聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 アリスを引き取ったユリエルが、彼女を連れて議事堂へと向かった。

 途次みちすがら、二人とも無言であった。
 夜の明るい町から声が聞こえてくるけれど、それ以外は普段通りの暗い町並であった。

「――あの」

 ユリエルを見上げたアリスが言った。

「怒ってるよね?」
「そうっスねぇ~……」

 ユリエルが横目でアリスを見下ろす。
 アリスは目をそらしていた。

「怒ってるっスけど、無事で良かったって思いの方がまさってるっス」
「ごめんなさい……」
「――なんか、ねえさん変わったよね」
「えっ?」
「王冠の呪いが影響したんだと思うんスけど…… こう、昔の感じに戻ってきてるっスよね?」
「そうかな……?」
「俺の勝手な想像っスけど、積年の渇望かつぼうが爆発してる感じがするっス」

 そう言ってから、ユリエルは正面を向いた。

「ただ、もう呪いを使うのはやめるべきっス。
 追われるからとかじゃなくって、どうなるのか未知数だからってのと、この時期に何かあったら、せっかくここまで耐えてきたものが無駄になるっス。
 それはねえさんも望んでないっスよね?」

「――分からない」

 ユリエルの足が止まった。だから、アリスも止まった。
 だけど、アリスは前を向いたままである。
 ユリエルは彼女の小さな背中を見つめていた。

「私」と、アリス。「昔は、拾って下さったお父様のためにって、そればかり考えていた…… でも、お父様は私に感心があるようには見えない……」

「それで、もうやめたくなったんスか?」
「分かってるんでしょ?!」

 アリスが横顔を見せつつ言った。

「私、そんなに立派でも強くも無いの……! 何か見返りがないと頑張れないのよ……! なんでもかんでも奉仕の精神で頑張れだなんて、無理なのッ! 褒めてほしいし、みんなが遊んでるなら私も一緒になって遊んだり、花火を見たりしたいのッ!」

 沈黙が支配した。

「――俺は」と言ったユリエルが、アリスの隣まで歩いた。

ねえさんの意見を尊重するっスよ。
 だって、ねえさんの人生を誰かが勝手に掌握してるのって変っスからね」

「…………」
「ただ、奉納祭だけは終わらせてほしいっス。みんな一生懸命に準備してきたから。そこだけは譲れないっス」

「――やっぱり、そうなんだ」

 か細い声で、アリスが言った。

「もっと色々と話したいっスけど、誰かに見られる前に戻るっス」
「うん……」

 アリスが、ユリエルの手を握る。
 それが意外に思えたのか、ユリエルが驚いた顔でアリスを見下ろす。
 彼女は前を向いたままだった。

「じゃ、じゃあ…… 戻るっス」

 二人は兄妹みたいに並んで、夜道を歩いた。
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