聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

文字の大きさ
上 下
16 / 67

16

しおりを挟む

 夜になる。
 議事堂での説法を終えたアリスが、宿直室の窓辺から、いつものように外を眺めた。
 いつものように、空は暗いのに町並が妙に明るい。

 ――今日から花火が始まる。

 いつもなら大聖堂の寄宿舎から、合計で五晩ほど、打ち上がっていく小さな花火を見ていた。
 音も小さいし形も小さいけれど、三階にある自室の窓から花火を見ることができた。

 それがどうだ…… 今年はまるで独房みたいな部屋に入っている。

 しかも、議事堂の周辺には同じ高さの建物がたくさん並んでいるから、花火を見ようと思ったら、望むことも難しい空を、窓から頑張がんばって見上げるしかない。

「何やってるんだろ、私……」

 アリスは、すでに子供となっていた。
 自分の両手をジッと見つめてから、もう一度、窓の外を眺める。

 ――ここまでしなければ、外で花火を見ることもできない。

 アリスはそんなことを思った。
 父親はきっと、存在したであろう実子の代替えに自分を選らんで、後継者とすることしか考えていないのだろう。

 そうでなければ、もっと自分と過ごす時間を取るはずだ。
 仕事だってそこまで無茶苦茶に忙しいものではないことを、アリスは知っている。
 父親が大聖堂にいる自分を見たがらないことも知っている。

 そして、見たがらない原因も知っている。

 自分が珍しい女性司教であり、子供の頃から聖女という渾名あだなみたいな呼称を付けられて、珍しい見世物みたいに、観光客が聖女を見に来る毎日……

 ――呪い染みている。

 アリスには、司教という立場が、聖女という呼称が、呪いの象徴そのものにしか思えなかった。

 父が自分に会いたがらないのは、こんな状況が影響しているせいだろう。
 見世物の娘なんて、見たくもないのだろう。
 そんな義父ちちおやを見るのが、アリスには耐えようもなく辛いことであった。

 そしてバルバラントのため、人柱にされる理不尽さが嫌いだった。
 観光資源にしようという政治屋たちの浅はかさが嫌いだった。

「呪いの連鎖は、我々で断ち切らないといけない……」

 バルバランターレンの伝記に載っていた言葉を口にしたアリスは、窓をあけて、外へと出ていった。



 議事堂周辺は制限区域だから、観光客よりも警備兵がうろついている。
 アリスは警備兵に見つからないよう、町の外れへと歩いて行く。

 じきに花火があがるとあって、町全体の明かりが少し落ちていた。
 そのせいか、空に昇っている月が明るく見える。じきに満月だろう。

 アリスは事前に聞いてあった、花火がよく見える公園へ向かった。
 そこはカントランドの少し外れにある、小高い丘の公園であった。
 普段は静かな場所だけど、たくさんの人だかりがある。

 あまり人混みが得意ではないアリスは、ちょっとだけ丘を登ったところの、茂みの側のところに立った。

 ――アリス以外の人々は、誰かと空を見上げている。

 子供一人で見ているのは、それこそ自分だけだ。
 寂しいけれど、大きな花火を見られるという高揚感が、アリスにはあった。

「花火、まだかな……」

 空を見上げてつぶやく姿は、内気な女の子そのものであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...