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2 嘘
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無性にポテトが食べたくなった、という俺のわがままを聞いてくれて、昼ごはんはファストフードになった。
先生と向かい合ってジャンク飯を食べてるなんて絶対おかしいから、少し笑ってしまった。
「深澄、楽しそう」
「楽しいよ。普通みたいだから」
慈しむような目で俺を見るあきも、きっと楽しいと思う。
ふとななめ向こうの席を見ると、窓際の端に座るカップルが、大胆にキスをしていた。
うわっと思って見ていると、あきもちょっと振り返って、すぐにこちらに向き直った。
盛大な苦笑いとともに。
でも俺はなんだか目が離せなくて、ぼーっと、一部始終を見ていた。
はたと気づいて目線を戻すと、目の前のあきが肩をすくめた。
「深澄もしてみたい? ああいうの」
「えっ!?」
思わず声が裏返って、隣の席の人が驚いてこっちを見た。
耳が熱くなるのを感じながら、意味もなくちょこっと頭を下げたあと、抗議の目であきを見た。
「急になんてこと言うんだよ、びっくりした」
「あはは、ごめん」
ナプキンで手を拭いたあきは、テーブルにちょっと手をついて身を乗り出し、俺の耳元でささやいた。
「行く? できそうなところ」
今度こそ本気でびっくりして、ちょっと顔を引く。
でもあきの表情は冗談めかした様子でもなくて、本当に穏やかな顔でこちらを見ていた。
なんと答えていいやら困っていると、あきは眉根を寄せて笑って、こう言った。
「僕が行きたい」
もちろん、俺を気遣って言ってくれたんだと分かってる。
俺から言えるはずないから、自分のわがままみたいにしてくれる。
あきのそういうところは、大人っぽいし、先生っぽい。
「じゃ、食べたら行こ……」
俺はそれにありがたく甘えればいいのだと、さっき電車の中で言われたのを思い出した。
駅から1本道を外れると飲み屋が増えて、さらに狭い道に入っていくと、ラブホテル街のようになった。
なんで知ってるの、と聞こうとしたけど、困るだろうからやめた。
何を話していいか分からなくて下を向く俺の手を、そっと取る。
そしてすぐにしっかり繋いでくれたので、顔を上げた。
「いいの?」
あきは、大きくこっくりとうなずいた。
きっとここは、そういう場所なんだと思う。
「ここでいい?」
「なんでもいいよ」
見上げたのは、全体的に白い建物。ギリシャとかにありそうな。
入り口のところにあるガラスは、滝のような感じで水が流れていて、原色のLEDでチカチカと色が変わっている。
あきがあまりにも普通なので、逆にドギマギしてしまった。
公共の場では自分が子供っぽいのが便利だったけど、こういう場所では、未成年だと止められるんじゃないかとか、男同士だから無理と断られるんじゃないかとか、不安で仕方なかった。
でもそれはすぐに、無駄な心配だったと分かる。
自動販売機のようなパネルには、部屋の写真が並んでいた。
受付をすることはないらしい。
「どれがいい?」
「あきが決めて」
後から入ってきた人たちに声を聞かれたくなくて、うんと耳に近づけてしゃべった。
あきは少し考えたあと、特に飾り気のない部屋をポンと選んで、ルームキーを取り出した。
後ろの人とすれ違うのが気まずいなと思ったけど、振り返ったら、おじさんと派手な女の人は既に自分たちの世界で、俺たちのことなんかどうでもよさそうだった。
エレベーターに乗ったところで、ようやく息を吐く。
「はー……」
「息止めてたの?」
あきが笑って頭をなでてくる。
「なんか言われたらどうしようと思って、つい」
「かわい」
肩を抱き寄せられたところで、3階に着いた。
短い廊下には4つのドアがあって、ルームキーに書かれているのは、302。左奥の部屋だ。
「わ……」
想像してたのとはちょっと違って、ピンクの照明だとか、変なベッドとかではなかった。
小綺麗な部屋。
入ってすぐ右手に、ふたりサイズの透明なテーブルがあり、灰皿にはホテルの名前が入ったライターが入っている。
部屋の真ん中にどんとある大きなベッドは、大人が5人くらいは寝られそうだと思った。
ぐるりと見回すと、お風呂があった……のだけど。
「お風呂、全部ガラス張りだよ」
「そうみたいだね。ほら、荷物貸して」
あきは自分のかばんと俺のリュックをまとめて、端にあった荷物置きに置いてくれた。
当たり前だけど、全然驚いたりしてない。
キョロキョロと部屋を見回していると、後ろから急に抱きすくめられた。
「わ」
振り返ろうとしたら、強い力でぎゅーっとされた。
「緊張してないように見える?」
「う、うん」
「僕、昔から、ポーカーフェイスだって言われるんだよね」
やんわり腕をほどいてくれたので顔を見ると、あきは、ちょっと照れていた。
大人なのにすごく可愛く見えた。たぶん、付き合って初めて。
「あきもドキドキしてるの?」
「当たり前でしょ」
そう言ってまた、ぎゅっと抱きしめられる。
「いっぱいキスしたいなら、ホテル街の外のどこかで、ちょっと物陰ですれば良かったと思わない?」
言われてドキッとした。
「え……っと」
