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3章 ひみつ
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翌日の昼休み。
色々考えた結果、ごまかさずに直球で聞くことにした。
「ねえねえ。達紀って、中学の時サッカー部だったんでしょ?」
「うん、そうだけど。何で知ってるの?」
キョトンとしている。
良かった、隠しているわけではなさそう。
「このあいだ、同中の友達にばったり会って、達紀の話聞いたんだ。プロチームに入ってて強かったって」
「え? 誰?」
「竹田くんっていう子。四中。知ってる?」
達紀はぱっと表情を明るくして言った。
「うんうん、覚えてるよ。四中強かったから、トーナメントでよく当たってて」
懐かしむように目を細めた。
「どうしてやめちゃったの? バンドやってるって言ったら、竹田くん、すごいびっくりしてたよ」
「あはは。小中は、サッカーバカみたいな感じだったからね。当時を知ってる人が聞いたら、びっくりするのかも。やめたのは、普通に怪我。ひざのお皿やっちゃって」
「え?」
思わず足元を見る。
けど、両ひざを立てて三角座りをしているし、思い返しても、日常で特に痛がってる様子は見たことがない。
「大丈夫なの?」
「うん。いまは全然平気で、普通に運動もできるし、なんともない。けどまあ、その時はちょっと治りが遅くて。他の人たちはどんどん先に進んでて差が開いてたから、プロでやっていくにはハンデだよねってことで、すっきりさっぱりやめた」
怪我を乗り越えて巻き返そうと思わなかったのは、単純に、気が済んだかららしい。
プロチームの人には当然止められたし、籍だけ置いていた学校のサッカー部にも、こちらでやらないかと散々言われたけど、断ったのだそう。
サッカーでやれることはもうないから、新しいことをやりたい、と。
「達紀、俺ね。いままでなんとなく、達紀はなんでもできるすごい人だと思ってたんだ。できないことはないくらいの」
達紀の方へ少し近寄り、太ももにちょこっと手を置く。
「だから、そんな苦労? があったなんて、全然思いもしなかった」
「幻滅した?」
「ううん。教えてくれてうれしかった」
達紀は、片手で俺の手にそっと触れて、そのまま軽く手を繋いでくれた。
「別に大したことない人間だよ、僕は。好きな子が目の前にいたら、キスしたり触りたくなっちゃう……本当に普通の」
身を乗り出した、と思ったら、次の瞬間にはキスされていた。
「……っはぁ。びっくりした」
普段、学校ではしないので、本当にびっくりした。
達紀は、いたずらっぽい笑みを浮かべて、ほんの少し体を寄せる。
「これから長く付き合って、いっぱい一緒の時間を過ごしたら、僕はきっと、あおにかっこ悪いところを見せまくっちゃうと思う」
「それはお互いさまじゃない?」
「あおは何しても可愛い」
慈しむような目で、頭をいいこいいことなでる。
俺はくすぐったくて、首をすくめてしまった。
達紀は、声を殺して笑ってから言った。
「僕は、いままでの人生で誰かに秘密にしていたことと言えば、男が恋愛対象なことくらいだけど……いまは、もうひとつあるなあ」
「なに?」
「恋人がこんなに可愛いこと。あおがこんなに可愛いなんて、誰にも教えたくない」
ちょっと恥ずかしくなって、うつむく。
達紀は、ほんの少し不満そうに言った。
「チャボがあおのこと可愛い担当って言ってたり、アーサーが子猫扱いしてたり、基也が中性キャラで売り出そうとしてるのは、ちょっとどうかと思うけどね」
「……やきもち?」
「多分ね。あ、これも誰にも言えないや」
そう言って、何度も何度も試すみたいにキスしてくる達紀は、多分、本人が思っているより大分可愛い。
<3章 ひみつ 終>
色々考えた結果、ごまかさずに直球で聞くことにした。
「ねえねえ。達紀って、中学の時サッカー部だったんでしょ?」
「うん、そうだけど。何で知ってるの?」
キョトンとしている。
良かった、隠しているわけではなさそう。
「このあいだ、同中の友達にばったり会って、達紀の話聞いたんだ。プロチームに入ってて強かったって」
「え? 誰?」
「竹田くんっていう子。四中。知ってる?」
達紀はぱっと表情を明るくして言った。
「うんうん、覚えてるよ。四中強かったから、トーナメントでよく当たってて」
懐かしむように目を細めた。
「どうしてやめちゃったの? バンドやってるって言ったら、竹田くん、すごいびっくりしてたよ」
「あはは。小中は、サッカーバカみたいな感じだったからね。当時を知ってる人が聞いたら、びっくりするのかも。やめたのは、普通に怪我。ひざのお皿やっちゃって」
「え?」
思わず足元を見る。
けど、両ひざを立てて三角座りをしているし、思い返しても、日常で特に痛がってる様子は見たことがない。
「大丈夫なの?」
「うん。いまは全然平気で、普通に運動もできるし、なんともない。けどまあ、その時はちょっと治りが遅くて。他の人たちはどんどん先に進んでて差が開いてたから、プロでやっていくにはハンデだよねってことで、すっきりさっぱりやめた」
怪我を乗り越えて巻き返そうと思わなかったのは、単純に、気が済んだかららしい。
プロチームの人には当然止められたし、籍だけ置いていた学校のサッカー部にも、こちらでやらないかと散々言われたけど、断ったのだそう。
サッカーでやれることはもうないから、新しいことをやりたい、と。
「達紀、俺ね。いままでなんとなく、達紀はなんでもできるすごい人だと思ってたんだ。できないことはないくらいの」
達紀の方へ少し近寄り、太ももにちょこっと手を置く。
「だから、そんな苦労? があったなんて、全然思いもしなかった」
「幻滅した?」
「ううん。教えてくれてうれしかった」
達紀は、片手で俺の手にそっと触れて、そのまま軽く手を繋いでくれた。
「別に大したことない人間だよ、僕は。好きな子が目の前にいたら、キスしたり触りたくなっちゃう……本当に普通の」
身を乗り出した、と思ったら、次の瞬間にはキスされていた。
「……っはぁ。びっくりした」
普段、学校ではしないので、本当にびっくりした。
達紀は、いたずらっぽい笑みを浮かべて、ほんの少し体を寄せる。
「これから長く付き合って、いっぱい一緒の時間を過ごしたら、僕はきっと、あおにかっこ悪いところを見せまくっちゃうと思う」
「それはお互いさまじゃない?」
「あおは何しても可愛い」
慈しむような目で、頭をいいこいいことなでる。
俺はくすぐったくて、首をすくめてしまった。
達紀は、声を殺して笑ってから言った。
「僕は、いままでの人生で誰かに秘密にしていたことと言えば、男が恋愛対象なことくらいだけど……いまは、もうひとつあるなあ」
「なに?」
「恋人がこんなに可愛いこと。あおがこんなに可愛いなんて、誰にも教えたくない」
ちょっと恥ずかしくなって、うつむく。
達紀は、ほんの少し不満そうに言った。
「チャボがあおのこと可愛い担当って言ってたり、アーサーが子猫扱いしてたり、基也が中性キャラで売り出そうとしてるのは、ちょっとどうかと思うけどね」
「……やきもち?」
「多分ね。あ、これも誰にも言えないや」
そう言って、何度も何度も試すみたいにキスしてくる達紀は、多分、本人が思っているより大分可愛い。
<3章 ひみつ 終>
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