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9章 ほんとに、お前しかいないわ
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怒濤の4月を駆け抜け、ゴールデンウィーク前の金曜、夜。
正式に販促課の所属になった、田村と大曽根の歓迎会をした。
みんなで会社近くの海鮮居酒屋に行き、貝の網焼きで盛り上がった。
歩夢は隅の席にいたが、さりげなく机を拭いたり、食べ終えた貝の殻を回収して店員が運びやすいようまとめたり……まあきょうも、家庭の方針を守る気の利くやつだった。
そんな感じで、お開きになり。
「んじゃ大曽根。悪いけど、田村のことよろしくな」
「はい。ほんと、酒弱いのにペース早いの、学生時代から変わってなくて……ほらー田村、自分で歩いて」
「安西さ~ん! また色々教えてくださ~い」
「もう、先輩に絡まないの。タクシー来るよ」
ぷりぷり怒りながらも肩を貸す大曽根は、いい奴だ。
田村も楽しそうで何より。
明るいメンツが増えて、少し仕事が楽になるといいな、なんてことをぼんやり考えた。
皆が解散し、歩夢とふたりで、駅に向かって歩き出す。
「安西さん、きょうはうち来ます?」
「うん。オセロやろ。このほろ酔い状態ならお前に勝てる気がする」
「酔拳みたいな感じですか」
「そそ。酔ったリラックス状態で能力全開放して、圧勝よ」
くだらない会話をしながら、雑踏の中へ紛れてゆく……と、歩夢のスマホが鳴った。
「あれ? 部長からです」
スマホ画面をタップすると、いつもの無表情・抑揚のない声になる。
分かりやすく緊張しているのが、少々可愛い。
金曜の駅前はなかなかに騒がしく、どうやら相手の声が聞き取りにくいらしい。
歩夢はビルのすき間を指差したあと、申し訳なさそうにぺこりと頭を下げて、静かな場所へ移動した。
オレはのんびり駅を目指す。
今年のゴールデンウィークは、土日を巻き込んでの大型連休なので、1泊2日で温泉旅行の予定だ。
どうやら歩夢は、学校行事と家族以外で旅行に行くのは、初めてらしい。
オレがトイレなどのときになんだかコソコソ検索しているので、楽しみにしてくれているのだと思う。
卓球したら、体力と身長差で、コテンパンにやられるかな。
いや、歩夢の性格ならきっと、オレに合わせてまったりラリーを続けようとするはず。
そんな、どうでもないことを考えていた、そのときだった。
「あれ? 周?」
突然、誰かに後ろから呼ばれる。
パッと振り向くと、声の主はオレの顔を見て、懐かしそうに満面の笑みを浮かべていた。
「うわーやっぱり周だ。久しぶりだね」
「よ、洋介さんっ」
「元気してた?」
「はい、まあ……」
ごまかすように、ぼりぼりと頭を掻く。
初恋の人が、そこにいた。
正式に販促課の所属になった、田村と大曽根の歓迎会をした。
みんなで会社近くの海鮮居酒屋に行き、貝の網焼きで盛り上がった。
歩夢は隅の席にいたが、さりげなく机を拭いたり、食べ終えた貝の殻を回収して店員が運びやすいようまとめたり……まあきょうも、家庭の方針を守る気の利くやつだった。
そんな感じで、お開きになり。
「んじゃ大曽根。悪いけど、田村のことよろしくな」
「はい。ほんと、酒弱いのにペース早いの、学生時代から変わってなくて……ほらー田村、自分で歩いて」
「安西さ~ん! また色々教えてくださ~い」
「もう、先輩に絡まないの。タクシー来るよ」
ぷりぷり怒りながらも肩を貸す大曽根は、いい奴だ。
田村も楽しそうで何より。
明るいメンツが増えて、少し仕事が楽になるといいな、なんてことをぼんやり考えた。
皆が解散し、歩夢とふたりで、駅に向かって歩き出す。
「安西さん、きょうはうち来ます?」
「うん。オセロやろ。このほろ酔い状態ならお前に勝てる気がする」
「酔拳みたいな感じですか」
「そそ。酔ったリラックス状態で能力全開放して、圧勝よ」
くだらない会話をしながら、雑踏の中へ紛れてゆく……と、歩夢のスマホが鳴った。
「あれ? 部長からです」
スマホ画面をタップすると、いつもの無表情・抑揚のない声になる。
分かりやすく緊張しているのが、少々可愛い。
金曜の駅前はなかなかに騒がしく、どうやら相手の声が聞き取りにくいらしい。
歩夢はビルのすき間を指差したあと、申し訳なさそうにぺこりと頭を下げて、静かな場所へ移動した。
オレはのんびり駅を目指す。
今年のゴールデンウィークは、土日を巻き込んでの大型連休なので、1泊2日で温泉旅行の予定だ。
どうやら歩夢は、学校行事と家族以外で旅行に行くのは、初めてらしい。
オレがトイレなどのときになんだかコソコソ検索しているので、楽しみにしてくれているのだと思う。
卓球したら、体力と身長差で、コテンパンにやられるかな。
いや、歩夢の性格ならきっと、オレに合わせてまったりラリーを続けようとするはず。
そんな、どうでもないことを考えていた、そのときだった。
「あれ? 周?」
突然、誰かに後ろから呼ばれる。
パッと振り向くと、声の主はオレの顔を見て、懐かしそうに満面の笑みを浮かべていた。
「うわーやっぱり周だ。久しぶりだね」
「よ、洋介さんっ」
「元気してた?」
「はい、まあ……」
ごまかすように、ぼりぼりと頭を掻く。
初恋の人が、そこにいた。
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