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9章 ほんとに、お前しかいないわ
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連休のど真ん中。天気は快晴。
少しだけ開けた車の窓から、初夏の風が入ってくる。
ハンドルを握る歩夢の黒髪がさらさらと揺れるのが、あまりにもきれいで……
「安西さん? どうしました?」
「あ、いや。次のサービスエリアで交代しような」
「まだ平気ですよ」
移動手段を話し合った結果、レンタカーを借りて、気ままなふたり旅を楽しむことにした。
歩夢がコソコソ調べていたのは、乗り心地のよい車だったようだ。
「意外だよなあ、歩夢が運転うまいの」
「田舎は車がないと生きていけないので。脱輪即ち死みたいなあぜ道を通らないと、最寄りのスーパーに行けないんです」
「へー」
と、気の抜けた返事をしているが、内心ドッキドキである。
女の子がよく、『バックするときの男の人の横顔が好き』なんてことを言っていたりするが、いまならすごくよく分かる。
サービスエリアの駐車場で、全方位をでかいファミリーカーに挟まれた空間に一発で入れたときは、キュン死するかと思った。
ポンッとナビの音が鳴って、無機質なアナウンスの声が聞こえた。
――この先、分岐が続きます
道路標識を見ると、なかなか複雑だ。
しかし歩夢はすいすいと車線変更していき、難なく目的地へのレーンに乗る。
「やべ、一生乗ってたいわ。お前の運転、乗り心地良すぎ」
「一生は困りますね。エッチできないじゃないですか」
「ぶ……ッ! おま、これドラレコついてんだぞ」
オレが慌てるも、歩夢は涼しい顔のまま、進路を見据えている。
「車内の音声は、録音オフにしてます。なので、万が一安西さんがものすごく恥ずかしいことを言ってしまっても、俺しか聞いてません」
「……そうかよ」
急に恥ずかしくなって、意味もなくバックミラーを見る。
若いカップルのようで、小さな鏡越しでも、付き合いたてほやほやなのかなというような仲睦まじさが見えた。
不意に、朝倉さんの目には、オレたちがこんな風に見えていたのだろうか……と考えてしまい、さらに恥ずかしくなった。
「おお~すげえ。思ったより広いし綺麗だな」
通された和室に入るなり、年甲斐もなくはしゃいでしまった。
老舗の旅館。夕食は部屋で懐石料理。天然温泉の内風呂付き。
荷物を放り出しあちこち見るのを、歩夢はクスクス笑いながら見ている。
「床の間まであって、豪華ですね」
「風呂どんなだろ」
掃き出し窓をカラカラと開けると、ヒノキ造りの露天風呂があった。
掛け流しの天然温泉で、疲労回復や腰痛なんかに効くのだと、説明に書いてある。
部屋ごとについた風呂なので、他人が入ってくることはなく……まあ、イチャイチャし放題ということで。
時刻は16:00を過ぎたところで、夕食まではまだ時間がある。
「飯の前に、その辺散策する?」
「そうですね。5分くらい歩いたところに神社の参道があって、お土産物屋さんが並んでいるみたいですよ」
「下調べバッチリだな」
「……これでも結構、はしゃいでます」
ぎゅうっと抱きしめられる。
日常とは違うシチュエーションだからか、これだけでドキドキしてしまう。
歩夢はするするとオレの髪を撫で、うれしそうに目を細めると、子犬顔を近づけてきた。
「キスしたらその先も我慢できないと思ったので、夕飯食べ終わるまで控えようとしたんですけど……。やっぱり我慢できないので、キスはしちゃいます」
「ん」
軽く唇が触れて、思わず小さく吐息を漏らすと、口ごと食べるみたいに大胆にキスされた。
抱きしめる腕に力を込めると、舌がぬるっと入ってくる。
「ふ……ぁ」
「がまん、我慢がまん……」
ブツブツ唱えながら、唇をくっつけるのと離すのを繰り返している。
舌で口の中をなぞられると、ゾクゾクと背中が粟立った。
「だめ、歩夢……ストップ」
