聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 ユリエルとハロルドが大聖堂に入ると、マグニー大司祭とシェーン大司教の他に、見慣れない老人――おそらく議員か何かと、若い取り巻きの男性が何人かいた。

「おはようございます」

 ハロルドが言うと、マグニー大司祭が近寄ってきて、
「二人とも、ちょうど良いところに来たな」
 と言った。

 ユリエルは口調に問題があるから、いつもハロルドだけが話す。
 その方が世話が無いし、義理とは言え、親子同士だから話も早い。
 今回も彼が話の先頭に立った。

「どうかしましたか? マグニー大司祭」
「うむ。実は先程、聖女アリスにも伝えたことなのだが……
 今年で彼女も司教の任を終えるというから、このたびの前夜祭の期間で、説法をしてもらいたい、という話が出たんだ」
「くっだらねぇ~……」

 マグニー大司祭がユリエルをにらみ付ける。
 ユリエルは素知らぬ顔で明後日の方を向いていた。

「――その護衛をすればいいのですか?」
「うむ、そうだ。相変わらず、隣の男より物分かりが良くて助かるよ」
「恐れ入ります」
「当日は混雑が予想されるから、お前たち他、我々も現地で解散となる」
「聖女様は?」

 ユリエルが問うと、マグニー大司祭がまた彼をにらんだ。

「現地解散?」
「違う」
「じゃ、どうするんスか?」
「――話すからもうしゃべるな」

 マグニー大司祭がせき払いを一つして、

「先程も言ったように、混雑が予想される。議事堂には幸い仮眠室があるから、そちらで眠ってもらい、朝に大聖堂へ戻って頂く」

「その方が、混乱も少なくて問題が無いという判断ですね」
「その通りだ。やはりお前は物分かりがいい。隣の男にも見習ってもらいたいもんだ」
「我々が付いていなくても良いのでしょうか?」
「議事堂内は後夜祭まで警備が手厚いし、近くには治安警備隊の詰め所もある。説法が終わり次第、祭りを楽しんでくればいい」

「特に興味ありませんので」とハロルド。「それでは、我々はこれで失礼致します」

 目礼したハロルドがユリエルを見やって、

「行くぞ」

 と言うから、ユリエルがうなずいて、ハロルドの後に付いて歩いた。
 その後ろ姿を見ていたマグニーは、溜息をつきながら、

「やれやれ……」と、独りごちた。

「どの親も、子供には手を焼くものですよ」
「シェ、シェーン大司教……」
「もう少しだけ、距離を取ってみては如何いかがかな?」

「しかし」と言葉を切ってから、続けた。「あ奴は年頃にも関わらず、結婚も進路も決めておりません…… 部屋にもって書物ばかりで……」

「読書は素晴らしいことですよ。現状で充分という認識なのでしょう。それはそれで、素晴らしいことではありませぬか」

「そ、そう言って頂けて光栄であります……」
「子供はなんだかんだ、親の背中を見ているものですよ。そこに血縁関係は必須ではないのです」
「…………」

「――失礼します」

 二人が入り口の方を見やると、男女が二人、近付いてくるのが見えた。

 一人はユリエルたちと同年代か少し上くらいの、異国の兵装をしたたくましい男性で、もう一人は、白い細ひもでポニーテールに髪を結ってある女性だ。

 彼女は左腕に、古くも美しい貴金属の腕輪を付けていた。
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