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【スピンオフ】みとりくともだちサブチャンネルvol.1
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「えーっと……カメラ、こう? 端まで映ってるかな?」
理空が片手を伸ばし、不慣れな手つきでスマホの画角を調整する。
焼き肉屋の個室。
本来なら対面で座って食事をするのだろうが、ソファにぴったり隣り合って座るのが、みとりくなのである。
届いた皿を並べながら、慶介が微笑む。
「いいよ、配信始めちゃって」
「え? じゃあ水戸くん一旦座ってよ」
「いいの。俺は肉並べながら登場くらいがちょうどいい」
そんなわけない、と理空は思う。
配信を見に来るひとのほとんどは、水戸慶介目当てに決まっている。
約半年前、BL杯を逃した――わざと失格になった――ふたりだったが、なんと、気鋭の若手映画監督が慶介を気に入ったということで、映画出演のオファーが来た。
準主役級で、しかも、硬派な時代劇。
慶介は、殺陣の稽古や役作りのため多忙を極めていた。
最近ようやく撮影が終わり、メディアやSNSで露出が増えたため、デビュー前にもかかわらずファンがつきはじめた。
そんな注目の若手俳優がはじめてネット配信をするということで、配信前の待機人数はいつもよりかなり多い。
他方理空は、マネージャー科に転籍した。
社会人マナー等を学びながら通信制高校の課題もこなすダブルスクール状態のなか、必ず夜は時間を作ってゲーム配信。
BL杯のときの視聴者たちも変わらず応援してくれているし、半年間コツコツ続けてきたおかげで、幅広くファンが増えてきた。
そういうわけで、互いに忙しかったふたりにとって、ともだちチャンネルの実現は悲願であった。
……なんていうのはまあ、大げさなのだが。
とにかく楽しみにしてきた。
「押すよ、いい?」
「うん」
かすかに震える手で、配信スタートの赤い丸に触れる。
「みなさんこんにちは。りくです。ええと、サブチャンネルを開設しました。友達の、水戸慶介くんです」
皿を配り続ける慶介を、理空がちょいちょいと指差す。
[みとりくだーーーーーー!!!]
[水戸くん久しぶり!!!]
BL杯時代から推してくれている視聴者が、一気に湧く。
「えーと。僕のゲーム配信から入ったひとに説明すると、彼は俳優の水戸慶介くんです。水戸くんは、再来月公開の映画『黎明の刻、有明の月』の伏屋邦宗役でデビューします。……ええと、なんでそんな有名人と僕がふたりで焼き肉屋さんに来ているかというと、」
「付き合ってるからです」
「そう、付きあ…………って、はあッ!? ちょっ、ちょ、ぅえ!? 水戸くん、なな、なに言って」
理空は青ざめ、手をぱたぱたさせる。
打ち合わせと違う。
この配信は、付き合っていることを秘密にするのは大前提で、『同じスクールで仲の良い友達同士で、ゆるい雑談サブチャンネルをやる』というコンセプトだったはず。
[え!?! ホントに付き合ったの!!?]
[えーーーーーー!!!!]
案の定チャット欄は驚きで埋め尽くされている。
慶介は穏やかな表情で、焼き肉のタレを小皿に注ぎながら言った。
「BL杯の6日目に告白して、それからずっと付き合ってます」
チャットが一瞬静かになる。
……と次の瞬間には、また滝のように文字が流れてきた。
[あれマジだったのかwwwwww]
[おめでとうーーーーー!!]
[いや、ずっと付き合ってたからいまは別におめでとうのタイミングじゃないのでは????」
[待って待ってくれ待ってくれ理解が追いつかない。私が知ってるみとりくは、オタクの夢を壊さない超良質の擬似カップルだったはずなんだ]
理空が呆然と口を開けたまま動かなくなっているのを見て、慶介は笑いながら頬をつついた。
「理空。起きて」
「…………いや。ちょ、あの、言ってよかったの? 事務所とかスクールに怒られない?」
「許可とったとった。年明けにニューヨークでLGBTQの俳優とかミュージシャンが集まるイベントがあるらしいから、ふたりで行ってきなさいって」
「……? いみがわかりません」
「ハリウッドに顔を売ってこいと。理空も行くんだよ、マネージャーさんにくっついて仕事覚えてきなさいって」
理空が後ろにぶっ倒れそうになるのを、慶介が抱きとめる。
[ギャーーーーwwwwwww]
[てぇてぇ……てぇてぇよぅ…………]
[だいじょぶか。オタクみんな生きてるか]
古参視聴者がバタバタと死んでいくなか、慶介目当てできた新規ファンたちは、けっこう面白がって笑っている。
[デビュー前にリア恋終わったww]
[変なアイドルとか女子アナと結婚しないの確定してるなら、私は推せる]
「女性と結婚は絶対にしないですね。理空にしか興味ないので。理空しか付き合ったことないですし」
[デビュー前に一生スキャンダル無しが確定した、正統派イケメン若手俳優]
[伝説やw]
[焼き肉食べなよw]
「あ、はい。では焼いていきたいと思います。理空、何がいい?」
