聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 金髪のサイドテールが美しい、高身長の少女が、バシリカ型の大聖堂に入って来た。
 彼女は中央に集まっていた人だかりのそばへ近付いて、

「お呼びでしょうか? マグニー大司祭」と言った。

「おお、聖女様」

 大袈裟な典礼服を着た中年男性――マグニーが言った。

「たった今、シェーン大司教が来られましたぞ!」

 彼はそう言って、見るからに上位の司教らしき服装をしている老人を見やった。

「また一段と美しくなられましたな、アリス司教」
「お久しぶりです、シェーン大司教。遠方からの長旅、お疲れ様でした」

 アリスが深々と一礼して言った。

「ありがとう。――まぁ、今年は余裕を持って来られましたから、それほど疲れはありませんがね」

 そう言ってシェーン大司教が笑った。

「先程の予行、素晴らしいものでした。今年の奉納祭ほうのうさい、特に素晴らしい典礼が期待できそうですね」

「皆様のお陰です。私は私の役割を果たすだけですわ」
「では、少し早いですが、例年通りにこれを……」

 シェーンがお付きの男性から、大きめの正方形の木箱を両手で受け取り、それをアリスへ手渡した。

「よろしくお願い致します」

 シェーンが言うと、やはり両手で木箱を受け取ったアリスが、

「お預かり致します」

 と、うやうやしく告げた。


 一方、人だかりから距離をあけて立っている、二人の兵士がいた。
 普通の兵士よりも着飾っていて、いくさやお城、警備で活躍する兵士と言うより、大聖堂に所属する専属兵と言うような感じだった。

 一人は大司祭の息子で、最近になって聖女直属の護衛兵として配属された、ハロルドという若者。もう一人はハロルドの同僚で、アリスより一つ年下の少年、ユリエル。

 彼ら二人は、アリスとシェーンが話しているのを遠目に見ていた。

「――さっき、面白い話を聞いたんだ」

 ハロルドが言った。

「なんスか?」

 ユリエルは年下ということで、丁寧語――と思い込んでいるしゃべり方で、ハロルドに向かって言った。

「驚くなよ?」
「分かってるっス」
「さっき、アリス様がお父上と話してるのを聞いたんだけど…… 婚約が決まったらしい」
「エッ……?!」

 ついつい叫びそうになるユリエルの口を、ハロルドが片手を伸ばし、咄嗟とっさに塞いだ。
 何人かがこちらを注目していたが、大司祭たちにはバレなかったから良しとしたハロルドが、

「お前…… アリス様のことになると本当に見境が無くなるな」

 ユリエルが口をもごもごさせていた。
 ハロルドはそのまま続けて話す。

「相手は州都ロンデロントきっての、名家の息子さんらしい」

 ユリエルが、ハロルドの手を下へけつつ、

「そんなヤツ、絶対にろくなヤツじゃないっスよ……!」と言った。

「人による、としか言えないな。だけど、アリス様は文字通りの美女だし、そういう意味では向こうも大当たりって思いだろうけど」

「なんとかしないと……!」
「あのな、ユリエル」と言って、ハロルドが正面を向いた。「俺がなんで、この話をしたか分かるか?」

「――分からないっス」
「英傑の末裔まつえいのお嬢様って立場なら、当然、釣り合いが取れそうな人間が選ばれる。アル・ファームの王女とベリンガールの古参貴族が婚約するようなもんだ」

「でも、それは単なる政略結婚っスよ? 一般人の話とは違うっス」
「似たようなモンなんだよ。――お前はそこそこいい顔してるけど、生まれは俺と同じで、ただの雑種…… いい加減、現実見ろって」

「いつだって現実しか見てないっス。ここだって、給料いいから選んだだけだし」
「本当かぁ? 聖女様に、色々と話し掛けに行ってるじゃないか」
「昔、ちょっと遊んでたことあったからで……」
はたから見てれば、猛烈もうれつに行ってるようにしか見えないけどな」
「――そんな猛烈もうれつに見えるっスか?」

「お前が原因で、アリス様が子供っぽいところ直ってないって言われてるくらいだぞ?」
「元々、そういう人っスけどね」
「鳥のえさを使って遊んだり、手品を仕込んだりしたのはお前だろ」
「まぁ…… なんというか……」
「大体、大聖堂勤務こんなところより、もっといい条件の勤務先があっただろ?」

 ハロルドがユリエルへ目配せしつつ言った。

「言葉づかいさえ直せたら、ゆくゆくはアル・ファーム王族の護衛兵になることもできるんじゃないか?」

「俺は孤児院に恩返ししたいんス。だから、この町で働いていたいんで…… ここが一番、都合いいんスよ。聖女様の件はマジで偶然っス」

「子供にモテるもんな、お前。この前も孤児院を抜け出そうとした子を連れ戻して、安全のためにロンデロントの孤児院へ送ったんだったか?」

「ハロルドさんにも言ったでしょう? 昔から孤児院に、変な手紙がちょくちょく来るって」
「ああ。それを阻止しているお前は、孤児院の立派な護衛兵だよ」

 ユリエルは視線をそらし、照れ隠しに鼻を人差し指でこすった。
 それからハロルドの方を横目で見るように視線を戻し、

「ハロルドさんこそ、司祭とか司教、目指さないんスか? 俺なんかより、よっぽどいい立ち位置にいるっスけど?」
「興味ないなぁ、そんなモノ」

 遠い目で、彼は言った。

堅物かたぶつたちのご機嫌きげんうかがいをしてなきゃならないなんて、地獄そのものだ……」
「将来が約束されてるのに?」
「地獄が約束されているって意味なら、その通りと言えるな」
「そ、そんなつもりで言ったわけじゃないッスよ……」

「分かってる。――まぁ、俺は興味ないんだよ、そういうの」
「そんなものなんスかねぇ~…… 贅沢な悩みっス」
「俺としては、純粋な願いだがな……」

 彼はやっぱり、どこか遠くを見ていた。
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