答えあぐねていると、耳元でささやかれた。
「言ったじゃない、僕が行きたいんだって」
一気に耳が熱くなった。
先生と向かい合ってジャンク飯を食べてるなんて絶対おかしいから、少し笑ってしまった。
「深澄、楽しそう」
「楽しいよ。普通みたいだから」
慈しむような目で俺を見るあきも、きっと楽しいと思う。
ふとななめ向こうの席を見ると、窓際の端に座るカップルが、大胆にキスをしていた。
うわっと思って見ていると、あきもちょっと振り返って、すぐにこちらに向き直った。
盛大な苦笑いとともに。
でも俺はなんだか目が離せなくて、ぼーっと、一部始終を見ていた。
はたと気づいて目線を戻すと、目の前のあきが肩をすくめた。
「深澄もしてみたい? ああいうの」
「えっ!?」
思わず声が裏返って、隣の席の人が驚いてこっちを見た。
耳が熱くなるのを感じながら、意味もなくちょこっと頭を下げたあと、抗議の目であきを見た。
「急になんてこと言うんだよ、びっくりした」
「あはは、ごめん」
ナプキンで手を拭いたあきは、テーブルにちょっと手をついて身を乗り出し、俺の耳元でささやいた。
「行く? できそうなところ」
今度こそ本気でびっくりして、ちょっと顔を引く。
でもあきの表情は冗談めかした様子でもなくて、本当に穏やかな顔でこちらを見ていた。
なんと答えていいやら困っていると、あきは眉根を寄せて笑って、こう言った。
「僕が行きたい」
もちろん、俺を気遣って言ってくれたんだと分かってる。
俺から言えるはずないから、自分のわがままみたいにしてくれる。
あきのそういうところは、大人っぽいし、先生っぽい。
「じゃ、食べたら行こ……」
俺はそれにありがたく甘えればいいのだと、さっき電車の中で言われたのを思い出した。
駅から1本道を外れると飲み屋が増えて、さらに狭い道に入っていくと、ラブホテル街のようになった。
なんで知ってるの、と聞こうとしたけど、困るだろうからやめた。
何を話していいか分からなくて下を向く俺の手を、そっと取る。
そしてすぐにしっかり繋いでくれたので、顔を上げた。
「いいの?」
あきは、大きくこっくりとうなずいた。
きっとここは、そういう場所なんだと思う。
「ここでいい?」
「なんでもいいよ」
見上げたのは、全体的に白い建物。ギリシャとかにありそうな。
入り口のところにあるガラスは、滝のような感じで水が流れていて、原色のLEDでチカチカと色が変わっている。
あきがあまりにも普通なので、逆にドギマギしてしまった。
公共の場では自分が子供っぽいのが便利だったけど、こういう場所では、未成年だと止められるんじゃないかとか、男同士だから無理と断られるんじゃないかとか、不安で仕方なかった。
でもそれはすぐに、無駄な心配だったと分かる。
自動販売機のようなパネルには、部屋の写真が並んでいた。
受付をすることはないらしい。
「どれがいい?」
「あきが決めて」
後から入ってきた人たちに声を聞かれたくなくて、うんと耳に近づけてしゃべった。
あきは少し考えたあと、特に飾り気のない部屋をポンと選んで、ルームキーを取り出した。
後ろの人とすれ違うのが気まずいなと思ったけど、振り返ったら、おじさんと派手な女の人は既に自分たちの世界で、俺たちのことなんかどうでもよさそうだった。
エレベーターに乗ったところで、ようやく息を吐く。
「はー……」
「息止めてたの?」
あきが笑って頭をなでてくる。
「なんか言われたらどうしようと思って、つい」
「かわい」
肩を抱き寄せられたところで、3階に着いた。
短い廊下には4つのドアがあって、ルームキーに書かれているのは、302。左奥の部屋だ。
「わ……」
想像してたのとはちょっと違って、ピンクの照明だとか、変なベッドとかではなかった。
小綺麗な部屋。
入ってすぐ右手に、ふたりサイズの透明なテーブルがあり、灰皿にはホテルの名前が入ったライターが入っている。
部屋の真ん中にどんとある大きなベッドは、大人が5人くらいは寝られそうだと思った。
ぐるりと見回すと、お風呂があった……のだけど。
「お風呂、全部ガラス張りだよ」
「そうみたいだね。ほら、荷物貸して」
あきは自分のかばんと俺のリュックをまとめて、端にあった荷物置きに置いてくれた。
当たり前だけど、全然驚いたりしてない。
キョロキョロと部屋を見回していると、後ろから急に抱きすくめられた。
「わ」
振り返ろうとしたら、強い力でぎゅーっとされた。
「緊張してないように見える?」
「う、うん」
「僕、昔から、ポーカーフェイスだって言われるんだよね」
やんわり腕をほどいてくれたので顔を見ると、あきは、ちょっと照れていた。
大人なのにすごく可愛く見えた。たぶん、付き合って初めて。
「あきもドキドキしてるの?」
「当たり前でしょ」
そう言ってまた、ぎゅっと抱きしめられる。
「いっぱいキスしたいなら、ホテル街の外のどこかで、ちょっと物陰ですれば良かったと思わない?」
言われてドキッとした。
「え……っと」
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一気に耳が熱くなった。
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