聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 突然、大砲の発射音がしたと思ったら、光の粒が尾を引いて、空へと昇っていく。

 ドンッと大きな音を立てると、火花が四方八方に規則正しい間隔で散っていき、パラパラと小さな花火が入れ替わりに弾けて、すぐに消えていく。

 赤色、青色、黄色に、紫や茜色、水色、桃色などが飛び出していく。

 色鮮やかだった。

 アリスの瞳に、その様々な色が映し出されては消えていく。

 曲導きょくどうが付いた親玉が上昇すると、ヒュウヒュウと音を立てているのが聞こえる。窓からだと全く聞こえなかった音だ。

 アリスは、花火が終わったことに気付かなかったくらい、集中して空を見上げていた。



 周囲の人たちが、移動し始める。
 アリスも議事堂の方へと歩き出した。

 警備の人間がどういう行動経路をたどるか知っているアリスは、なんなく制限区域の中へと入る。

 そして、ついさっき終わった花火を、反芻はんすうするように思い出しつつ歩いていると、いつの間にか周囲が暗くなっていることに気付いた。

 ――議事堂を含む公的機関の建物周辺は、規制でもよおし物が無く、人通りも少ない。

 必然、明かりもともされていないから、いつもと変わらないカントランドの風景があった。
 むしろ、周りが明るい分、やけに暗く感じる。 

「こんなに暗かったっけ……」

 祭りの明るさに慣れつつあったアリスが、ポツリと言った。
 そこへ、足音が近付いてきていることに気が付く。
 足音くらい、そこら中からしていたけれど、今は場所が場所だから、ほとんど聞こえることはない。

 代わりに、遠くから賑やかな声がしてくるし、そちらの方が音量が大きい。

 周辺に規制が敷かれているとは言っても、別に関係者以外の立ち入りを禁じている訳では無いから、誰かが通ることはある。あるけれど、近付いてくる足音が耳に付いて離れないから、さっと脇道に入って、横向きに歩きつつ、人影を確認した。

 ――まだ現れない。

 気のせいかと思って安堵あんどする。

 不意に、上から土ほこりが落ちてきた。

 思わず見上げる。

 屋根の上から、こちらをのぞき込んでいる人影があった。

 アリスは思わず、ゾッとして引き下がる。
 月明かりで輪郭だけはぼんやりと浮かんでいる。ただ、それだけであった。

 ――とにかく人のいるところへ行こう。

 アリスが来た道を戻った。
 すると、男性らしき姿が立っているのが見えた。

 アリスは恐怖を感じながら、急いで、先程の脇道へ引き返すように走った。

 男が追い掛けてくる。

 アリスは別の脇道に入って、議事堂を目指した。
 しかし、暗いせいかどこを走っているのか分からなくなってくる。
 足音はまだ聞こえていて、振り切れていない。

 アリスは、側にあった木箱やたるを引っ張って崩し、地面へぶちまけた。
 そうしてすぐに走り出す。

 走って、息を弾ませ、また脇道を駆け抜け、抜けた先にある建物の壁近くにあった、荷台の側にある木箱の隙間すきまに入り込んで、身を潜めた。

 ――間もなく、追っ手の足音がする。

 アリスはジッとして、両手で口を覆って息を殺した。

 しかし、息があがっているせいで、過呼吸みたいになって苦しい。
 脈も速くて、心臓の鼓動が収まらない。両肩も勝手に大きく動く。
 足音が近付くにつれ、体も震えてきた。

 ――ピタリと足音がむ。

 目をつむったアリスは、震えながら、縮こまっている。

 フッと、木箱と木箱の隙間すきまから、靴やズボンの一部が見えた。

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