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4章 げきど

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 ぐりぐりと、主張する股間を押しつけられる。

「やだぁッ」

 大声を出したら、首を絞められた。

「ケホッ……コホ……ッ、ぅ」
「無駄な抵抗すんな」

 脅されても逃げるしかないから、また暴れる。
 そして首を絞められる。

「…………ぅぐ、離……」

 苦しくて、必死に手を剥がそうとしても、全然力が入らない。
 何度もギリギリのところまで絞められて、ついに耐えきれずに脱力したら、笹田くんはニィッと笑った。
 そして、自分のズボンのベルトを外し始める。

 ガチャガチャという音を聞くうち、逃げるならいましかないと思った。
 フーッフーッと、動物みたいに荒い息を吐く笹田くんが、ズボンを脱ぐべく腰をちょっと浮かせた瞬間、体をよじって抜け出した。

「ふざっけんな殺すぞっ!」

 投げつけられたものがモロに後頭部に当たって、一瞬視界がグラつく。
 しかしなんとかドアのところにたどりついて、ドアノブをひねろうとした……けど、開かない。

「バーカ」

 笑いながらにじり寄ってくる。
 後ずさりしたら、左手にスマホが当たった。
 バレないようにたぐりよせ、体で隠して操作する。

 チラチラ見てはバレるので、ちゃんと押せているかの確認ができない。
 できていると信じて、連絡先の1番上になっているはずの達紀の番号をタップした。

 その瞬間、笹田くんが飛びかかってきて、再び胸ぐらを掴まれたまま壁に叩きつけられた。

「……っ」
「気持ちいいことしよ? 藤下だって興味あるだろ? 挿れてやるから」
「やだっ」

 泣きながら抵抗して前蹴りをしたら、棚から何かが落ちた。
 パカッと開いた箱から、電子音のメロディが流れ出す。

「痛った……。まだ嫌がんの? 気持ちいいって言ってんじゃん」
「……ぐぅ……」

 首を絞められ、徐々に酸素が足りなくなり、ぐったりとする。
 遠くの方で非現実的なハッピーバースデーが流れていて、本能的に、『もうヤられちゃうのかな』と思った。

 何度か顔を叩かれて、完全に心が折れた。
 ドサッと床に倒れると、笹田くんは、興奮した感じで何かを言いながら、箱の中のストップウォッチを手に取った。
 そしてその紐で、俺の手首を拘束する。

「どういうのがいい?」
「……ひどくしないで。言うこと聞くから」

 どうせされてしまうのなら、下手に抵抗して痛めつけられるよりは、受け入れてしまった方がいい気がした。
 うっすら目を開けて、力なく笹田くんの顔を見る。

「やべ。その表情、めちゃくちゃゾクゾクする。なあ、ほんとはして欲しいんだろ? チンコ期待してるって顔に書いてある」

 血が止まるのではというくらいぎゅうぎゅうに手首を結ばれて、もう、抵抗のしようがない。
 あきらめて目を閉じると、笹田くんの手が俺のズボンのベルトに伸びた。

……と思った、その時。

――ガシャーンッ!

 ドアが吹っ飛ぶように開いて、怒鳴り声が聞こえた。

 起き上がれないし、朦朧としているし、聞いたこともないような怒声だけど、達紀だなと思った。
 多分、乱闘。
 ふたりの怒鳴り声と、殴る蹴る、物を叩きつける音が響く。
 目の端に、どちらかの体が吹っ飛んだのが見えた。

「あおっ、あお! しっかりして」
「ん……」

 駆け寄ってきたのは達紀。
 ぶっ飛ばされたのは笹田くんの方だったらしい。
 きつく縛られていた手首の紐がほどかれ、抱き上げられたけど、力が入らない。
 そのまま達紀にもたれかかる。

 ちょっとだけ顔を傾けて薄目を開けると、部屋の隅に、笹田くんがうずくまって倒れているのが見えた。
 しかし達紀は、それをチラリとも見ない。
 俺の頭をひとなでしてから、鳴りっぱなしになっていたオルゴールを拾い上げ、ふたを閉じた。

「ここね、元々サッカー部の部室なの。これは、先輩の誕生日に、みんなでノリで買ったやつ。ちょっと許せないなあ」

 低い声でつぶやいた達紀は、片腕で軽々と俺を担ぎ、空いた手で俺の鞄を拾った。

「本当に、死ねばいいと思うよ。……お前みたいなのはなぁッ!」

 オルゴールを笹田くんの顔に向かって思い切り蹴り飛ばし、部屋を出た。



 旧校舎裏、お弁当の定位置に降ろされて、俺は静かに目を閉じた。

「平気? 痛いとか、気持ち悪いとか。保健室行く?」

 力なく、ふるふると首を横に振る。

 何があったかなんて先生には絶対話したくないし、達紀は思いっきりドアを壊しているので、多分怒られる。
 相手の人も何も言わないだろうから、このままなかったことにするのが1番だと思った。

「……何された?」
「叩かれたり首締められたり」

 手短に答えて、重たいまぶたを開ける。
 達紀は、泣きそうな表情で俺の顔を覗き込んでいて、そして、そっと抱きしめてくれた。

「怖い思いしたね。一緒に帰ればよかった。ごめんね」
「謝んないで」

 達紀は、痛ましげな表情で、俺の首筋をなでる。

「締め痕、ひどい。苦しかったでしょ」
「……殺されるかもとは思ったかな」

 フラッシュバックのように思い出して、思わず吐きそうになる。
 すんでのところでとどまったけど、達紀は何度も背中をさすりながら、「吐いて楽になるなら吐いちゃって」と言った。

 はぁはぁと短く呼吸して、吐き気をおさめる。
 達紀は、子供にするみたいに、俺の頭をなでた。

「もし、嫌じゃなかったら……何があったのか教えて?」

 自分のバカさを披露するだけだった。
 なんにも考えずに、誰も来ない密室についていくなんて。
 それでも達紀は、苦しそうな表情で俺の話を最後まで聞いてくれた。

「達紀、来てくれてよかった」
「電子オルゴールの音が鳴ってたから、前の部室だってすぐ分かったよ」

 達紀は俺の頬に触れて、親指でするするとなでた。

「体、触られた?」
「触られてない。ひたすら暴力で、気力を削がれてる最中だったから」

 もうあきらめようとしてたけど。
 そう付け足したら、達紀は、長く長くため息をついた。

「……あおが誰かに取られる前に、欲しい」
「え?」
「もし、あおの初めてが誰かに奪われちゃったら、僕、耐えられないと思って。だから、勝手を承知で言うけど……したい」
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