、困るだけだよ」と言った。

 アリスは謝るのをやめて、黙ってしまった。
 ユリエルは自然に昔っぽい言い回しになっていたことに気付いたから、このまま、昔のように話掛けようと思った。

「なんか、霊廟れいびょうで泣いてたときを思い出したよ。――あのときは一目散に逃げられたけど」

 アリスがやっと、顔を見せてくれた。
 ユリエルは笑みをこぼし、

「懐かしいだろ?」と言った。

 彼女はジッと、彼を見上げている。

「あのときは俺も悪ガキで、面白そうだからって…… あの後、毎日アリスに会いに行ってたっけな」
「…………」
「とりあえず、メシ喰おうぜ、メシ。今からだと簡単な物しか用意できないけど」

 そう言って、ユリエルがアリスの頭を撫でた。
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