聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 ユリエルとアリスが、互いに並んで歩いて、屋台を回った。

 すっかり手で食べることに馴れたアリスが、串焼きを食べながら歩いている。
 不意に、遠間から声援が飛んできた。

「何やってるの?」
「ああ、串刺しってゲームっスね」
「物騒な遊び……?」
「いやいや。せっかくだから見てみるといいっスよ」

 ユリエルがアリスの手をつかんで、人混みの中へと入っていく。
 怖々と串刺し遊びを見やると、サーベルを持った男性が諸手もろてをあげて喜んでいた。
 そのサーベルの切っ先には、果物がくっついている。

「ああやって、投げられた野菜や果物をき刺して、刺した分を持って帰る遊びっス」
「そういう串刺し……」

 ホッとしたアリスが言った。

「元々、農家の人たちが腐ってしまったモンを使って遊んでたのが由来らしいっスよ。ここでは形が悪くて捨てられるか、廃棄直前の野菜や果物を使うのが恒例っスね」

「そこのお二人さん!」

 壇上だんじょうにいる男性が呼び掛けた。

「参加してみないか?」
「おっ、いいね!」

 ユリエルがアリスを見やって、

「ちょっと行ってきていいっスか?」
「あんまり調子に乗らないようにね」

 頭をかいたユリエルが、演壇へと登っていく。

「次の挑戦者だぞ~!」

 アリスが驚くほど、周りの人たちが叫んではやし立てた。

坊主ぼうず、いくぞ!」
「おっしゃ! 来いッ!」

 サーベルを持ったユリエルが構える。

「ほれ!」

 三個の果物が宙を舞う。
 ユリエルがパッと三回いて、見事に果物をつらぬいた。

「オォ~!!」

 観衆が拍手を送って、指笛を鳴らした。

「――どうっスか?」
「うん、物すごく上手になったね」
「お嬢ちゃんもやってみるかい?」

 壇上だんじょうの男性が言った。

「い、いえ私は……!」
「大丈夫、大丈夫。子供の用のヤツを使えばいいさ!」

 アリスがユリエルを見る。
 彼はニヤリとして、

「大丈夫っスよ。試合でもなんでもないし、久々に思いっきりやってるところ見てみたいっス」

 アリスがうつむき加減になった。

「どうする~?」
「やります、やりま~す!」

 ユリエルが言って、アリスの手を握ると、一緒に演壇へ登った。

「今度は可愛らしいお嬢ちゃんが挑戦だぞ~!」
「メチャクチャすげーから、よーく見てろよ~!」

 ユリエルがそう言うと、アリスが彼の肘の袖を引っ張って、

「へ、変なこと言わないで……!」
「カッコいいところ、期待してるっスよ!」

 調子付くユリエル。
 アリスはムッとしながら、子供用のサーベルを手にした。

「それじゃあ、行くぞ~?」
「――そっちの方でお願いします!」

 アリスが指差して言った。
 そこには苺サイズの小さな果物があった。

「え? これ?」
「私、それが食べたいんです」
「いいけど…… 小さいから難しいぞ?」
よりは、腕に自信があります」

 ユリエルが頭をかいた。
 男性が小さな果物を三つ手にして、

「一気に投げるのがルールだからね? 行くよ~?」
「いつでも」
「ほれ!」

 宙に舞った三つの果物をジッと見るアリス。
 刹那、果物がサーベルの先に三つ並ぶように、つらぬかれていた。

「――え?」

 何が起こったのか分かっていない男性が、ポカンとアリスを見つめる。

「ほら、すごいだろ~?」と、ユリエル。「ほらほら! 孤児院の新入りだぜ! スゲェだろ?!」

 まばらに起こった拍手が、どんどん大きくなって、指笛も鳴った。

「ほ、ほら、もう行こうよ……!」

 アリスがいつの間にか、ユリエルの足下に来ていた。

「じゃ、俺たちはこれで。おっちゃん、ありがとうな!」
「お、おう! スゲェもん見せてもらったぜ! 可愛いし、将来有望だな!」

 ユリエルが手を振りつつ、アリスを連れてその場を離れた。
 アリスが戦利品を食べていると、

「そういや」と、ユリエルが言った。「それ、好きな果物だっけ?」
「うん。大聖堂にいると、あんまり食べられないから……」
「いや~…… やっぱりねえさんはこっちの方がいいなぁ~」
「どういう意味……?」と、ユリエルをあおぎ見るアリス。
「大聖堂でましてるより、こっちの方が素敵ってことっスよ」

 今度は、目をそらしていた。
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