70 / 70
69
しおりを挟む
三月三日の正午。春平と秋恵は淡島神社にいた。
神社には予想していたよりも大勢の人々がいた。
本殿で、宮司のような格好をした子供──稚児がお祓いをし、斎主が祝詞の奏 上をおこなった。そして、願い事の書かれた紙を人の形に折ったもの──形代を、巫女が白木の舟に散らしていく。
その後、雛人形たちが三隻の舟に乗せられていった。
舟は春平が想像していたよりも大きく、桃の花や菜の花で彩られていた。
春平が豪勢だと呟き、秋恵を苦笑いさせる。
その豪勢な舟が、見学や参拝に来た女性たちの手によって担がれ、磯の桟橋へと運ばれていく。
巫女と宮司が舟の後ろに立ち、稚児がまた清めをおこなったあと、祝詞がまた奏 上される。
それが終わると、舟が海へ出された。
先導する小型船が海上を走ると、人形たちの舟もゆっくり波間を渡って流れゆく。合わせて、稚児と巫女たちが花吹雪を散らした。
ふと、春平が周りを見渡す。
写真などを熱心に撮っている人もいたけれど、大方の人は秋恵と同じように、静かに見送るだけだった。中には涙をぬぐう人もいた。
春平が再び、波間を行く舟の後ろ姿を見やる。
舟に乗っている人形たちはどこか、晴れ晴れとしているように見えた。
それはきっと、結婚式で子供を見送る親みたいな心境で、舟に乗っているからだろうと、春平は思った。
だから後ろ姿も、どこか誇らし気であった。
────了
【あとがき】
ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました。
前回の異世界推理モノからガラリと変わって現実現代になってしまいましたが、暇つぶしになっていたなら幸いです。
さて、今度こそ前回の最後にも言った通り、友人のリクエストである令嬢モノを書こうと思います。悪役要素は無くなりそうですが……
あと、来年の夏までには、本来であれば今年の夏に投稿予定だった新作を出したいなぁ、と思っております。
予定は未定ですので、結局は無くなるかもしれませんが、しれっと投稿していたら、またお読み頂けると幸いです。
(内容は過去に投稿した短編を、夏らしい長編モノにした感じの予定です)
長々と未確定の予定を書きましたが、新作でお会いできることを祈りつつ、読了の皆様に、改めてお礼申し上げます。
ありがとうございました。
神社には予想していたよりも大勢の人々がいた。
本殿で、宮司のような格好をした子供──稚児がお祓いをし、斎主が祝詞の奏 上をおこなった。そして、願い事の書かれた紙を人の形に折ったもの──形代を、巫女が白木の舟に散らしていく。
その後、雛人形たちが三隻の舟に乗せられていった。
舟は春平が想像していたよりも大きく、桃の花や菜の花で彩られていた。
春平が豪勢だと呟き、秋恵を苦笑いさせる。
その豪勢な舟が、見学や参拝に来た女性たちの手によって担がれ、磯の桟橋へと運ばれていく。
巫女と宮司が舟の後ろに立ち、稚児がまた清めをおこなったあと、祝詞がまた奏 上される。
それが終わると、舟が海へ出された。
先導する小型船が海上を走ると、人形たちの舟もゆっくり波間を渡って流れゆく。合わせて、稚児と巫女たちが花吹雪を散らした。
ふと、春平が周りを見渡す。
写真などを熱心に撮っている人もいたけれど、大方の人は秋恵と同じように、静かに見送るだけだった。中には涙をぬぐう人もいた。
春平が再び、波間を行く舟の後ろ姿を見やる。
舟に乗っている人形たちはどこか、晴れ晴れとしているように見えた。
それはきっと、結婚式で子供を見送る親みたいな心境で、舟に乗っているからだろうと、春平は思った。
だから後ろ姿も、どこか誇らし気であった。
────了
【あとがき】
ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました。
前回の異世界推理モノからガラリと変わって現実現代になってしまいましたが、暇つぶしになっていたなら幸いです。
さて、今度こそ前回の最後にも言った通り、友人のリクエストである令嬢モノを書こうと思います。悪役要素は無くなりそうですが……
あと、来年の夏までには、本来であれば今年の夏に投稿予定だった新作を出したいなぁ、と思っております。
予定は未定ですので、結局は無くなるかもしれませんが、しれっと投稿していたら、またお読み頂けると幸いです。
