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しおりを挟むさすがのアリスも動揺していた。
ハロルドは当然、見逃してはくれない。
「そこまで動揺することですか?」
「あ、当たり前でしょう! 私が預かっている王冠が、いつ呪いが暴発するか分からない代物ということでしょう?!」
「安心してください。英傑バルバランターレンの力によって、呪いの暴走などは起こらないようにされていると考えられます」
「それは、おとぎ話の中での話じゃないですか!」
「子供になる話だけが本当である、というのも、可能性としては低いと思いますが?」
アリスが黙った。
「現に、アリス様に王冠が受け継がれるまでのあいだ、一度たりとも子供になってしまったというような記録は存在しておりません」
「残さなかっただけで、現実にあったかもしれないでしょう?」
「それは否定しません。ただ、可能性は非常に低いです。
なぜなら、そのような奇妙な事態が発生したなら、確実に伝記や伝承として残されるからです。
しかも幸いなことに、我が大聖堂には、建立から今に至るまでの記録…… 千年の記録が、全て保管されております。
呪いなんて事態が起こったなら、確実に記録に残されているでしょう」
「では…… 何が原因で?」
「確か、解呪するときに何かをしていましたよね? それが原因かもしれません」
ハロルドはそう言って、彼女の前へ歩み寄った。
「何をしていましたか?」
「な、何をって…… おまじない、ですよ」
「――なるほど、それが鍵だったわけですか」
ハロルドは背を向けつつ言った。
「まぁ、別にいいのです。アリス様があれ以降、呪いを使ったりしていないのなら」
「そ、そうですね…… 恐ろしいことです…… 一生、子供のままになっていたのですね……」
「しかも、勝手に子供にしてくる可能性が高かったでしょう」
「えっ?」
「元々、王冠はあり余る力を押さえつけるための代物……
先程も言ったように、永続効果を持っている可能性が高いのです。
つまりこれは…… よほどのことで無い限り、子供になる効果が勝手に付与され続ける、ということで……
もっと言うと、ある日突然、子供にされてしまうかもしれない、ということに繋がるのではと」
アリスの顔が強張っていた。
「資料からの見立てになりますが、おそらく、数日中にその作用が始まるのでは無いかと思われます」
「数日中……」
「あの日から三日ほどたっていますから、問題は無さそうですね。
――あの日だけ、子供になったと言うのなら」
「つ、使っていませんよ! しつこいですよハロルドさん!」
「そうですね、失礼をお許し下さい」
彼は頭を下げつつ言った。
「アリス様にもしものことがあっては、義父のマグニーもただでは済まなくて…… 下手をすると極刑もあり得ますから」
「極刑なんて、そんな大袈裟な……!」
「いえ、過去に何度かあります。
――表に出ていないだけで、こっそり記録が取られていますので。
興味があるなら、確認できますよ?
負の側面を知るのも、過ちを繰り返さないために必要なことなのです」
「…………」
「アリス様、僕は本当にあなたが司教で良かったと思っています。他の人間なら、きっと面白半分で幼児化の呪いを使ったかもしれませんからね」
ハロルドが微笑みながら言ってから、ポケットに入っている懐中時計を取り出した。
「そろそろ、定時礼拝の時間ですね。僕はユリエルに伝えて来ますので、アリス様はこのまま大聖堂へお戻りください」
「ええ…… ありがとう……」
「では、失礼致します」
目礼したハロルドが、アリスの横を通り過ぎて、部屋から出て行った。
後に残されたアリスは、うつむいて、視線を泳がせていた。
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