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学校では毎日顔を合わせて、帰ったらLINEで、無事でいるかを確認する。
トイレのタイミングに気を遣いすぎて死にそうだ、と冗談めかして書いてあった。
そして、土日が楽しみで仕方がない、とも。
僕だってそう思ってしまっている。
うちに来たら、僕の腕の中に来たら、どんな風に甘やかしてあげようかとか……そんなことばかり。
ぼんやりしているのを校長は密かに気遣ってくれたが、大丈夫だと笑顔で答えた。
――ピンポーン
金曜夜、身ひとつで直貴がやってきた。
曰く、いつも通りの感じでフラッと出てきた、と。
むぎゅっと抱きつきながら、感慨深そうに言う。
「はー……やっと会えたあ」
「さっきホームルームでさようならしたでしょ?」
「そういうことじゃなくってさ」
可愛いところが見たくて言わせようとしているのだから、僕はタチが悪い。
直貴はきょろっとした目でこちらを見上げながら言った。
「俺が会いたかったのは、朋之さん」
「あはは。僕もね、こんなことばっかり考えてた」
不意打ちにキスを落とすと、直貴は目を見開いて驚いた様子を見せた。
「きょうは出前にしよう。作ってる時間が惜しい」
信じていないわけではないが、確かめずにはいられなくて、Tシャツをめくった。
痕もあざも、増えてはいない。
ほっとして頭をなでる。
「うわ、朋之さん、エッチだなあ。急にそんな、脱がす?」
「そういうことにしておいて」
ぎゅーっと抱きしめたら、意味は伝わったらしい。
直貴は弱く抱きしめ返しながら、「心配かけてごめんね」とつぶやいた。
「ぁ、……あ、あ……」
腹の上に乗った直貴が、ズプズプと沈んでくる。
僕はぬるつく粘膜に包まれて、思わず息を詰めた。
白い喉をさらしながら声を漏らす直貴は、思考を快楽に絡め取られているように見えた。
「直貴、動いていい?」
「ん、……気持ちよくして」
腰を支え、何度か突き上げてみる。
「あぁッ、あっ……、奥刺さって……ああっ」
「なか、あったかいよ」
「ん、ぅ……、ぁう……」
最奥まで届いたところで、僕は直貴の腕をゆっくりとさすりながら尋ねた。
「あのね。もし嫌じゃなかったら教えて欲しいんだけど、こういう行為は誰に教えられたの?」
「……ん、女の人と普通にセックスは、1年の時、……相手の人は、社会人」
悲しそうな、申し訳なさそうな表情。
なぜこの子がこんな顔をしなければならないのかと思うと、やるせない気持ちでいっぱいになる。
トントンと奥を突くと、直貴は、すがるように僕の胸に手を這わせた。
「ここは? お尻の中は?」
「2年の春に、知り合いの友達の男の人」
「要するに知らない人?」
「ん、……そぅ」
ごめんなさい、とつぶやいた。
僕は起き上がり、ごろんと攻守交代をする。
「謝らないで。嫌な質問してごめん、悲しくなっちゃったよね。忘れるくらい、幸せなエッチいっぱいしよう?」
「ん。もう忘れたいな。本当はみんな優しくないの、知ってた」
僕の優しさも、元はと言えばただの毒だったことに、この子は気付いているのだろうか。
そんな僕の心苦しい気持ちを見透かすように、直貴は笑った。
「……朋之さんだけだよ、ほんとに優しくしてくれたの」
「校長先生も、竹本さんも、協力してくれてよかった。良い人たちでよかったね。こうやって僕と直貴が睦み合うのを、許してくれる」
「むつみあう?」
「仲良しすることだよ」
体の線を手のひらでなぞり、そっとキスする。
「好きだよ、直貴」
「……うん」
「僕のところに来てくれてよかった。全部守ってあげるからね」
「……うん」
「直貴。泣かないで?」
「他の人全員優しくなくてよかった」
2月の窓辺を思い浮かべる。
引っ込み思案だった僕をよく気にかけてくれていた恩師は、ふたりになった時にはいつも、とりとめもない話をしてくれていた。
あの日教授は、何と言ってくれただろうか。
それに対して僕は、なんと答えただろうか。
――お人好しでは教員はやれないよ。『優しい先生』というのは、時に、子供にとって猛毒になるもんだから
――害ってことですか?
――そうだねえ。何でもかんでもいいよいいよと優しくしては、子供の考える力をなくしてしまう
――見極めはどこに?