「牛タン。あっ、自分で焼くから平気だよ」
理空がトングに手を伸ばす。
慶介はその手首を掴んで自分の元に引き寄せ、耳元でこうささやいた。
理空が片手を伸ばし、不慣れな手つきでスマホの画角を調整する。
焼き肉屋の個室。
本来なら対面で座って食事をするのだろうが、ソファにぴったり隣り合って座るのが、みとりくなのである。
届いた皿を並べながら、慶介が微笑む。
「いいよ、配信始めちゃって」
「え? じゃあ水戸くん一旦座ってよ」
「いいの。俺は肉並べながら登場くらいがちょうどいい」
そんなわけない、と理空は思う。
配信を見に来るひとのほとんどは、水戸慶介目当てに決まっている。
約半年前、BL杯を逃した――わざと失格になった――ふたりだったが、なんと、気鋭の若手映画監督が慶介を気に入ったということで、映画出演のオファーが来た。
準主役級で、しかも、硬派な時代劇。
慶介は、殺陣の稽古や役作りのため多忙を極めていた。
最近ようやく撮影が終わり、メディアやSNSで露出が増えたため、デビュー前にもかかわらずファンがつきはじめた。
そんな注目の若手俳優がはじめてネット配信をするということで、配信前の待機人数はいつもよりかなり多い。
他方理空は、マネージャー科に転籍した。
社会人マナー等を学びながら通信制高校の課題もこなすダブルスクール状態のなか、必ず夜は時間を作ってゲーム配信。
BL杯のときの視聴者たちも変わらず応援してくれているし、半年間コツコツ続けてきたおかげで、幅広くファンが増えてきた。
そういうわけで、互いに忙しかったふたりにとって、ともだちチャンネルの実現は悲願であった。
……なんていうのはまあ、大げさなのだが。
とにかく楽しみにしてきた。
「押すよ、いい?」
「うん」
かすかに震える手で、配信スタートの赤い丸に触れる。
「みなさんこんにちは。りくです。ええと、サブチャンネルを開設しました。友達の、水戸慶介くんです」
皿を配り続ける慶介を、理空がちょいちょいと指差す。
[みとりくだーーーーーー!!!]
[水戸くん久しぶり!!!]
BL杯時代から推してくれている視聴者が、一気に湧く。
「えーと。僕のゲーム配信から入ったひとに説明すると、彼は俳優の水戸慶介くんです。水戸くんは、再来月公開の映画『黎明の刻、有明の月』の伏屋邦宗役でデビューします。……ええと、なんでそんな有名人と僕がふたりで焼き肉屋さんに来ているかというと、」
「付き合ってるからです」
「そう、付きあ…………って、はあッ!? ちょっ、ちょ、ぅえ!? 水戸くん、なな、なに言って」
理空は青ざめ、手をぱたぱたさせる。
打ち合わせと違う。
この配信は、付き合っていることを秘密にするのは大前提で、『同じスクールで仲の良い友達同士で、ゆるい雑談サブチャンネルをやる』というコンセプトだったはず。
[え!?! ホントに付き合ったの!!?]
[えーーーーーー!!!!]
案の定チャット欄は驚きで埋め尽くされている。
慶介は穏やかな表情で、焼き肉のタレを小皿に注ぎながら言った。
「BL杯の6日目に告白して、それからずっと付き合ってます」
チャットが一瞬静かになる。
……と次の瞬間には、また滝のように文字が流れてきた。
[あれマジだったのかwwwwww]
[おめでとうーーーーー!!]
[いや、ずっと付き合ってたからいまは別におめでとうのタイミングじゃないのでは????」
[待って待ってくれ待ってくれ理解が追いつかない。私が知ってるみとりくは、オタクの夢を壊さない超良質の擬似カップルだったはずなんだ]
理空が呆然と口を開けたまま動かなくなっているのを見て、慶介は笑いながら頬をつついた。
「理空。起きて」
「…………いや。ちょ、あの、言ってよかったの? 事務所とかスクールに怒られない?」
「許可とったとった。年明けにニューヨークでLGBTQの俳優とかミュージシャンが集まるイベントがあるらしいから、ふたりで行ってきなさいって」
「……? いみがわかりません」
「ハリウッドに顔を売ってこいと。理空も行くんだよ、マネージャーさんにくっついて仕事覚えてきなさいって」
理空が後ろにぶっ倒れそうになるのを、慶介が抱きとめる。
[ギャーーーーwwwwwww]
[てぇてぇ……てぇてぇよぅ…………]
[だいじょぶか。オタクみんな生きてるか]
古参視聴者がバタバタと死んでいくなか、慶介目当てできた新規ファンたちは、けっこう面白がって笑っている。
[デビュー前にリア恋終わったww]
[変なアイドルとか女子アナと結婚しないの確定してるなら、私は推せる]
「女性と結婚は絶対にしないですね。理空にしか興味ないので。理空しか付き合ったことないですし」
[デビュー前に一生スキャンダル無しが確定した、正統派イケメン若手俳優]
[伝説やw]
[焼き肉食べなよw]
「あ、はい。では焼いていきたいと思います。理空、何がいい?」
「牛タン。あっ、自分で焼くから平気だよ」
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