1 / 21
1. これがうわさの婚約破棄
しおりを挟む
「マリー、お前みたいな女とは婚約破棄だ!金輪際、俺の前に姿を現すなよ」
ジョゼフ王子はハニーサックルみたいなピンク色の髪の毛をした少女を腕に抱き、そのするどく茶色い瞳で婚約者をきっと睨む。マリーと呼ばれた少女はつややかな金髪をびくりと揺らし、ぱっちりとした青みがかった灰色の瞳を二人に向けた。
「わたしの義妹を選ぶというの?殿下、彼女は父の再婚相手の連れ子です」
「だからどうした?そうやってコレットをいじめていたんだろ?」
周囲がざわめく。ここはロイヤルフルールアカデミーの卒業パーティーの会場だ。
「いじめてなどいません。義妹は王妃となるには血統が足りないと申しているだけです。父と養子縁組もしていませんし、彼女には貴族の血が流れていないのです。先にあるのは茨の道です。そんなに気に入っているのなら、彼女を寵妃にすればいいじゃありませんか」
「そんなことはお前が考えることじゃない。いいか、よく聞け。こいつをいじめていいのは俺だけなんだよ」
王子はドヤ顔で啖呵を切ると、コレットの晴れた青空のような瞳に向かって優しく語りかけた。
「俺は地位も名誉も金も全てを持っているから、絶対守ってやるよ」
コレットは王子の腕の中で、ヒロインよろしく幸せそうにほほ笑む。
マリーは王子の側近たちに腕を掴まれて、会場の外に放り出されてしまった。
「もう二度と僕たちの前に姿を現さないでくれよ」
マリーはあっけにとられながらも立ち上がると、悪役令嬢らしい真っ赤なドレスのすそについた汚れを払った。
「わたしは自由だわ。プリンセスにはならないけど、お伽話のその後を楽しみましょう」
***
真理はベッドに寝転びながら、携帯で読んでいた漫画のアプリを閉じると、学習机に視線をやった。そこには開いたままの教科書とノートが載っている。
「あーあ、いいところだったのに。あの俺様系王子は本当にむかつく。ヒーローは優しくて中性的なタイプだといいなあ」
再び携帯を起動させ、スケジュールを開くと、軽くめまいを覚えた。
「もう二日しかないじゃん」
期末テストが明後日に控えている。テストが全部体育の実技だったら楽勝なのにと考えてみるが、そう考えたところで筆記試験からは逃れることはできそうにない。
真理はしぶしぶ椅子に座ると、ペンケースからシャーペンを取り出し、もごもごとつぶやきながら文字を書いていく。三十分ばかり机にかじりついていたが、真理の集中力は底をついてしまったようだ。
椅子から立ち上がり、クローゼットにかかっている赤いジャンバーを羽織った。少しほつれているので、そろそろ買い替えが必要かもしれない。
「ま、近所に行くだけだし」
真理は階段を駆け降ると、台所に向かって声をかける。
「コンビニに行って、アイスを買ってくる!」
真理は夕暮れの一本道を歩く。ちょうど交差点に差しかかり、信号を待つ。真理の横をすり抜けて、ちょうど腰ほどの身長の元気過ぎる子どもが、交通量の多い道を飛び出していった。
真理は咄嗟に子どもを助けようと飛び出した。もとより考えるより行動するタイプだ。だが、真理の着ているジャンバーのほつれた糸がガードレールにひっかかって、身動きが取れなくなってしまった。
真理がもたもたしている間に、子どもはあっという間に向こうの道にたどり着いたのに、自分自身は身動きが取れなくなってしまった。真理はちょうど走ってきたトラックにぶつかりそうになり、きつく目を閉じる。
すると、真理は体が軽くなった感覚に戸惑い、おそるおそる目を開けた。
真理の目の前には、きれいな顔をした同い年くらいの少年の顔があった。小さいころに遊んだガラス玉のような、透明で複雑な色合いをした少年の瞳に釘付けになった。
「君、大丈夫?」
さらさらの金髪に、天使のように澄んだ声。美少年が真理を見下ろしている。
「え?あ、はい!」
自分が腕に抱えられえていることを知ると、真理は顔が発火しそうなほど熱くなった。こんなに近くで男の子を見たのも、抱きしめられたのも初めてだ。きれいな顔をしているのに、腕は細い女の子のそれとは全く別物であるとわかると、真理は途端にこの密着した状態がたまらなく恥ずかしくなってきたのだった。
「ぼくに君のほどけた服の赤い糸がひっかかって、うまく取れないんだ。もう少し待って」
少年は丁寧な手つきで複雑に絡まった糸をほどいた。真理は意識しすぎるあまり、息をするのも我慢して、じっとその光景を眺めた。
「ほらできた。いたずらな糸だね」
「あの!もう大丈夫です。ありがとうございます」
真理はこれ以上は耐えられないとばかりに、少年から顔をそむけた。
「そう?無理はしないでね」
少年は真理に回した腕の力を弱める。真理はようやく肥大した自意識から開放され、少年から体を離した。
真理は視線を正面に向けると、少年の後ろに見える物に目が釘付けになってしまった。「これは?」と、これ以上言葉を続けることが出来ない。それも無理はないだろう。
少年の背中から、白鳥のように白くて立派な羽が生えていた。
**************************************
【お知らせ】
『義妹に王子を横取りされて婚約破棄された悪役令嬢は、聖女を目指す』第一話
お読みいただき、ありがとうございます。どうでしたか?
