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ユリエルとハロルドが、アリスの部屋の前まで来た。
そして、ハロルドがノックをした。
「アリス様、大丈夫ですか?」
――返事がない。
ハロルドとユリエルが互いを見合った。
「体調、どうなんスか?」
ユリエルがノックしながら言った。
それでも返事がない。
「あけるっスよ?」
しばらく待ってから、ユリエルが扉を開く。
――彼女の姿が見当たらない。
「アリス様~?」
ユリエルが中へ入りながら言った。
ベッドが平らになっているし、形が崩れていないから眠った形跡はないと言える。
だから、ユリエルは怪訝そうに、
「どこかへ行ったんスかね……?」と言った。
「案外、そうかもしれない」
ハロルドが、床に落ちている服を持ち上げながら言った。
「それ…… なんで脱ぎ捨ててあるんスか?」
「分からない」
そう言って、ハロルドが椅子へ服を置いた。
「また王冠を出しっぱなしにしてあるな」
「…………」
ハロルドが片手で王冠を持ちあげつつ、それを色々な角度から見ていた。
「何かあったんスか?」
「ユリエル、お前に訊きたいことがある……」
「な、なんスか?」
「アリス様は、本当に王冠の呪いを使ってないんだよな?」
「前にも言ったっスけど、俺が知るわけ無いっスよ」
「――そう言えば、お前には話してなかったな」
王冠を元の位置に戻したハロルドが、神妙な面持ちで言うから、自然とユリエルも真顔になって、
「話って、なんスか?」と言った。
「子供になる呪いだが、あれは永続化する可能性がある」
「永続化?」
「勝手に子供になって、ずっと子供のままでいるってことだ」
ユリエルが大層、驚いた。
「それ、どういう……」
「図書館で本を借りてきて調べた限りだと、やはりこの王冠は魔導具らしい」
そう言って、彼はバルバランターレンの力と王冠の関係について話してから、王冠の力を使うと、数日以内に子供になってしまう可能性について話した。
「――つまり」とハロルド。「王冠で子供になってしまった日から数えて、今日くらいに子供になっていないなら問題なしだと思う。ただ、何回か子供になっていたのなら話は別だ」
「呪いが定着するってことっスよね……?」
「そうだろうと思う。だから今、この状況がどういうことなのか…… 分かるか?」
「いや…… 全く分からないっス……」
「アリス様が子供になって、一人で外へ出ていったかもしれないってことだ」
「えっ?! なんで?!」
ユリエルは『どうしてバレたのか』という驚きだったろうが、ハロルドは『あり得ないと思い込んでいたから驚いた』と受け取ったらしく、
「午後の定時礼拝もあるのに、今から服を着替えてどこかへ行くと思うか?」
と言ってきたから、ユリエルは話に合わせることに意識を集中させた。
「まさか、さっき言ってた呪いで、勝手に子供になった……?!」
「どうかな。それなら下着も一緒になって落ちていると思うが……」
椅子の上の服を見やりながら、ハロルドが言った。
「そ、それもそうっスね…… 勝手に子供は考え過ぎっスね、うん……」
ユリエルは平静を装いながら言った。
「まぁ、アリス様が部屋を散らかす性格をしているとは思えないのも事実だな……
とにかく、服を着替えて出ていったというのなら、目に付くから衛兵や神職者に見られているだろう。ちょっと聞き込みをしてみよう」
「分かったっス!」
二人が部屋の外へ出た。
間があいてから、クローゼットが開いて、こっそり子供のアリスが出てくる。
彼女はいつの間にか、花火を見に行ったときに身に付けていた服を着ていた。が、それも今やブカブカで着られたものではない。身長も、あのときから二十センチかそこらくらい下がっているのだろう。
彼女は王冠の側へ行って、解呪の言葉を唱えた。
しかし、何も起こらない。
アリスは頭の中が真っ白になった。
――とにかく、二人が戻ってくる前に外へ出て行かなければならない。
卒倒しそうなのを堪えたアリスは、なんでもいいからと、服を見繕い始めた。
すると、クローゼットの中に子供時代の服があった。
この服は、司教になるための修練を始める直前に着ていたものだ。
少し色あせているし、古い服だけど……
「着られるかな……」
アリスはその場でさっさと着替え始めた。
意外と体に合っていたから、もうこれでいいやと判断して、財布をポケットへねじ込んでから、隠し扉の方へ向かおうとする。
――王冠が目に留まった。
ひょっとすると、何かの拍子で元に戻るかもしれない……
