聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 エリカは腰に手をやって、

「それは不味まずいわね」と言った。
「俺、ねえさんが元に戻ったら責任を取るつもりっス! でも、とにかく奉納祭までに見つけて、元に戻さないと……!」

「落ち着いて、声が大きいから」

 ユリエルがまた、口を両手で覆った。

「きっと、その王冠は魔導具で間違いないと思う。問題は、ずっと効果が続くって点だけど…… まぁ、やるだけやってみましょうか」

「えっ! ひょっとしてどうにか出来ちゃったりするんスか……?!」
「分からない。もしかすると、どうにもならないかもしれないから、そこは覚悟しておくようにね」

「うっ…… 分かったっス……」
「アリスさんが見つかったら、王冠と一緒にあたしのところへ連れて来て。ライールと詰め所の近くにある宿を借りてるから」

「あの人も、王冠のこと知ってたんスか?」
「えっ? 知らないと思うけど?」

 ユリエルが目を細めた。

「じゃあ、アレは本当にそう思って言っただけ……」
「どうかした?」
「い、いや、なんでも無いっスよ。こっちのことっス」

 と言ってから、「あっ!」と思い出したように言った。

「何?」
「じ、実はその、霊廟れいびょうの方に不審な二人組がいたんスよ」

 エリカの視線が鋭くなる。
 ユリエルは少し気圧けおされて、固まった。

「二人組って、姿とか見た?」
「いや…… なんか、取引してたっぽくて…… あと、聖女がどうとか言ってて、ちょっと引っ掛かってるんス」

「取引……」
「やっぱり、ヤバい感じの仕事してるんスか? エリカさんたちって……」
「――さっきも言ったでしょ? あくまでも事後処理よ。それに、取引してたって情報をくれるってことは、あたしたちに詰め所の人へ報告しておいてほしいってことでしょ?」

 ユリエルはバツが悪そうに頭をかいた。

「じゃ、明日には連れてきてね。あたしはまだやることがあるから」
「あ、明日って……! まだどこにいるかも分からないんスよ……?!」
「昨日のこと、忘れたの?」

 エリカがまた腰に手をやった。

「昨日って…… なんスか?」
「危ない目にあった後、一緒に帰る相手にあなたを指名したのよ?」
「あれは、俺が事情を知ってたってだけで……」
「それもあるけど、そうじゃない部分だってあると思うけど?」
「そうじゃない部分??」

 エリカがジッと見つめる。
 それで、ユリエルがあせった。

「とにかく、このまま真っぐに家へ帰ること。後、ねえさんっていう呼び方はやめなさい」

「わ、分かってるんスよ! 俺も聖女様とかアリス様って――」
「ち・が・うッ!」

 妙な間があいた。
 エリカは両腕を組んで、

ねえさん呼びって、昔からそうだったの?」
「まぁ、そうっスね…… 司教になった後、ちょくちょく遊びに行ったとき、一つ年上だって分かったんで」

「じゃあ、最初は呼び捨てだったんだ?」
「そう、っスね…… 恥ずかしながら」
「じゃあ、最初の頃みたいに呼んであげてね」
「え? なんで?」

 エリカがジッとユリエルを見やった。

「あ、はい…… 呼ぶっス」
「じゃあ、また明日。一応、夜道には気を付けてね」
「エリカさんも気を付けてくださいよ? 本当に妙なのが彷徨うろついてるんスから」
「うん、ありがとう」

 ユリエルが一礼し、エリカと正反対の方へと歩いていく。
 振り返ると、そこにはもう彼女の姿は無く、代わりにフクロウみたいな鳥が空を飛んでいた。

「いない……」

 ユリエルは不可思議そうな顔をしつつ、妙な女性だと思いながら帰路に着いた。
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