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5章 きぼう
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順調にこなし、1回目の練習を終えたのが17:00。
夕食までは時間があるので、各々休憩ということになった。
達紀はテスト勉強。
アーサーは筋トレ。
チャボはどこかへ行ってしまった。
本当に自由な人たちだ。
「あお、ブレイブトリガーの続きやろ」
基也に肩をつつかれ、こちらはゲームの世界へ。
1時間ほどがっつりプレイし、無事難敵を倒し……そして、夕食。事件は起きた。
食堂に向かうと、チャボが、女の子を4人連れていたのだ。
「おーい。なんか友達になったんだけど、一緒に食べたいんだって。いい?」
「は……? ええと、どちらさまで?」
アーサーがいぶかしげに尋ねると、茶色いウェーブヘアの女の子が答えた。
「えっと、あたしたちも軽音部の合宿で来てて」
「さっきライブ映像見せてもらったんだけどさ! こんなかわいらしーい見た目なのに、超パンクなんだよ!」
意気投合したのは本当らしい。
しかし、純粋に音楽仲間のつもりでいるチャボに対して、女の子たちが同じように見ているとは到底思えなかった。
基也が露骨に嫌な顔をする。
達紀は、温和な笑みを浮かべて言った。
「ごはんの間だけでしたら。まったりおしゃべりとかは、時間の関係で難しいんですけど」
「あっ、全然。チャボくんからバンドメンバーの話聞いたら、見てみたい~ってなっただけなんで」
「おい、どのエピソードを面白おかしく話したんだ?」
圧をかけて詰め寄るアーサーに、チャボはへらへらと適当に笑う。
達紀はほわっと微笑んだ。
「じゃあ、情報交換しましょう」
達紀のやわらかい話し方で、一見親切な提案に見えるけど……俺には、『絶対に音楽の話しかしない』と断言しているように見えた。
やっぱりモテる人は、女の子を遠ざける術に長けているのだろうか?
ビュッフェの列に並びながら、ぼーっと考える。
まあ、女の子たちの目当てはどうせ4人だ。
チャボが去年のライブ映像とか写真とかを見せて、盛り上がったに違いない。
存在感を消して食事に集中しよう……なんて思っていたら、耳の真横で話しかけられた。
「ねえ。君があおちゃん?」
「え……? は、はい。そうですっ、けど……?」
「きゃーかわいー! チャボくんが言ったとおりだ」
女の子が、つやつやの髪を揺らしてはしゃぐ。
助けを求めるようにチャボを見ると、いひひと笑っていた。
達紀が、さわやかすぎる笑顔でチャボに尋ねる。
「何の話をしたの?」
「新メンバーのあおちゃんが超可愛くて、話しかけると照れ照れしながら敬語で返事するよって」
「何それ。あおはマスコットじゃないよ」
達紀の笑顔がパーフェクトすぎる。
これはもしかして、怒っているのではないだろうか。
しかし女の子たちは、はしゃいだまま、俺の顔の前にぐいっと近づいてきた。
「いやいや、あおちゃんマスコットみたいだよ。むしろうちのバンドにいても違和感ないかも!」
「えっ。い、いや、そんなわけないですよ。男ですし」
「そうですね、ガールズバンドの中では浮いてしまうかも知れません。あおは女の子にあまり慣れていないので」
「え、かわいー」
……最悪だ。こんないじられ方。
うちのメンバーが自由人過ぎて忘れかけるけど、基本的には軽音部というのは、陽キャの集まりなのだ。
おとなしく影に隠れていたい。
しかし、食べ始めると「口に詰め込むのかわいー」と言われ、オレンジジュースを取ってくると「子供みたいでかわいー」と言われ、ならばコーヒーだと無理して飲み始めたら「背伸びかわいー」と言われた。
一体、どうしろと。
音楽の話などまるで出てこない……かと思いきや、意外にも、達紀とひとりの女の子が熱心に話し込んでいた。
聞き耳を立てると、マニアックすぎるエフェクターの話だ。
まあ、合宿に来るくらいだし、一生懸命にバンドに打ち込んでいるのは本当なのだろう。
でも、でもなんか……女の子と楽しそうに話してる達紀は画になりすぎていて、微妙な気持ちになってしまう。
女の子だってきっと、達紀と話せて楽しいだろうし。
子供っぽいいじけ方はやめよう。
そう思ってハンバーグを食べ始めたら、急に女の子に名前を呼ばれた。
「あおちゃん、あおちゃん」
フォークをくわえたまま顔を上げる。
