聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 大聖堂の美しく整った墓地に、バルバランターレンの霊廟れいびょうがある。その霊廟れいびょうの側にある小さな石造建築から、子供のアリスが出てきた。

 服装は至って普通で、髪型は長さが足りないから、ワンサイドアップになっていた。
 周囲を警戒しながら墓地を抜けて、裏口から大聖堂を脱出した。

 明るい時間帯なら観光客で賑わう大聖堂の周辺も、さすがに今の時間は誰もいない。
 アリスは足早に大聖堂を離れていく。
 まずは、町の中心へと向かった。


 町の中心に着いた頃には、すっかり陽が落ちて、空が薄ら明るいだけとなっていた。
 すでに町中が、篝火かがりび蝋燭ろうそく、ランタンなどの明かりできらめいていて、この町の特産品である、青白い光を放つ『発光石』も使われている。

 本来なら片付けられている市場の屋台がまだ並んでいて、行き交う人々が散策していた。

「――お嬢ちゃん」

 振り返ると、男性が立っていた。眉に傷があって、それが目立っている。

「どうしたの? 迷子かい?」
「あ、いえ……」

 フッと、大聖堂のことが頭をよぎった。
 もし、自分が聖女であるとバレたら……

「と、友達を待たせてあるので、これで……!」

 アリスは逃げるように走り去った。
 町がどこもかしこも明るいから、どの場所を走っているのか分からなくなるということは無かったけれど、普段、それほど町を出歩くことの無いアリスにとって、いつもと違う光景と道なりは迷路と同じであった。

 疲れて自然と足が止まる。
 両膝に手をやって、息を整えた。

「おい」

 また男の声だったから、ビックリして顔をあげた。

「具合でも悪いのか?」

 ――ユリエルだ。

「それとも、迷子か?」

 こうも言われると言うことは、思っている以上に迷子が多いと言うことなのだろうか。

「わ、私……」と、恐る恐る話すアリス。「ちょっと町を見て回ってるだけです……」

 ユリエルが笑った。

「そんなに怖がるなって。――ああ、その辺の蝋燭ろうそくのせいで、怖い感じの、影が付いた顔になってるのか?」

 そう言って、イタズラっぽく笑みを浮かべるユリエル。
 少し様になっているから、アリスは自然と笑みがこぼれる。

「ユリエルさ~ん!」

 少し年下の少年が、手を振っているのが見えた。

「向こうで迷子発見で~す!」
「おう! 詰め所に連れて行ってくれ~!」
「は~い!」
「――あの子は?」とアリス。
「孤児院出身のヤツだよ。年長者はいっつも、祭りの警備に協力してっからな」

「あなたも?」
「まぁな。今年は特に、妙なヤツが出てるらしいし……」

 ――それで、毎年この時期に町へ繰り出していたわけか。

「それより……」
 ユリエルが言って、アリスをジッと見つめる。
「なんか、見覚えるある顔だな?」

 心臓が高鳴った。

「わ、私、友達を待たせてあるので、これで……!」

 また走り出すアリス。

「お、おい……!」

 ユリエルは小さくなっていく彼女の背中を見て、ハッと何かを思い出したように、目を見開いた。

「あれ……? これって確か……」

 どうやら彼には、過去に似た光景を見た記憶があるらしかった。
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