デリヘル頼んだら会社の後輩(根暗)が来た

御堂どーな

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6章 好きが止まらん

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 仕事が終わり、いつもどおり家に帰る……その道中に聞けばいいものの、どうしても勇気が出ず、聞けずじまいのまま、家に着いてしまった。
 昼飯のとき、何話してたの?
 ただそう切り出せばいいだけなのにな。

 家に入ると、いつもは玄関でむぎゅっと抱きついてくる篠山が、珍しく神妙な面持ちで、突っ立ったままになっていた。

「どした? 入んねえの?」
「……あの、ですね。安西さん。ちょっと、ご相談が、ありまして」

 表情が硬い。顔色も悪い。
 オレは努めて明るく「なに」と言いながらヘラヘラ笑って、篠山の両手を軽く握った。

「あの……きょう、お昼を朝倉さんにごちそうになったんですけど、『気をつけなさい』って言われました」
「なにが?」
「付き合ってるの、見る人が見れば、バレバレだ……って」
「見る人……?」

 篠山の手が、小さく震えている。

「と、とりあえず座って話そ? ゆっくりでいいから、何言われたのか教えて欲しい」

 沈んだ表情の篠山をソファに座らせ、コーヒーを淹れる。
 ふたり分のカップをテーブルに起き、隣に座ると、篠山はこてんと肩に頭を乗せながら言った。

「朝倉さん、恋愛対象が女性で、長年女の人と付き合ってるらしいんです」
「ま、マジ!?」
「はい。で、俺と安西さんが……その、あまりにも露骨にお付き合いしたてのバカップル過ぎて、見ててハラハラしちゃう、と」

 予想外の展開で、めまいがしてくる。

「お正月に、社用スマホで電話したじゃないですか。1分だけですけど。あの記録を見て確信したらしいです。個人的に親しいレベルじゃないなって」
「はあああ? 名探偵すぎるだろ。てか、えっ? それって、総務の人みんな把握してんの?」

「いえ。通話記録のチェックは、朝倉さんがワンオペで担当してるそうです。って言っても、不自然に私用で長電話してるっぽい人がいないか見るだけなので、普段はそんなに厳密に見てないって。ただ、1/1の深夜に通話した人が俺以外にいなかったので、たまたま目についただけみたいです」

 そもそもの話で、篠山が社用スマホを使うことは滅多にない。
 ずっとデスクワークだから、使うのは基本的に固定電話だし、新卒社員には、休みに急な仕事が入って対応しなければならないようなことも起きない。

 すると、篠山が突然、ふふっと笑い出した。

「俺、入社してから社用スマホ使ったの、2回だけらしいです」
「あ! ラブホ!?」
「そうです。ホテルに着いたので部屋のドア開けてくださいって。30秒くらいですよね」

 就業時間外に、短すぎる通話。しかも相手は2回とも安西。
 短すぎるゆえに、私用電話だとバレバレ。
 通話記録を見つけた瞬間の朝倉さんの心情を想像すると、思わず情けない声が漏れた。
 最近やたら篠山を構いたがるオレを見て、つじつまが合ってしまったのではなかろうか……。

「はあああ。朝倉さん、すげー目ざといな。恐れ入ったわ」
「誰にも言わないけど、気をつけなさいって」
「菓子折包んで持ってくか?」
「それが……、ですねっ。ここからは、俺が謝らないとなんですけど」

 篠山は居住まいを正し、オレの目を見た。

「勝手に、勝手にすみません。でも、いましかチャンスがないと思ったので……聞いてしまいました。『安西さんと一緒に住みたいんですけど、どうすればいいですか』って」
「お、おお? まじか。聞いたのか。……思ったよりチャレンジャーだなお前」
「すみません」

 ……で? なんだって?
 続きを促すと、篠山は視線をそらし、もごもごと言いにくそうにしながら、ひとつひとつ言葉を選ぶように言った。

「まあ、住所が同じになったら、100%バレる、と。手続きとか書類発送とか、給与関係とか、社員の個人情報を扱う部署はたくさんあるので、すぐに噂が広がると思う……って言われました」
「だよなー」

 そして朝倉さんは、このようにアドバイスしてくれたそうだ。
 同棲は諦めて隠して生きていくもよし、一緒に住む言い訳を考えてゴリ押すもよし、完全に交際をオープンにするもよし。
 ふたりでよく考えなさい……と。

「なんでもない後輩と一緒に住む言い訳は思いつかねえなー」
「ですよね。となると、二択なのかな、と」

 隠すか、公言するか。
 しばらく考え込んでいると、篠山が唐突に抱きしめてきた。

「う!?」
「俺は、現状でも十分幸せですよ。お互いの家を行き来して、一緒に過ごせてるので」

 篠山はふんわり微笑むと、子犬顔を近づけてきた。
 唇の手前でピタッと止まり、髪を撫でられる。
 ドキドキしながら待っていると……何も起きない。

「しのやま? キス、しないの?」
「期待しました?」
「ち、違うの……?」
「ふふ、からかっただけです。ちゃんとキスですよ」

 ちょっと間を置いてから、優しく唇が重ねられた。
 思わず背中にしがみつく。
 なんだよ、ちゃんとキス、って。
 キュンキュンするのが止まらん。

「安西さんいま、めちゃくちゃ可愛い顔してますよ」
「なにが」
「可愛いって言われて照れてるのも可愛いです」

 ぽすんと背中を叩く。
 篠山はクスクス笑いながら、首筋に顔を埋めて言った。

「1年。まずは1年、この形でやってみませんか」
「うん。夢とか理想で突っ走るよりは、着実にふたりで生きていける方法を考えた方がいいのかもな」

 思い描いていた『お付き合い』の理想像のほとんどは、既に叶っている。
 イチャイチャして、甘えて甘やかされて、毎日エッチして……。

「……回数は減ったらごめんな。ジジイになってこのペースが保てるとは思えん」
「イクだけがセックスじゃないですよ」

 ただこうして抱き合っているのも、篠山的には、セックスと変わりないのだという。

「セロトニンがね、出るんです。脳内がふわっと幸せに包まれて」
「お前の性的表現は、たまによく分かんねえ」

 ふにゃっと溶けそうな顔をしているので、幸せそうだということは、よく分かる。
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