聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 アリスが父親と話をしている頃、ユリエルが大聖堂を目指して走っていた。

「クッソ……! すぐ片付くと思ってたのに……!」

 すでに遅刻している気配が漂っているものの、最後の最後まで諦めてはならないとばかりに、一生懸命に走っていた。

 すると突然、曲がり角から出てきた男とぶつかってしまう。

「アッ?! す、すまねぇッ!」

 勢いを止めたユリエルが、振り返って言った。
 はじき飛ばされて尻餅をついている男性が、ユリエルを見上げながら、

「お前、もっと周りを見ろッ!」と言った。

「ゲッ?! ハロルドさん……!?」
「お前…… そんなに急いでどうした?」
「いや、その、遅刻しそうなんで……!」

 と言ってから、ユリエルが眉をひそめる。

「ハロルドさん…… そんな悠長にしてて、いいんスか?」
「何が?」
「もうじき、礼拝が始まるっスよ?」
「は? まだ一時間も前だぞ?」
「えっ……」

 ユリエルが懐中時計を取り出した。

「で、でも、もうこんな時間っスよ?!」
「――ズレてるだろ、それ」

 ハロルドが言いながら、自分の懐中時計を取り出して、ユリエルに見せてやった。

「俺は毎日、家の連中に時間を聞いて合わせてあるし、今日は図書館で合わせたから間違いない」
「あ~……」
「全く、お前はいっつもこうだな……!」

 ハロルドが立ち上がり、腰の土ほこりを払った。

「ご、ごめんなさいっス!」

 ユリエルが、落ちている本を拾いながら言った。
 表題を見るに、歴史や伝記、薬学などの専門書らしい。

「――なんか、難しそうな本ばかりっスね?」
「いや、ほとんどが伝承や歴史の研究論文だ」
「普通に難しい本ッスね…… なんでそんな物、借りたんスか? 図書館で借りるって高いっスよ?」
「汚さず返せば、ほとんどタダだろ?」
「いや、まぁ、そうなんスけど…… 歴史なんて調べてどうするつもりなんスか?」
「王冠のことだよ」
「王冠?」

 と言うなり、ハッとするユリエル。逆に、ハロルドは表情を変えずに、ユリエルが持っている本を取りあげた。

「他に、何かあるかもしれないだろ? 調べておくに越したことはない」
「な、なるほど…… さすがハロルドさんっスね」
「どうせだ、一緒に大聖堂へ行くか」
「良ければ、分かったこととか教えてほしいっス!」
「まぁ、今は特に無いんだけどな」

「あれっ」と、肩すかしを食らうユリエル。
「今日、借りてきたばかりだぞ? そんなにすぐ分かるわけないだろう」
「そりゃそうっスけど…… ハロルドさん頭良いから、何か分かったのかと思ってたっスよ」
「期待を裏切って悪かったな」

 ハロルドが歩き始めた。ユリエルは後を追った。
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