『婚約破棄された貧乏令嬢は、今日こそモテたい!』も書いています。
王道ラブストーリーです。ぜひお読みいただければ嬉しいです!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/154944090/566457295
お気に入り登録や感想もお待ちしております♪
**************************************
ジョゼフ王子はハニーサックルみたいなピンク色の髪の毛をした少女を腕に抱き、そのするどく茶色い瞳で婚約者をきっと睨む。マリーと呼ばれた少女はつややかな金髪をびくりと揺らし、ぱっちりとした青みがかった灰色の瞳を二人に向けた。
「わたしの義妹を選ぶというの?殿下、彼女は父の再婚相手の連れ子です」
「だからどうした?そうやってコレットをいじめていたんだろ?」
周囲がざわめく。ここはロイヤルフルールアカデミーの卒業パーティーの会場だ。
「いじめてなどいません。義妹は王妃となるには血統が足りないと申しているだけです。父と養子縁組もしていませんし、彼女には貴族の血が流れていないのです。先にあるのは茨の道です。そんなに気に入っているのなら、彼女を寵妃にすればいいじゃありませんか」
「そんなことはお前が考えることじゃない。いいか、よく聞け。こいつをいじめていいのは俺だけなんだよ」
王子はドヤ顔で啖呵を切ると、コレットの晴れた青空のような瞳に向かって優しく語りかけた。
「俺は地位も名誉も金も全てを持っているから、絶対守ってやるよ」
コレットは王子の腕の中で、ヒロインよろしく幸せそうにほほ笑む。
マリーは王子の側近たちに腕を掴まれて、会場の外に放り出されてしまった。
「もう二度と僕たちの前に姿を現さないでくれよ」
マリーはあっけにとられながらも立ち上がると、悪役令嬢らしい真っ赤なドレスのすそについた汚れを払った。
「わたしは自由だわ。プリンセスにはならないけど、お伽話のその後を楽しみましょう」
***
真理はベッドに寝転びながら、携帯で読んでいた漫画のアプリを閉じると、学習机に視線をやった。そこには開いたままの教科書とノートが載っている。
「あーあ、いいところだったのに。あの俺様系王子は本当にむかつく。ヒーローは優しくて中性的なタイプだといいなあ」
再び携帯を起動させ、スケジュールを開くと、軽くめまいを覚えた。
「もう二日しかないじゃん」
期末テストが明後日に控えている。テストが全部体育の実技だったら楽勝なのにと考えてみるが、そう考えたところで筆記試験からは逃れることはできそうにない。
真理はしぶしぶ椅子に座ると、ペンケースからシャーペンを取り出し、もごもごとつぶやきながら文字を書いていく。三十分ばかり机にかじりついていたが、真理の集中力は底をついてしまったようだ。
椅子から立ち上がり、クローゼットにかかっている赤いジャンバーを羽織った。少しほつれているので、そろそろ買い替えが必要かもしれない。
「ま、近所に行くだけだし」
真理は階段を駆け降ると、台所に向かって声をかける。
「コンビニに行って、アイスを買ってくる!」
真理は夕暮れの一本道を歩く。ちょうど交差点に差しかかり、信号を待つ。真理の横をすり抜けて、ちょうど腰ほどの身長の元気過ぎる子どもが、交通量の多い道を飛び出していった。
真理は咄嗟に子どもを助けようと飛び出した。もとより考えるより行動するタイプだ。だが、真理の着ているジャンバーのほつれた糸がガードレールにひっかかって、身動きが取れなくなってしまった。
真理がもたもたしている間に、子どもはあっという間に向こうの道にたどり着いたのに、自分自身は身動きが取れなくなってしまった。真理はちょうど走ってきたトラックにぶつかりそうになり、きつく目を閉じる。
すると、真理は体が軽くなった感覚に戸惑い、おそるおそる目を開けた。
真理の目の前には、きれいな顔をした同い年くらいの少年の顔があった。小さいころに遊んだガラス玉のような、透明で複雑な色合いをした少年の瞳に釘付けになった。
「君、大丈夫?」
さらさらの金髪に、天使のように澄んだ声。美少年が真理を見下ろしている。
「え?あ、はい!」
自分が腕に抱えられえていることを知ると、真理は顔が発火しそうなほど熱くなった。こんなに近くで男の子を見たのも、抱きしめられたのも初めてだ。きれいな顔をしているのに、腕は細い女の子のそれとは全く別物であるとわかると、真理は途端にこの密着した状態がたまらなく恥ずかしくなってきたのだった。
「ぼくに君のほどけた服の赤い糸がひっかかって、うまく取れないんだ。もう少し待って」
少年は丁寧な手つきで複雑に絡まった糸をほどいた。真理は意識しすぎるあまり、息をするのも我慢して、じっとその光景を眺めた。
「ほらできた。いたずらな糸だね」
「あの!もう大丈夫です。ありがとうございます」
