聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 もうすっかりと日が暮れて、空が真っ赤に染まっている。
 彼は酒場の屋台が並ぶ、通称『飲み屋街』へと向かっていた。
 酒場は昼から飲む者、食堂として利用している者など様々な人たちがいる。
 しかも奉納祭の期間中だから、余計に人が行き交っていて、いつもより活気付いていた。

「――ユリエル?」

 屋台の店主である中年の男性が言った。
 ユリエルは何も言わずに椅子いすへと座り、

「酒くれ」と言った。

「お前、まだ勤務中だろ?」
「もう日が暮れてるし、別にいいんだって」
「どうしたんだ?」
「客が酒ほしいって言ってんだ、酒くれよ、酒」
「バーカ、出せるかって。その身なりの人間に飲酒させたら、うちの店の沽券こけんに関わる」

「どいつも沽券こけん沽券こけん…… 大地の神様から土地もらったって契約書でもあるのかよ。勝手に住み着いてるだけなのに……」

「やけに荒れてんなぁ…… どうした? 聖女様にこっぴどくしかられでもしたか?」
「そんなので怒るわけないじゃん……」
「お前にとってはご褒美だもんな?」
「それはそれで違う……!」
「じゃあなんだ? また大司祭ってのと衝突したのか?」

「あと、ねえさんの親父さん……」
「えっ?! グレイ様……?!」
ねえさんのこと、聞きたいだけなのに……! 俺だって一応、ねえさんの護衛兵なのにさ……!」

「まぁ、結構な苦労人だしな、あの人も。簡単に人を信用しないってだけじゃないか?」
「そんなことで決闘しようとするかよ……」
「け、決闘? なんだそれ?」
「気にしないでくれ。こっちのことだから」

「――あっ、そういやさ」と、コップに入れた水をカウンターに置く店主。「聖女様、どうして今日の定時礼拝に現れなかったんだ? ちょっとした話題になってたぞ?」

「――俺も知らねぇよ、それ」
「お前も知らないってことは、司祭連中だけが知ってるってことかねぇ」
「なんにせよ、俺たち下っ端にゃ関係ねぇ話しさ」

 そう言って、ユリエルがコップを持って口に付けた。

「んッ?!」と、コップを置く。「おい! 水じゃねぇかッ!」

「だから、その服のままじゃ出せねぇよ。欲しけりゃ着替えて来いって」

 ユリエルは犬みたいにうなった。
 そして服をその場で脱いでいく。

「お、おいユリエルてめぇッ!?」
「見ろ! ズボン一枚だッ! これで文句ねぇだろッ!?」
「そっちのが大アリだバカ野郎ッ! 変態に成り下がったかッ!!」
「素直に言うことを聞いただけだろッ! 真っ当な紳士じゃねぇかッ!!」

 このあと、警備兵に連行されたのは言うまでも無かった。
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