「……理性が失われそうなんですけど、…………お土産見に行きましょうか」
苦渋の決断、みたいな顔で、思わず笑ってしまった。
少しだけ開けた車の窓から、初夏の風が入ってくる。
ハンドルを握る歩夢の黒髪がさらさらと揺れるのが、あまりにもきれいで……
「安西さん? どうしました?」
「あ、いや。次のサービスエリアで交代しような」
「まだ平気ですよ」
移動手段を話し合った結果、レンタカーを借りて、気ままなふたり旅を楽しむことにした。
歩夢がコソコソ調べていたのは、乗り心地のよい車だったようだ。
「意外だよなあ、歩夢が運転うまいの」
「田舎は車がないと生きていけないので。脱輪即ち死みたいなあぜ道を通らないと、最寄りのスーパーに行けないんです」
「へー」
と、気の抜けた返事をしているが、内心ドッキドキである。
女の子がよく、『バックするときの男の人の横顔が好き』なんてことを言っていたりするが、いまならすごくよく分かる。
サービスエリアの駐車場で、全方位をでかいファミリーカーに挟まれた空間に一発で入れたときは、キュン死するかと思った。
ポンッとナビの音が鳴って、無機質なアナウンスの声が聞こえた。
――この先、分岐が続きます
道路標識を見ると、なかなか複雑だ。
しかし歩夢はすいすいと車線変更していき、難なく目的地へのレーンに乗る。
「やべ、一生乗ってたいわ。お前の運転、乗り心地良すぎ」
「一生は困りますね。エッチできないじゃないですか」
「ぶ……ッ! おま、これドラレコついてんだぞ」
オレが慌てるも、歩夢は涼しい顔のまま、進路を見据えている。
「車内の音声は、録音オフにしてます。なので、万が一安西さんがものすごく恥ずかしいことを言ってしまっても、俺しか聞いてません」
「……そうかよ」
急に恥ずかしくなって、意味もなくバックミラーを見る。
若いカップルのようで、小さな鏡越しでも、付き合いたてほやほやなのかなというような仲睦まじさが見えた。
不意に、朝倉さんの目には、オレたちがこんな風に見えていたのだろうか……と考えてしまい、さらに恥ずかしくなった。
「おお~すげえ。思ったより広いし綺麗だな」
通された和室に入るなり、年甲斐もなくはしゃいでしまった。
老舗の旅館。夕食は部屋で懐石料理。天然温泉の内風呂付き。
荷物を放り出しあちこち見るのを、歩夢はクスクス笑いながら見ている。
「床の間まであって、豪華ですね」
「風呂どんなだろ」
掃き出し窓をカラカラと開けると、ヒノキ造りの露天風呂があった。
掛け流しの天然温泉で、疲労回復や腰痛なんかに効くのだと、説明に書いてある。
部屋ごとについた風呂なので、他人が入ってくることはなく……まあ、イチャイチャし放題ということで。
時刻は16:00を過ぎたところで、夕食まではまだ時間がある。
「飯の前に、その辺散策する?」
「そうですね。5分くらい歩いたところに神社の参道があって、お土産物屋さんが並んでいるみたいですよ」
「下調べバッチリだな」
「……これでも結構、はしゃいでます」
ぎゅうっと抱きしめられる。
日常とは違うシチュエーションだからか、これだけでドキドキしてしまう。
歩夢はするするとオレの髪を撫で、うれしそうに目を細めると、子犬顔を近づけてきた。
「キスしたらその先も我慢できないと思ったので、夕飯食べ終わるまで控えようとしたんですけど……。やっぱり我慢できないので、キスはしちゃいます」
「ん」
軽く唇が触れて、思わず小さく吐息を漏らすと、口ごと食べるみたいに大胆にキスされた。
抱きしめる腕に力を込めると、舌がぬるっと入ってくる。
「ふ……ぁ」
「がまん、我慢がまん……」
ブツブツ唱えながら、唇をくっつけるのと離すのを繰り返している。
舌で口の中をなぞられると、ゾクゾクと背中が粟立った。
「だめ、歩夢……ストップ」
「……理性が失われそうなんですけど、…………お土産見に行きましょうか」
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