真理はこれ以上は耐えられないとばかりに、少年から顔をそむけた。
「そう?無理はしないでね」
少年は真理に回した腕の力を弱める。真理はようやく肥大した自意識から開放され、少年から体を離した。
真理は視線を正面に向けると、少年の後ろに見える物に目が釘付けになってしまった。「これは?」と、これ以上言葉を続けることが出来ない。それも無理はないだろう。
少年の背中から、白鳥のように白くて立派な羽が生えていた。
**************************************
【お知らせ】
『義妹に王子を横取りされて婚約破棄された悪役令嬢は、聖女を目指す』第一話
お読みいただき、ありがとうございます。どうでしたか?
『婚約破棄された貧乏令嬢は、今日こそモテたい!』も書いています。
王道ラブストーリーです。ぜひお読みいただければ嬉しいです!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/154944090/566457295
お気に入り登録や感想もお待ちしております♪
**************************************
0
お気に入りに追加
384
あなたにおすすめの小説
ゲームと現実の区別が出来ないヒドインがざまぁされるのはお約束である(仮)
白雪の雫
恋愛
「このエピソードが、あたしが妖魔の王達に溺愛される全ての始まりなのよね~」
ゲームの画面を目にしているピンク色の髪の少女が呟く。
少女の名前は篠原 真莉愛(16)
【ローズマリア~妖魔の王は月の下で愛を請う~】という乙女ゲームのヒロインだ。
そのゲームのヒロインとして転生した、前世はゲームに課金していた元社会人な女は狂喜乱舞した。
何故ならトリップした異世界でチートを得た真莉愛は聖女と呼ばれ、神かかったイケメンの妖魔の王達に溺愛されるからだ。
「複雑な家庭環境と育児放棄が原因で、ファザコンとマザコンを拗らせたアーデルヴェルトもいいけどさ、あたしの推しは隠しキャラにして彼の父親であるグレンヴァルトなのよね~。けどさ~、アラブのシークっぽい感じなラクシャーサ族の王であるブラッドフォードに、何かポセイドンっぽい感じな水妖族の王であるヴェルナーも捨て難いし~・・・」
そうよ!
だったら逆ハーをすればいいじゃない!
逆ハーは達成が難しい。だが遣り甲斐と達成感は半端ない。
その後にあるのは彼等による溺愛ルートだからだ。
これは乙女ゲームに似た現実の異世界にトリップしてしまった一人の女がゲームと現実の区別がつかない事で痛い目に遭う話である。
思い付きで書いたのでガバガバ設定+設定に矛盾がある+ご都合主義です。
いいタイトルが浮かばなかったので(仮)をつけています。
悪役令嬢は所詮悪役令嬢
白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」
魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。
リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。
愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。
悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
なぜ身分制度の恩恵を受けていて、平等こそ理想だと罵るのか?
紫月夜宵
ファンタジー
相変わらずn番煎じのファンタジーというか軽いざまぁ系。
悪役令嬢の逆ざまぁとか虐げられていた方が正当に自分を守って、相手をやり込める話好きなんですよね。
今回は悪役令嬢は出てきません。
ただ愚か者達が自分のしでかした事に対する罰を受けているだけです。
仕出かした内容はご想像にお任せします。
問題を起こした後からのものです。
基本的に軽いざまぁ?程度しかないです。
ざまぁ と言ってもお仕置き程度で、拷問だとか瀕死だとか人死にだとか物騒なものは出てきません。
平等とは本当に幸せなのか?
それが今回の命題ですかね。
生まれが高貴だったとしても、何の功績もなければただの子供ですよね。
生まれがラッキーだっただけの。
似たような話はいっぱいでしょうが、オマージュと思って下さい。
なんちゃってファンタジーです。
時折書きたくなる愚かな者のざまぁ系です。
設定ガバガバの状態なので、適当にフィルターかけて読んで頂けると有り難いです。
読んだ後のクレームは受け付けませんので、ご了承下さい。
上記の事が大丈夫でしたらどうぞ。
別のサイトにも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる