聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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「王冠って、どうして呪われたんスか?」

「伝説じゃあ、魔王の呪いに掛けられたとか言われているな」
「そういうのって、枚挙にいとまがないっスねぇ」
「ただ、王冠の呪いを解いたのがバルバランターレンっていうだけで、王冠の力を使っていたのは別の人間だ」

「普通なら、バルバランターレンが使いそうなモンっすよね?」
「不思議だが、王冠の力を自在に扱っていたのは事実だろう。ひょっとすると本当に魔導具だったのかもしれない」

「マドウグって…… なんスか?」
「おいおい、そんなことも知らないのか? もう一般常識だぞ?」
「地元の出来事の方が興味あるっスから…… それより、マドウグって何スか?」

 ハロルドが溜息をついてから、話を始めた。

「魔導具っていうのは、勇者伝説に出てくる不思議な力を持った道具のことだ。
 力には色々なタイプがあるらしいが、噂だとそれを研究して、実際に色々な事象じしょうを発生させていた研究者がいたらしい。確か、エルエッサム大学の人間だったかな……」

「へぇ~…… なんか、|すごい力なんスね?」
「もし王冠が人間を急激に若返らせる力を持っているとしたら…… すごくないか?」
「すごいって言えば、すごいかもっスけど……」
「なんだ? あんまり興味なさそうだな?」

「勇者伝説のヤツってことは、魔法の力ってことでしょう? それなら、こう、ド派手な力が出る何かがいいっスねぇ~」

「相変わらず子供だな、お前は……」
「でも、格好いいじゃないっスか~! 雷みたいなのがビビッと出たりしたら、すごすぎッスよ!」
「なんにせよ」と、さえぎるハロルド。「あの王冠にそんな力は無さそうだ。伝説通りなら、力を抑えるための道具らしいからな」

「子供にしたら、弱くなるってことっスかね?」
「多分な。それがなぜか、アリス様に反応して作動したとすると……」
「すると?」
「――もう少し、調べてみないといけない」

 大聖堂の正門をくぐったところで、ハロルドが言った。
 彼は立ち止まってユリエルを見やり、

「お前、アリス様とは付き合いが長いんだったよな?」
ねえさんが大聖堂に入ってからは、ほとんど会ったこと無いっスよ?」
「だが、俺よりは知っている…… そうだろ?」

 ユリエルが眉をひそめた。

「どうかしたんスか?」
「アリス様…… ひょっとして、外へ出ていってるんじゃないか?」

 ユリエルは内心、肝が冷えただろうが、それを表に出さないよう努めているようだった。

「――さすがに、そこまではしてないと思うっスよ?」
「それならいいんだが……」
「どうして、そう思うんスか?」
「どう見ても今の生活に不満がありそうだからな。子供の姿になって、寄宿舎から抜け出さないとも限らない…… そう思ったんだ」

「前回ので反省してると思うっスけどね?」
「どうかな」
「妙に引っ掛かってるんスねぇ……」
「人は簡単には変われない生き物だ。お前もしゃべり方が変えられてないだろ?」
「まぁ、それは……」と、口をつぐむユリエル。

 ハロルドは大聖堂を見上げながら、続けた。

「みんなそうだと思う。皮膚の代謝や髪が伸びるのを止められないのと一緒だ…… その道理を変えることなんて、人間にはできやしないんだよ」

「よく分かんないっスけど…… でも、聖女様は子供から戻れなくなるっていう危惧きぐを持っていたっスよ? あのときで、りたと思うんすけどね?」

 ハロルドが、ユリエルを見据えて言った。

「ユリエル、いいか? アリス様が妙な動きをしないよう、注意してろよ?
 もし子供になっていたなんてことがバレたら…… 解任もあり得る。
 そうしたら、彼女はもうこの町にいられなくなるからな?」

「えっ? ど、どうしてっスか……?!」
「考えれば分かるだろ。おとぎ話の呪いが実在してて、それを受けた聖女なんて、誰が受け入れる?
 バルバラントの連中も、アル・ファームの国会議員共も、なんとかしてみ消そうと躍起やっきになるに決まってる。婚約だって破棄されるだろう……
 お前もアリス様の旧友だったなら、幸せになってもらいたいと思ってるんだろ?」

「そう、っスね…… 確かに」と、うつくむユリエル。
「とにかく、あのときの件だけなら、お互いが黙っていれば問題ない。
 俺も呪いのことを詳しく調べてみるから、お前はお前で、アリス様が妙なことをしでかさないよう、注意してるんだぞ? いいな?」
「――了解っス!」

 ユリエルが力強く言った。
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