上 下
9 / 14

9

しおりを挟む
 学校では毎日顔を合わせて、帰ったらLINEで、無事でいるかを確認する。
 トイレのタイミングに気を遣いすぎて死にそうだ、と冗談めかして書いてあった。
 そして、土日が楽しみで仕方がない、とも。

 僕だってそう思ってしまっている。
 うちに来たら、僕の腕の中に来たら、どんな風に甘やかしてあげようかとか……そんなことばかり。
 ぼんやりしているのを校長は密かに気遣ってくれたが、大丈夫だと笑顔で答えた。

 ――ピンポーン

 金曜夜、身ひとつで直貴がやってきた。
 曰く、いつも通りの感じでフラッと出てきた、と。
 むぎゅっと抱きつきながら、感慨深そうに言う。

「はー……やっと会えたあ」
「さっきホームルームでさようならしたでしょ?」
「そういうことじゃなくってさ」

 可愛いところが見たくて言わせようとしているのだから、僕はタチが悪い。
 直貴はきょろっとした目でこちらを見上げながら言った。

「俺が会いたかったのは、朋之さん」
「あはは。僕もね、こんなことばっかり考えてた」

 不意打ちにキスを落とすと、直貴は目を見開いて驚いた様子を見せた。

「きょうは出前にしよう。作ってる時間が惜しい」

 信じていないわけではないが、確かめずにはいられなくて、Tシャツをめくった。
 痕もあざも、増えてはいない。
 ほっとして頭をなでる。

「うわ、朋之さん、エッチだなあ。急にそんな、脱がす?」
「そういうことにしておいて」

 ぎゅーっと抱きしめたら、意味は伝わったらしい。
 直貴は弱く抱きしめ返しながら、「心配かけてごめんね」とつぶやいた。



「ぁ、……あ、あ……」

 腹の上に乗った直貴が、ズプズプと沈んでくる。
 僕はぬるつく粘膜に包まれて、思わず息を詰めた。
 白い喉をさらしながら声を漏らす直貴は、思考を快楽に絡め取られているように見えた。

「直貴、動いていい?」
「ん、……気持ちよくして」

 腰を支え、何度か突き上げてみる。

「あぁッ、あっ……、奥刺さって……ああっ」
「なか、あったかいよ」
「ん、ぅ……、ぁう……」

 最奥まで届いたところで、僕は直貴の腕をゆっくりとさすりながら尋ねた。

「あのね。もし嫌じゃなかったら教えて欲しいんだけど、こういう行為は誰に教えられたの?」
「……ん、女の人と普通にセックスは、1年の時、……相手の人は、社会人」

 悲しそうな、申し訳なさそうな表情。
 なぜこの子がこんな顔をしなければならないのかと思うと、やるせない気持ちでいっぱいになる。
 トントンと奥を突くと、直貴は、すがるように僕の胸に手を這わせた。

「ここは? お尻の中は?」
「2年の春に、知り合いの友達の男の人」
「要するに知らない人?」
「ん、……そぅ」

 ごめんなさい、とつぶやいた。
 僕は起き上がり、ごろんと攻守交代をする。

「謝らないで。嫌な質問してごめん、悲しくなっちゃったよね。忘れるくらい、幸せなエッチいっぱいしよう?」
「ん。もう忘れたいな。本当はみんな優しくないの、知ってた」

 僕の優しさも、元はと言えばただの毒だったことに、この子は気付いているのだろうか。
 そんな僕の心苦しい気持ちを見透かすように、直貴は笑った。

「……朋之さんだけだよ、ほんとに優しくしてくれたの」
「校長先生も、竹本さんも、協力してくれてよかった。良い人たちでよかったね。こうやって僕と直貴が睦み合うのを、許してくれる」
「むつみあう?」
「仲良しすることだよ」

 体の線を手のひらでなぞり、そっとキスする。

「好きだよ、直貴」
「……うん」
「僕のところに来てくれてよかった。全部守ってあげるからね」
「……うん」
「直貴。泣かないで?」
「他の人全員優しくなくてよかった」

 2月の窓辺を思い浮かべる。
 引っ込み思案だった僕をよく気にかけてくれていた恩師は、ふたりになった時にはいつも、とりとめもない話をしてくれていた。

 あの日教授は、何と言ってくれただろうか。
 それに対して僕は、なんと答えただろうか。

 ――お人好しでは教員はやれないよ。『優しい先生』というのは、時に、子供にとって猛毒になるもんだから
 ――害ってことですか?
 ――そうだねえ。何でもかんでもいいよいいよと優しくしては、子供の考える力をなくしてしまう
 ――見極めはどこに?
 ――自分がね、気付くんだよ。これ以上関わったらダメにしてしまうなと、思う瞬間がある

 ホットココアの湯気でくもった、眼鏡の奥。
 しわくちゃの目で温かいまなざしを向ける恩師は、こう言ったのだ。

 ――木下くん、君は特に、踏み込まないように気をつけなさい

 何と答えたのかは、思い出せない。

「朋之さん、いっこ教えるね」

 口を開け、赤い舌をチラリと見せた直貴は、切なげな表情で僕を見た。

「キスしたのは朋之さんが初めてだよ」
「……そう。良かった」

 きっと僕は、額へのキスに応じた時に、踏み込んでしまったのだと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

さっちゃんと僕

BL
今でも、思い出せる、僕の小学生、中学生の時の体験談を小説風にしてみました。 内容は、多少の脚色が入っていますが、ほぼ実話です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

できる執事はご主人様とヤれる執事でもある

ミクリ21 (新)
BL
執事×ご主人様。

処理中です...