(内容は過去に投稿した短編を、夏らしい長編モノにした感じの予定です)
長々と未確定の予定を書きましたが、新作でお会いできることを祈りつつ、読了の皆様に、改めてお礼申し上げます。
ありがとうございました。
0
お気に入りに追加
4
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
月と太陽
もちっぱち
ライト文芸
雪村 紗栄は
月のような存在でいつまでも太陽がないと生きていけないと思っていた。
雪村 花鈴は
生まれたときから太陽のようにギラギラと輝いて、誰からも好かれる存在だった。
そんな姉妹の幼少期のストーリーから
高校生になった主人公紗栄は、
成長しても月のままなのか
それとも、自ら光を放つ
太陽になることができるのか
妹の花鈴と同じで太陽のように目立つ
同級生の男子との出会いで
変化が訪れる
続きがどんどん気になる
姉妹 恋愛 友達 家族
いろんなことがいりまじった
青春リアルストーリー。
こちらは
すべてフィクションとなります。
さく もちっぱち
表紙絵 yuki様
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
社畜がひとり美女に囲まれなぜか戦場に~ヘタレの望まぬ成り上がり~
のらしろ
ライト文芸
都内のメーカーに勤務する蒼草秀長が、台風が接近する悪天候の中、お客様のいる北海道に出張することになった。
移動中の飛行機において、日頃の疲れから睡魔に襲われ爆睡し、次に気がついたときには、前線に向かう輸送機の中だった。
そこは、半世紀に渡り2つの大国が戦争を続けている異世界に直前に亡くなったボイラー修理工のグラスに魂だけが転移した。
グラスは周りから『ノラシロ』少尉と揶揄される、不出来な士官として前線に送られる途中だった。
蒼草秀長自身も魂の転移した先のグラスも共に争いごとが大嫌いな、しかも、血を見るのが嫌いというか、血を見て冷静でいられないおおよそ軍人の適正を全く欠いた人間であり、一人の士官として一人の軍人として、この厳しい世界で生きていけるのか甚だ疑問だ。
彼を乗せた輸送機が敵側兵士も多数いるジャングルで墜落する。
平和な日本から戦国さながらの厳しいこの異世界で、ノラシロ少尉ことヘタレ代表の蒼草秀長改めグラスが、はみ出しものの仲間とともに仕出かす騒動数々。
果たして彼は、過酷なこの異世界で生きていけるのだろか
主人公が、敵味方を問わず、殺さずに戦争をしていく残酷シーンの少ない戦記物です。
朗読・声劇(セリフ・シチュボ等)フリー台本置き場ごちゃ混ぜ
冬野てん
ライト文芸
フリー台本。声劇・シチュボ・サンプルボイス用です。利用時申請は不要。ボイスドラマ・朗読、シチュボ。会話劇、演劇台本などなど。配信その他で無料でご利用ください。
自作発言・あまりにも過度な改変はおやめ下さい。
【青天白雪、紅の君。2072】 〜2072年夏、僕は無口な少女と出会った〜
凜 Oケイ
ライト文芸
舞台は2072年。世界のほとんどは大企業に監視されていた…
主人公の仁山 コズ(にやま こず)は全寮制の学園に通う優等生。
しかしある日、ルームメイトの経馬 シン(へりま しん)に学校を抜け出して肝試しに行かないかと誘われる。
主人公は断れずついていくが、そこで奇妙な少女に声をかけられる。
少女の名前は萩原 ユヅハ(はぎわら ゆづは)という。
その無口な少女はなぜか主人公にだけ興味津々で………?
【近未来恋愛ストーリー!】
美大の女子大生のアトリエがファンタジーなのは秘密です。
健野屋文乃
ライト文芸
十六夜先生。美大の女子大生。
底辺画商。十六夜先生にアパートの一室をアトリエとして提供している。
スケッチの中の妖精。 キャンバスから逃げ出した妖精。
の皆さんが楽しく生きてる物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
5話の「明日は大安」ですが、大安の前日は多くの場合仏滅となりますので、「今日の受付は終了」というセリフにちょっと違和感を感じました。
執筆時点で仏滅で駄目という形を取っていたのを、ちゃんと修正しきれていなかったようです。
翌日を先勝にしておきます。