ばちっと目が合った茶色いウェーブヘアの子は、俺を見てにっこり笑った。
夕食までは時間があるので、各々休憩ということになった。
達紀はテスト勉強。
アーサーは筋トレ。
チャボはどこかへ行ってしまった。
本当に自由な人たちだ。
「あお、ブレイブトリガーの続きやろ」
基也に肩をつつかれ、こちらはゲームの世界へ。
1時間ほどがっつりプレイし、無事難敵を倒し……そして、夕食。事件は起きた。
食堂に向かうと、チャボが、女の子を4人連れていたのだ。
「おーい。なんか友達になったんだけど、一緒に食べたいんだって。いい?」
「は……? ええと、どちらさまで?」
アーサーがいぶかしげに尋ねると、茶色いウェーブヘアの女の子が答えた。
「えっと、あたしたちも軽音部の合宿で来てて」
「さっきライブ映像見せてもらったんだけどさ! こんなかわいらしーい見た目なのに、超パンクなんだよ!」
意気投合したのは本当らしい。
しかし、純粋に音楽仲間のつもりでいるチャボに対して、女の子たちが同じように見ているとは到底思えなかった。
基也が露骨に嫌な顔をする。
達紀は、温和な笑みを浮かべて言った。
「ごはんの間だけでしたら。まったりおしゃべりとかは、時間の関係で難しいんですけど」
「あっ、全然。チャボくんからバンドメンバーの話聞いたら、見てみたい~ってなっただけなんで」
「おい、どのエピソードを面白おかしく話したんだ?」
圧をかけて詰め寄るアーサーに、チャボはへらへらと適当に笑う。
達紀はほわっと微笑んだ。
「じゃあ、情報交換しましょう」
達紀のやわらかい話し方で、一見親切な提案に見えるけど……俺には、『絶対に音楽の話しかしない』と断言しているように見えた。
やっぱりモテる人は、女の子を遠ざける術に長けているのだろうか?
ビュッフェの列に並びながら、ぼーっと考える。
まあ、女の子たちの目当てはどうせ4人だ。
チャボが去年のライブ映像とか写真とかを見せて、盛り上がったに違いない。
存在感を消して食事に集中しよう……なんて思っていたら、耳の真横で話しかけられた。
「ねえ。君があおちゃん?」
「え……? は、はい。そうですっ、けど……?」
「きゃーかわいー! チャボくんが言ったとおりだ」
女の子が、つやつやの髪を揺らしてはしゃぐ。
助けを求めるようにチャボを見ると、いひひと笑っていた。
達紀が、さわやかすぎる笑顔でチャボに尋ねる。
「何の話をしたの?」
「新メンバーのあおちゃんが超可愛くて、話しかけると照れ照れしながら敬語で返事するよって」
「何それ。あおはマスコットじゃないよ」
達紀の笑顔がパーフェクトすぎる。
これはもしかして、怒っているのではないだろうか。
しかし女の子たちは、はしゃいだまま、俺の顔の前にぐいっと近づいてきた。
「いやいや、あおちゃんマスコットみたいだよ。むしろうちのバンドにいても違和感ないかも!」
「えっ。い、いや、そんなわけないですよ。男ですし」
「そうですね、ガールズバンドの中では浮いてしまうかも知れません。あおは女の子にあまり慣れていないので」
「え、かわいー」
……最悪だ。こんないじられ方。
うちのメンバーが自由人過ぎて忘れかけるけど、基本的には軽音部というのは、陽キャの集まりなのだ。
おとなしく影に隠れていたい。
しかし、食べ始めると「口に詰め込むのかわいー」と言われ、オレンジジュースを取ってくると「子供みたいでかわいー」と言われ、ならばコーヒーだと無理して飲み始めたら「背伸びかわいー」と言われた。
一体、どうしろと。
音楽の話などまるで出てこない……かと思いきや、意外にも、達紀とひとりの女の子が熱心に話し込んでいた。
聞き耳を立てると、マニアックすぎるエフェクターの話だ。
まあ、合宿に来るくらいだし、一生懸命にバンドに打ち込んでいるのは本当なのだろう。
でも、でもなんか……女の子と楽しそうに話してる達紀は画になりすぎていて、微妙な気持ちになってしまう。
女の子だってきっと、達紀と話せて楽しいだろうし。
子供っぽいいじけ方はやめよう。
そう思ってハンバーグを食べ始めたら、急に女の子に名前を呼ばれた。
「あおちゃん、あおちゃん」
フォークをくわえたまま顔を上げる。
ばちっと目が合った茶色いウェーブヘアの子は、俺を見てにっこり笑った。
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