聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 昨日と同じように、市場にやって来た。
 人通りは昨日よりも増えていて、あちこちで買い物をしたり飲み食いしている人たちがいる。

「はぐれないよう気を付けるっス」
「これでは大聖堂まで音が聞こえてくるはずね」
「明日、明後日はもっと人が増えるから、もっとすごいと思うっスよ」

 アリスがユリエルを見上げて、

「今は、普通に話してくれていいんだけど?」と言った。
「えっ? いいんスか?」
「そもそも、あなたのしゃべり方は丁寧ていねい語でも敬語でもないからね……?」

「いや、まぁ…… 気を付けてはいるんスけど……」
「気を付けていたら、ちゃんと言葉も変わるはずだけどなぁ」
「そ、そうだ!」

 彼は誤魔化すように指を差し、

「あれ、結構うまいんスよ! 確か夕食、あんまり食べてないっスよね?」
「今日はお小づかいを持ってきたから、何も食べてきてないです」

 そう言って、ふところに手を当てるアリス。

「子供らしからぬ金額が入ってそう……」
「貯蓄から、少し持って来ただけ。大金だと、落としたら大変だし」
「――いくら持ってきたんスか?」

 アリスが建物の壁際へ移動する。そして、後に着いて来たユリエルに、財布の中身を見せた。
 突然、ユリエルが財布を抑えつつ、周囲に目配せした。

「どうかしたの?」
「なんて金額、持ってきてるんスか……!」
「そ、そうかな?」
「やっぱり世間知らずっス」
「でも、使わなかったら貯まっていくものだし……」

「とりあえず、財布はもう仕舞っておくっス」
「分かった……」

 彼女は、財布を大事そうにふところへ仕舞った。

「今日はおごるっスから、食べに行くっス!」

 ユリエルがアリスの手をつかんで、屋台の方へ引っ張って行った。
 運良く二人が離席したから、ユリエルが導くように、

「ここに座って」と言った。

 言われるがまま、アリスが椅子いすに腰掛ける。大人用だから、足が少し浮いていた。

「おっちゃん、二つおくれ」
「あいよ~!」

 アリスの隣に座ったユリエルが、

ねえさん、こういうの食べたこと無いでしょう?」

 と言うと、彼女は目を輝かせながら、

「これが粉焼き……」と、つぶやいた。「本当に存在していたなんて……!」

「な、なんスか、その反応……」
「お待ち~」

 アリスの目の前に、粉焼き料理が差し出されてくる。
 生地を畳むようにして、素材を挟み込んでいたから、具材が何か分からない。
 彼女はそれを、ジッと眺めていた。

「食べないんスか?」
「えっ?」
「え……?」

 間があく。
 それで、ユリエルが生地きじをつまみ上げた。

「えぇッ?!」

 アリスが、普通なら大袈裟と捉えられるくらいに驚いた。あり得ないという顔をしている。

「あぁ……」

 事情を察したユリエルが、つまんでいる生地をアリスへ見せて、

「ナイフもフォークも、おはしも無いっスよ?」
「て、手で…… 食べるのですか?」
「これはそういう料理っスから。なんなら食べさせてあげるっスよ?」
「い、いいです。そんな子供っぽいこと……」
「じゃ、いただきま~す」

 と言うなり、生地を口の中へ放り込んだ。
 美味しそうに口を動かすユリエルを見ていたアリスが、恐る恐る、生地へ手を伸ばす。

「お、お許しください……」

 そうつぶやきながら、手で生地をつかんだ。

 ――思ったよりも暖かい。

 火傷しないよう注意しながら、生地を頬張った。

「んっ……?!」

 ――想像以上に美味しい。

ねえさん、めっちゃ分かりやすいっスね」

 ユリエルがそう言っても、アリスは目を輝かせ、食べることに集中していた。
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