15 / 67
15
しおりを挟む「マグニー大司祭でしょうか?」
「そうだが、君は?」
彼は懐に手をやって、手帳を取り出し、それをマグニー大司祭に見せながら、
「私、このたびベリンガール共和…… 失礼、ベリンガール連合国から派遣されました、国防省直属の要人近衛騎士、ライールと申します。こちらの女性は協力者のエリカです」
「お初にお目に掛かります、大司祭様」
と、エリカが物腰柔らかく礼をした。
「――そちらはシェーン大司教でいらっしゃいますね?」
「お久しぶりです、エリカさん。半年と少し振り…… ですかな?」
「ええ。ご無沙汰しておりました」
二人は和やかな雰囲気で、握手を交わした。
「お、お知り合いですか、シェーン大司教」
「もちろん。彼女はアルメリア王女の、侍女だったお方ですよ」
マグニーが驚いた顔でエリカを見やった。
「以後お見知りおきを、マグニー大司祭」
エリカがスカートを持ちあげながら会釈する。
マグニーはすぐさま一礼した。
「あの有名な侍女様とお会いできるとは、光栄の至りです……!」
「そんな大袈裟な……」
エリカは、伸ばしている五指の先端を唇へ軽くあてがって言った。
「――それでですね」
頃合いを見計らったライールが、言った。
「チャネルさんという方が、こちらにいらっしゃるとお聞きしまして……」
「ああ、彼ならあそこに」
マグニーが、奥に立って打ち合わせらしき話をしている男性を見やりながら言った。
「ありがとうございます」
「ところで」と、マグニーが視線を戻す。「派遣されて来たと言う話ですが…… いったい、どういうご用件で?」
「詳細は機密なのでお話できません。ただ、すでにこちらで調査をしていた先遣隊の報告から、私が派遣されたとだけ……」
「なにやら不穏な物言いですが……?」
「ご安心を。私はあくまでも、事後処理の確認をしに来ただけです。ここで何かが起こっていた訳ではありません」
「そ、そうですか……」と、安堵するマグニー。
「エリカさんたちも」
シェーンがゆっくりとした口調で言った。
「仕事が一段落したら奉納祭を楽しんでいってください。今日から後夜祭までのあいだ、五日間ほど花火が上がりますから」
「実はそれが目当てなところもありましたの。奉納祭も素晴らしいと伺っておりますし、鉱石の名産地でもありますし…… 見て回るのが楽しみですわ」
「ええ、ええ。ぜひに楽しんでいってください。特に英傑への奉納の儀は、この地方の素晴らしき伝統文化ですから」
「――というわけですわ、ライールさん。楽しみですね?」
ライールが頬をかいていた。
「お~い、チャネルさん!」
マグニーが声を掛けると、彼が気付いて、こちらを向いた。
その後、彼とライールたちが話をするためにと、外へ出ていった。
大聖堂から少し離れたところにある、大きめの木の下に来たライールとエリカが、チャネルという男性と話をし始める。
ある程度の話が進んだところで、
「つまり」と、ライールが言った。「このカントランドに来ている可能性が高いと?」
「ええ。ロンデロントからの手紙によりますと、潜伏先と思われる場所は全て当たったのに、もぬけの空だったそうです」
「カントランドにいるという確証はあるのか?」
「可能性は高いかと。彼は昔、花火職人の元で働いていたことがあったようです。
ただ、火薬の無断持ち出しで破門となったようですが」
「なるほど…… そこで火薬のイロハを学んだわけか」
「それと、エルエッサムからジャナスという詐欺師も、カントランドにまぎれているとかで…… 何かしら協力関係にあると思われます」
「やれやれ…… 面倒な二人が、この町に揃っているわけか」
「そうなりますね」
「どうするの?」とエリカ。
「一網打尽にするいい機会だ。休暇は別の日に取ろう」
「そうなると思った」と、溜息混じりにエリカが言う。
「先遣隊にもこのことは伝えておりまして、今も捜索がおこなわれているとのことです。――ただ、時期が時期だけに難航しておりまして」
「これだけの人だもの、宿泊施設を探すのも一苦労よね」
「そうなんです。本当に人が多く来ますからね、奉納祭は」
「状況は大体、分かった」とライール。「先遣隊は引き続き、潜伏先の特定を急いでくれ。我々は少し別の角度から捜索する」
「了解です。僕はまだ仕事が残っていますので、これで失礼します」
「ああ、ご苦労様」
チャネルが立ち去った。
「――どう思う?」
両腕を組んだライールが、隣のエリカへ目配せして言った。
「そうねぇ……」
と、アゴに指をやるエリカ。
「今のところはなんとも言えないかなぁ」
「そうか。とりあえず、情報を集めてみるかな……」
「あ~あ、これで花火はお預けか~……」
「後夜祭までに終わらせればいい。人相を変えていても、行動まではそう変わらないモンだ」
ライールが目を細めつつ言った。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる