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しおりを挟む「やはり」と、ハロルドが言った。「アリス様は大聖堂から出ていないみたいだな」
「どこへ行ったんスかね……?」
二人して、アリスの部屋へ入った。
「――おい」
「いたんスか?」
「違う、逆だ」
「逆?」
ハロルドが人差し指を机の方に向けた。
「無くなっているぞ……」
「無くなるって……」
ユリエルがアッと声をあげた。
「お、王冠が……?!」
「クソッ」と、舌打ちするハロルド。「この部屋にいたのか……!」
「どういうことっスか、コレ?!」
「使ってたってことだよ!」
ハロルドが振り返りながら言った。
「アリス様が王冠の呪いをな……!」
――ついにバレた。
ユリエルが固唾をのんで、ハロルドを見やる。
彼は鋭い視線を机に向けつつ、
「仕方ない、ユリエルも手伝え」
「何を……?」
「この部屋に隠れていないかだ!」
そう言って、ハロルドがベッドの下を探し始める。
ユリエルは戸惑いつつも、クローゼットをあけたりした。
――これはもちろん、探すフリである。
頭の中では、隠し扉を使って外へ出たに違いないと考えていて、外へ出ていった彼女を、どうやって見つけるかだけを考えていた。
「いないか……」
ハロルドが立ちあがりながら言った。
元々質素な部屋だから、隠れられそうな場所はおろか、物も無い。
「どうやって外へ出た……?」
「そ、それより!」と、ユリエルが言った。「外へ出ているなら、探しに行った方が良くないっスか?」
「そうだな…… だが、午後から定時礼拝だぞ?」
「もうこうなったら仕方ないっス! 今日は姐…… じゃなくて、アリス様は休みってことにしておくしかないっスよ!」
「そうなると、色々と面倒なことになるぞ……? 王冠は持ち出されてるし、広く知られると本当に不味いことになってしまう……」
「一人だけ、代役ができる人がいるっス」
「――シェーン大司教に頼むって言うのか?」
「今年は早くに来て下さったし、立場上、姐さんよりも上っス。だから、みんな納得してくれると思うっス。
事実を知る人間は極力、少ない方がいいし…… 個人的に、最善だと思うんスけど、他に何かあるっスかね?」
「いや…… 確かにいい考えだと思う」
「じゃあ、マグニー大司祭にはハロルドさん、お願いするっス。俺はシェーン大司教を説得してくるっス!」
「あっ、ちょっと待て!」
すでに走り出していたユリエルが、扉の前で振り返った。
「なんスか?」
「王冠のことだけは黙ってろ。アレが無くなったとするなら、さすがに大司教様も容赦しないだろう」
「じゃあ、なんて言えばいいんスか?」
「俺が考えるより、お前が考えた方がいいと思う。彼女のことは、お前がよく分かってるだろ?」
「いや、でも……」
「無理強いで悪いが、午後の定時礼拝まで時間がない。急ごう」
「そうっスね…… 了解っス!」
二人は部屋を出た。
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