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Day4 - いっぱいくっつきたいよ

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「うわ、ちょっと、大丈夫? って、慶介か。どうした?」
「いや、変なのに絡まれただけ」
「マジか。……やっかみかな」

 ディスプレイの順位を見ながらつぶやいたのは、声楽一科の有名人だ。
 確か名前は……

「おいおいおい、ハルト何しとんねん。他の子泣かしたらあかんやろ」
「はあ? 俺が泣かせたわけな……」
「ごめんなー? うちのハルトのせいやったらオレが代わりに怒っといたるから」
「人の話を聞け」

 僕がぽかんとして見ていると、水戸くんがぷっと噴き出した。

「あはは。ユーキ、違う。ほんとにハルトは声掛けてきてくれただけ」
「あ、そうなん? ははは、ごめんなーてっきりやらかしたかと…………、いや、ハルト、わる、悪かっ……」

 声をかけてきてくれたのは、クラシック音楽の声楽一科生・落合晴人おちあいはるとさんで、怒られている関西弁の人は、同じ科の志藤祐樹しとうゆうきさん。
 どちらも優秀で、デビュー前から注目されていると、噂で聞いたことがある。

「信じらんないな。仮にも交際相手に疑ってかかる奴とかいる?」
「いやー……、なんや大人しそーな子が泣いとるわと思ったらお前がおって、いつものレッスンの調子で叱りつけたんかと」
「ばか。飯食ってる人にいきなり怒る奴いるわけないだろ」

 きょとんとする僕の頭を撫でながら、水戸くんはくすくす笑う。

「このふたりは同期で、科は違うんだけど仲がいいんだ」

 ディスプレイを見ると、ふたりは4位。
 まあ、ハルトさんは色素が薄くて貴公子感があるし、ユーキさんは短髪で精悍せいかんな顔立ちで、人気があるだろうなというのは簡単に想像がつく。

「……あのふたりより人気にならないと、水戸くんはデビューできないんだもんね?」
「まあ、弱気になりたくなる気持ちはわかるけど。ふたりとも魅力的だし。でも俺たちは俺たちで、やれることはいっぱいあると思うよ」

 ギリギリとチョークスリーパーを決めながら、ハルトさんがにっこり微笑む。

「それじゃあ、お騒がせしました。慶介、あんまり気に病むなよ」
「あはは、ありがとう。ユーキのこと、そろそろ放してあげて」
「…………っだぁ。死ぬかと思ったわ。まあ、なんや、ボクちゃん。困ったことがあったらいつでも言うてな? げほ」
「どうも、ありがとうございます」

 嵐のようなふたりが去っていく。
 遠巻きに見ていた人たちも食事を再開して、なんとか場がおさまった。

「……はあ、どうしようかと思っちゃった。ほんとにごめんね、僕のせいで事が大きくなっちゃって」
「レストランに来るのは、精神衛生上あんまりよくないかもね。いままでどおり、ルームサービスにしようか」
「うん、そうする」

 ちょっと、調子に乗ってしまっていたのかもしれない。
 かっこいい人に甘やかされて、自分では絶対になれないような順位につけて、いっぱいコメントももらえたから、人気になったような気持ちになっていたのではないか。

 でも、それは違う。
 僕は、水戸くんのデビューのために、力を尽くさなくちゃいけないんだ。

「水戸くん。僕もっと、ちゃんとするから」
「理空? あの、ちゃんとなんかしなくていいから、……そろそろ気づいて欲しい」
「え? なに?」
「可愛い子に煽られっぱなしで、俺もう、キス我慢するの限界なんだよ。していい?」

 一斉に周りの視線が集まる。
 ぼんっと、顔から火を噴くかと思った。
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