――自分がね、気付くんだよ。これ以上関わったらダメにしてしまうなと、思う瞬間がある
ホットココアの湯気でくもった、眼鏡の奥。
しわくちゃの目で温かいまなざしを向ける恩師は、こう言ったのだ。
――木下くん、君は特に、踏み込まないように気をつけなさい
何と答えたのかは、思い出せない。
「朋之さん、いっこ教えるね」
口を開け、赤い舌をチラリと見せた直貴は、切なげな表情で僕を見た。
「キスしたのは朋之さんが初めてだよ」
「……そう。良かった」
きっと僕は、額へのキスに応じた時に、踏み込んでしまったのだと思う。
トイレのタイミングに気を遣いすぎて死にそうだ、と冗談めかして書いてあった。
そして、土日が楽しみで仕方がない、とも。
僕だってそう思ってしまっている。
うちに来たら、僕の腕の中に来たら、どんな風に甘やかしてあげようかとか……そんなことばかり。
ぼんやりしているのを校長は密かに気遣ってくれたが、大丈夫だと笑顔で答えた。
――ピンポーン
金曜夜、身ひとつで直貴がやってきた。
曰く、いつも通りの感じでフラッと出てきた、と。
むぎゅっと抱きつきながら、感慨深そうに言う。
「はー……やっと会えたあ」
「さっきホームルームでさようならしたでしょ?」
「そういうことじゃなくってさ」
可愛いところが見たくて言わせようとしているのだから、僕はタチが悪い。
直貴はきょろっとした目でこちらを見上げながら言った。
「俺が会いたかったのは、朋之さん」
「あはは。僕もね、こんなことばっかり考えてた」
不意打ちにキスを落とすと、直貴は目を見開いて驚いた様子を見せた。
「きょうは出前にしよう。作ってる時間が惜しい」
信じていないわけではないが、確かめずにはいられなくて、Tシャツをめくった。
痕もあざも、増えてはいない。
ほっとして頭をなでる。
「うわ、朋之さん、エッチだなあ。急にそんな、脱がす?」
「そういうことにしておいて」
ぎゅーっと抱きしめたら、意味は伝わったらしい。
直貴は弱く抱きしめ返しながら、「心配かけてごめんね」とつぶやいた。
「ぁ、……あ、あ……」
腹の上に乗った直貴が、ズプズプと沈んでくる。
僕はぬるつく粘膜に包まれて、思わず息を詰めた。
白い喉をさらしながら声を漏らす直貴は、思考を快楽に絡め取られているように見えた。
「直貴、動いていい?」
「ん、……気持ちよくして」
腰を支え、何度か突き上げてみる。
「あぁッ、あっ……、奥刺さって……ああっ」
「なか、あったかいよ」
「ん、ぅ……、ぁう……」
最奥まで届いたところで、僕は直貴の腕をゆっくりとさすりながら尋ねた。
「あのね。もし嫌じゃなかったら教えて欲しいんだけど、こういう行為は誰に教えられたの?」
「……ん、女の人と普通にセックスは、1年の時、……相手の人は、社会人」
悲しそうな、申し訳なさそうな表情。
なぜこの子がこんな顔をしなければならないのかと思うと、やるせない気持ちでいっぱいになる。
トントンと奥を突くと、直貴は、すがるように僕の胸に手を這わせた。
「ここは? お尻の中は?」
「2年の春に、知り合いの友達の男の人」
「要するに知らない人?」
「ん、……そぅ」
ごめんなさい、とつぶやいた。
僕は起き上がり、ごろんと攻守交代をする。
「謝らないで。嫌な質問してごめん、悲しくなっちゃったよね。忘れるくらい、幸せなエッチいっぱいしよう?」
「ん。もう忘れたいな。本当はみんな優しくないの、知ってた」
僕の優しさも、元はと言えばただの毒だったことに、この子は気付いているのだろうか。
そんな僕の心苦しい気持ちを見透かすように、直貴は笑った。
「……朋之さんだけだよ、ほんとに優しくしてくれたの」
「校長先生も、竹本さんも、協力してくれてよかった。良い人たちでよかったね。こうやって僕と直貴が睦み合うのを、許してくれる」
「むつみあう?」
「仲良しすることだよ」
体の線を手のひらでなぞり、そっとキスする。
「好きだよ、直貴」
「……うん」
「僕のところに来てくれてよかった。全部守ってあげるからね」
「……うん」
「直貴。泣かないで?」
「他の人全員優しくなくてよかった」
2月の窓辺を思い浮かべる。
引っ込み思案だった僕をよく気にかけてくれていた恩師は、ふたりになった時にはいつも、とりとめもない話をしてくれていた。
あの日教授は、何と言ってくれただろうか。
それに対して僕は、なんと答えただろうか。
――お人好しでは教員はやれないよ。『優しい先生』というのは、時に、子供にとって猛毒になるもんだから
――害ってことですか?
――そうだねえ。何でもかんでもいいよいいよと優しくしては、子供の考える力をなくしてしまう
――見極めはどこに?
――自分がね、気付くんだよ。これ以上関わったらダメにしてしまうなと、思う瞬間がある
ホットココアの湯気でくもった、眼鏡の奥。
しわくちゃの目で温かいまなざしを向ける恩師は、こう言ったのだ。
――木下くん、君は特に、踏み込まないように気をつけなさい
何と答えたのかは、思い出せない。
「朋之さん、いっこ教えるね」
口を開け、赤い舌をチラリと見せた直貴は、切なげな表情で僕を見た。
「キスしたのは朋之さんが初めてだよ」
「……そう。良かった」
きっと僕は、額へのキスに応じた時に、踏み込んでしまったのだと思う。
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