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しおりを挟むユリエルが治安警備隊の詰め所から出ると、
「ちょっと待ってくれ!」
と言う声がした。
男性が駆け寄ってきて、
「ユリエル君…… だったよな?」
「え~っと…… 確か、ベリンガールの凄い騎士さんっスよね?」
「凄いかは分からないが…… 名前をライールと言う。よろしく」
「あっ、すみません」と苦笑うユリエル。「俺、頭悪いんで人の名前とかすぐ忘れちゃって……」
「急なことで申し訳ないが、一緒に来てほしいんだ」
「飲み会っスか?」
「違う」
「えっ、じゃあ俺なんかになんの用が……?」
「迷子の子を見つけてな。その子がお前じゃないとイヤだと言うんだ」
「あ~…… 了解っス」
「悪いな」と言って、ライールが歩き始めた。
ユリエルも彼に付いて歩く。
「えっと、俺より先輩…… で、いいんスよね?」
「そうだ」
「あのときはゴメンなさいっス。てっきり、あの可愛らしい女性と同い年かと思っちゃって……」
「過ぎたことだ。もう気にしていない」
「そういえば、あの人とは一緒じゃないんスか?」
「子供と一緒にいてもらっている」
「あ~…… そりゃどうも、お手数掛けるっス」
「いや、いいんだが……」
「ん? なんスか?」
「お前、この近辺で子供を付け狙う連中が出没してるって噂、知ってるんだよな?」
「知ってるも何も、とんでもねぇ野郎っスよ……!」
ユリエルが拳を握りしめながら言った。
「今のところ、付けられただけって話っスけど、何をしでかすか分かったモンじゃないっス!」
「人相なんかの情報は、もう出そろってるのか?」
「それが、闇夜に紛れるのがうまくて……
できるだけ、そういうところに行かないよう、町民と旅行者へ注意を促して、警備の人員も、制限区域とかに入れさせないようにって配置してるんスよ」
「そのお陰で、被害は今のところ収まってるって話だったな?」
「そうっスね。――あれ?」
ユリエルが立ち止まる。
「どうした?」
ライールも立ち止まって、振り返った。
「こっちの方って、制限区域内っスよ?」
「そこに入り込んだ女の子がいてな…… お前と一緒に帰りたいって言うんだよ」
「女の子、一人だけっスか?」
「どうやら、そうらしい」
「迷子っスねぇ~…… 運悪く、警備兵に止められなかったんスかね?」
「多分な」
ライールが再び歩き出す。
ユリエルも歩を進めて、話を続けた。
「泣き止んでくれてたら、嬉しいんスけどねぇ」
「気丈な子だったよ。その上、とても礼儀正しくて、賢く強い感じがする」
「へぇ~」
「ただ、随分と怖がりで、内気な性格をしていそうだな」
「怖がりで、内気……」
「孤児院で育てられたにしては、服装も高価だった」
「高価っスか~……」
「俺の予想では、きっと名家のご令嬢だろうと思う」
「な、なるほど~……」
「髪も美しい金色で、髪型も似せてあるのだろう。あの有名な、バルバランターレン家の聖女様みたいだった」
「そっくりさんっスかね?」
「ひょっとすると、子供の頃の聖女様も、あんな風な感じだったのかもな」
「それはまた、なんとも……」
「お前は司教の護衛兵だったな?」
「は、はい! そうっス……!」と、背筋を正すように答えた。
「どういう経緯で、お前がご令嬢と知り合ったのかは知らんが、信頼してもらってるんだ。ちゃんと家まで届けるんだぞ? 将来の聖女様かもしれんからな」
「も、もちろんッスよ! この命に代えても!」
少々引きつった顔でユリエルが言うから、ライールが横目で彼を見やりつつ、
「しっかりしてくれよ? 本当に……」
と言った。
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