アリスは一縷の望みを持ち、王冠を箱に入れると、箱ごと持ち去った。
そして、ハロルドがノックをした。
「アリス様、大丈夫ですか?」
――返事がない。
ハロルドとユリエルが互いを見合った。
「体調、どうなんスか?」
ユリエルがノックしながら言った。
それでも返事がない。
「あけるっスよ?」
しばらく待ってから、ユリエルが扉を開く。
――彼女の姿が見当たらない。
「アリス様~?」
ユリエルが中へ入りながら言った。
ベッドが平らになっているし、形が崩れていないから眠った形跡はないと言える。
だから、ユリエルは怪訝そうに、
「どこかへ行ったんスかね……?」と言った。
「案外、そうかもしれない」
ハロルドが、床に落ちている服を持ち上げながら言った。
「それ…… なんで脱ぎ捨ててあるんスか?」
「分からない」
そう言って、ハロルドが椅子へ服を置いた。
「また王冠を出しっぱなしにしてあるな」
「…………」
ハロルドが片手で王冠を持ちあげつつ、それを色々な角度から見ていた。
「何かあったんスか?」
「ユリエル、お前に訊きたいことがある……」
「な、なんスか?」
「アリス様は、本当に王冠の呪いを使ってないんだよな?」
「前にも言ったっスけど、俺が知るわけ無いっスよ」
「――そう言えば、お前には話してなかったな」
王冠を元の位置に戻したハロルドが、神妙な面持ちで言うから、自然とユリエルも真顔になって、
「話って、なんスか?」と言った。
「子供になる呪いだが、あれは永続化する可能性がある」
「永続化?」
「勝手に子供になって、ずっと子供のままでいるってことだ」
ユリエルが大層、驚いた。
「それ、どういう……」
「図書館で本を借りてきて調べた限りだと、やはりこの王冠は魔導具らしい」
そう言って、彼はバルバランターレンの力と王冠の関係について話してから、王冠の力を使うと、数日以内に子供になってしまう可能性について話した。
「――つまり」とハロルド。「王冠で子供になってしまった日から数えて、今日くらいに子供になっていないなら問題なしだと思う。ただ、何回か子供になっていたのなら話は別だ」
「呪いが定着するってことっスよね……?」
「そうだろうと思う。だから今、この状況がどういうことなのか…… 分かるか?」
「いや…… 全く分からないっス……」
「アリス様が子供になって、一人で外へ出ていったかもしれないってことだ」
「えっ?! なんで?!」
ユリエルは『どうしてバレたのか』という驚きだったろうが、ハロルドは『あり得ないと思い込んでいたから驚いた』と受け取ったらしく、
「午後の定時礼拝もあるのに、今から服を着替えてどこかへ行くと思うか?」
と言ってきたから、ユリエルは話に合わせることに意識を集中させた。
「まさか、さっき言ってた呪いで、勝手に子供になった……?!」
「どうかな。それなら下着も一緒になって落ちていると思うが……」
椅子の上の服を見やりながら、ハロルドが言った。
「そ、それもそうっスね…… 勝手に子供は考え過ぎっスね、うん……」
ユリエルは平静を装いながら言った。
「まぁ、アリス様が部屋を散らかす性格をしているとは思えないのも事実だな……
とにかく、服を着替えて出ていったというのなら、目に付くから衛兵や神職者に見られているだろう。ちょっと聞き込みをしてみよう」
「分かったっス!」
二人が部屋の外へ出た。
間があいてから、クローゼットが開いて、こっそり子供のアリスが出てくる。
彼女はいつの間にか、花火を見に行ったときに身に付けていた服を着ていた。が、それも今やブカブカで着られたものではない。身長も、あのときから二十センチかそこらくらい下がっているのだろう。
彼女は王冠の側へ行って、解呪の言葉を唱えた。
しかし、何も起こらない。
アリスは頭の中が真っ白になった。
――とにかく、二人が戻ってくる前に外へ出て行かなければならない。
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「着られるかな……」
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意外と体に合っていたから、もうこれでいいやと判断して、財布をポケットへねじ込んでから、隠し扉の方へ向かおうとする。
――王冠が目に留まった。
ひょっとすると、何かの拍子で元に戻るかもしれない……
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