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4章 オレだけにしてくれ
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初日の出を一緒に見たが、仲良く自撮り、なんてことはしなかった。
オレは、あとで見返したら辛くなりそうだなと思ったし、篠山は『会社でうっかり見られたら大変ですよね』と笑って、風景を2~3枚撮っただけ。
ご来光は、ありがたいのだろうか。
ふたりで会う口実を作れたことはありがたさこのうえないし、自分の大失態に気づけたのもよかったが、ミシミシとHPが削られている気がする。
ここからどう挽回すれば想いが通じるのかを考えると、途方もないし……どうしても、手痛い片思いが頭をよぎってしまう。
詮無いことを考えつつ芝浦をあとにし、ファミレスに入った。
辛うじて空いていた窓際の隅っこに案内され、注文する。
「お前、肉とかがっつり食わないのな」
「食べるもので、体の匂いとか変わるらしいので。なるべくお客様に心地よくなってもらいたいですし、食事には気をつけてます」
「アスリートかよ」
……と笑いながら、内心大ダメージを受けた。
別に、オレからの連絡手段のためだけにデリヘルに在籍しているわけじゃなかった。
なんとなく、『安西さんの連絡先がもらえたし、デリヘルはもう辞めます』なんて言葉を期待していたわけだけど。
年末から出勤していないのと、さっきまでの話の流れで、完全に思い上がってしまったのかもしれない。
そして意図せず、嫌味みたいなことが口から出てしまった。
「相手は体臭きついオッサンだったりするんじゃねーの?」
「まあ、そういう方もいますね」
「よくそんなん相手できるな」
「お客様には何も求めてません」
自分で聞いたくせに、面白くない気分だ。
不潔なオッサンも相手にしていることが確定して、自分の中に嫉妬めいたものがあることを感じる。
しかし、せっかく心を開きかけてくれているのに、そんなことは悟らせるわけにはいかないので――全く気にしていないみたいな感じで、笑顔を作った。
「でもさー、セックスが好きって言ったって、仕事上では基本、奉仕するだけなんだろ? 楽しくなくね?」
「いえ、楽しいですよ。お客様が気持ち良くなってるのを見ると、ちゃんとサービス提供できてるのかなって思いますし、性格に合ってるのかな、と」
という表情はフラットなので、無理をしているわけではなさそうに思う。
オレはこの話題を続けたくなくて、話を逸らした。
「あー。篠山さあ、会社でもこのくらい、はっきりしゃべればいいのにな。ずっと、日常会話もおぼつかない性格なのかと思ってたわ」
「1対1の会話ならまだ大丈夫なんですけど、大人数になると、何をしゃべっていいか分からなくなるので、難しいですね」
世渡りが下手くそすぎる……と思ったところで、篠山が突然うつむいた。
そして、もごもごと、恥ずかしそうに言う。
「なんか、聞いてくれてありがとうございます。こんな、自分の考えとか人に言えたの、久しぶりです」
「ヤッてるときめちゃくちゃ饒舌なのにな」
「あ、あれは別に……考えとかじゃないんで」
「ええ? じゃあ何……」
「お待たせしましたー!」
でかい声の店員が来て、オレの疑問は遮断された。
オレは、あとで見返したら辛くなりそうだなと思ったし、篠山は『会社でうっかり見られたら大変ですよね』と笑って、風景を2~3枚撮っただけ。
ご来光は、ありがたいのだろうか。
ふたりで会う口実を作れたことはありがたさこのうえないし、自分の大失態に気づけたのもよかったが、ミシミシとHPが削られている気がする。
ここからどう挽回すれば想いが通じるのかを考えると、途方もないし……どうしても、手痛い片思いが頭をよぎってしまう。
詮無いことを考えつつ芝浦をあとにし、ファミレスに入った。
辛うじて空いていた窓際の隅っこに案内され、注文する。
「お前、肉とかがっつり食わないのな」
「食べるもので、体の匂いとか変わるらしいので。なるべくお客様に心地よくなってもらいたいですし、食事には気をつけてます」
「アスリートかよ」
……と笑いながら、内心大ダメージを受けた。
別に、オレからの連絡手段のためだけにデリヘルに在籍しているわけじゃなかった。
なんとなく、『安西さんの連絡先がもらえたし、デリヘルはもう辞めます』なんて言葉を期待していたわけだけど。
年末から出勤していないのと、さっきまでの話の流れで、完全に思い上がってしまったのかもしれない。
そして意図せず、嫌味みたいなことが口から出てしまった。
「相手は体臭きついオッサンだったりするんじゃねーの?」
「まあ、そういう方もいますね」
「よくそんなん相手できるな」
「お客様には何も求めてません」
自分で聞いたくせに、面白くない気分だ。
不潔なオッサンも相手にしていることが確定して、自分の中に嫉妬めいたものがあることを感じる。
しかし、せっかく心を開きかけてくれているのに、そんなことは悟らせるわけにはいかないので――全く気にしていないみたいな感じで、笑顔を作った。
「でもさー、セックスが好きって言ったって、仕事上では基本、奉仕するだけなんだろ? 楽しくなくね?」
「いえ、楽しいですよ。お客様が気持ち良くなってるのを見ると、ちゃんとサービス提供できてるのかなって思いますし、性格に合ってるのかな、と」
という表情はフラットなので、無理をしているわけではなさそうに思う。
オレはこの話題を続けたくなくて、話を逸らした。
「あー。篠山さあ、会社でもこのくらい、はっきりしゃべればいいのにな。ずっと、日常会話もおぼつかない性格なのかと思ってたわ」
「1対1の会話ならまだ大丈夫なんですけど、大人数になると、何をしゃべっていいか分からなくなるので、難しいですね」
世渡りが下手くそすぎる……と思ったところで、篠山が突然うつむいた。
そして、もごもごと、恥ずかしそうに言う。
「なんか、聞いてくれてありがとうございます。こんな、自分の考えとか人に言えたの、久しぶりです」
「ヤッてるときめちゃくちゃ饒舌なのにな」
「あ、あれは別に……考えとかじゃないんで」
「ええ? じゃあ何……」
「お待たせしましたー!」
でかい声の店員が来て、オレの疑問は遮断された。
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