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 体を丁寧に拭き、裸のままベッドに寝かせる。
 それでも足りない、優しくされたいとぐずる生徒に、根負けした形だ。
 挿入はしないと断り、ローションをたっぷり手に取って、指で中を探り始めた。

「……はぁ、先生、ごめんなさい。嫌なことやらせちゃって」
「もういいよ。謝らないで。してあげるから」
「怒らないで、呆れないで」
「大丈夫」

 ぐぷ、ぐちゅ、と、粘着質な音が響く。

「はぁ、あ……ん、」
「答えたくなかったらいいけど……いつもこんな風にされてたの?」
「ん……誰かのところに泊まる時、男の人の家だと、ノリで友達とか呼ばれて、みんな見てるところで、恥ずかしいことされて」
「全然優しくないね」
「最後にみんな帰ったあと、なでてくれる」

 指の方向をぐるりと回すと、悩ましい声を上げた。

「……はぁ、先生、挿れてくれる?」
「それはできないよ」
「挿れて、いっぱいくっついて……っ、優しくして欲しいです」

 こんな倫理を踏み外した要求に従う以外に、この子の不安を消滅させる方法がないかと、必死に考える。
 根源的な甘えと不安感に、性欲が絡んでしまったこの状態――
 指を引き抜くと、か細い声で「やめないで」と懇願された。

「直貴、本当に、これ以上はダメ」
「男だから? 女子だったらする?」
「しません。したって解決しないから」
「……それなら、エッチしてくれる別の人の家に行った方がマシだよ。俺も気持ちいいし、またしたいから来てって言ってくれるし」

 本心でないことは、顔を見なくたって分かる。
 直貴は、泣きそうな声で言った。

「どうしろって言うんですか。他の人とエッチしたらダメなんですよね? でも、先生はしてくれないし、自分でするのもダメって言う。禁止だけして何もしてくれなくて……じゃあ、俺、どうしたらいいんですか? ただ優しくして欲しいだけなのに」

 何をどう言ったって、この子には何も響かないのかも知れない。
 僕は軽くため息をつき、涙をにじませる目元に口づけた。

「ごめんごめん。僕が悪かった。ルール上正しいことが、必ず正しいとは限らないね」

 セックスを伴うことでしか幸せを感じ取る術がない子が、目の前にいる。
 僕は、セックスをしてはいけないというルールを押し付けて、泣かせた。
 これは、正しくないことだ。

「あのね、直貴。ひとつ知って欲しいことがある。世の中には、こんなことをしなくたって得られる幸せとか、人からの優しさとかは絶対にあって、でもいまの君は、それを知らないだけだということ。分かる?」

「ん……」
「きょうは、直貴が分かる形で教えてあげる。けど、違う優しさも、少しずつ知って欲しいな」

 僕は服を脱ぎ、戸棚からコンドームを取り出した。

「……先生? つけるの? 中で出していいよ」
「ダメだよ。性行為の時は必ずつける。特に、相手に優しくしたいなら、絶対」
「中で出す方が愛があるって言ってました」
「それは嘘八百教えられちゃったね。いまからちゃんと、本当に優しくて気持ちいいの、教えてあげる」

 自分のものをこすって勃たせ、何も考えないよう手早くコンドームをつける。
 正常位でキスをし、高く腰を上げてぐっと押し当てると、驚くほどに抵抗なくずぶずぶと沈んでいった。

「ぁあ……っ」

 直貴はあごを跳ね上げ、僕の腕にしがみつく。

「動くよ」
「ん……、ん? もっとしていいよ?」
「ちょっとずつゆっくりする方が気持ちいいから」

 ゆっくり腰を揺らすと、直貴は悶えた。

「…………ッ、ぁあ、あ、変、やぁ……っ、も、激しくして」
「もうちょっとこうしてたら気持ちよくなるから。ね?」
「あ、ぁあっ、がまんできな、……ぁ」

 スローセックスに慣れていないらしい。
 しがみつく直貴の指が、僕の腕に食い込む。

「あ、ぁ、頭おかしくなっちゃ……ぅあ」
「気持ちいい?」
「ん、ん……っ、はぁ、はあっ、せんせぇ……っ」
「気持ちいいかな」
「ああッ、だめ、もぅ……っああ、奥突いてぇっ」

 トントンとリズムをつけて腰を振り始めると、直貴は嬌声を上げた。

「あんっ、あ、ンッ、ぁあ、きもち、先生っ、……せんせ」
「どこ気持ちいい? 教えて?」
「ぜんぶっ、全部気持ちいい」

 正直なところ、自分自身、優しさがどうとか言えなくなってしまいそうになっていた。
 中の感触に引っ張られて、考えが飛んでしまう。
 直貴を傷つけ通り過ぎていった大人たちと同じではないかとさげすみながらも、こうして腰を振っていると――

「……っ、なおき、」
「先生、気持ちいいの?」
「優しくできなかったらごめん」

 パンパンと皮膚が当たる乾いた音が響く。

「ぁあ、せんせ、奥きもち……っ」
「目見て、こっち」

 潤んだ瞳。
 どうしてこんな子にむごいことをする大人ばかり現れるのだろう。
 自分は……? と考えかけてやめる。
 いまは、そういう時じゃない。
 目の前の子は、必死に腕を伸ばして、僕を求めている。

「直貴、気持ちよさそう。うれしい」
「ん、……先生は、俺がきもちぃと、うれしいの?」
「うん、うれしいよ」
「ぁぅ……先生、やさしい、だいすき」

 溶けそうにふにゃっと笑うその表情は、年相応な無邪気さとはかけ離れたものだった。
 大人に要求された色香を、忠実に再現しただけ。
 そこに彼の喜びはあるのかなと考えると、わびしい気持ちになった。

 ……いや、僕までこんな風になってどうする。

「直貴、ベロ出して」
「ぁ……」

 ちゅうっと吸うと、直貴は僕の背中を掻き抱いて身悶えた。

「……ぁあッ、はぁ、は、……ああ、も、」
「イキそう?」
「ん、んぅ……も、出ちゃぅ……っ」
「いいよ」
「あ、出ちゃう、……っごめんなさ、ぁあッ……!……ぁあああっ!……ッ……!」

 謝りながら吐き出す直貴の体を抱きしめ、くたっと力が抜けるのを確認してから、ペニスを引き抜いた。

「……え? 先生まだイッてない……」
「僕はいいよ。気持ち良かった?」
「気持ち良かったけど……先にイッちゃってごめんなさい。あの、先生も出して……」
「いいのいいの。僕は最後までどうとかが目的じゃないしね」

 無理やり言い聞かせて、パツパツのペニスからコンドームを外す。
 おさめる方法は簡単だ。
 直貴の体中に散った鬱血痕キスマークと、心を踏みにじったであろう大人たちを思えば、生理的な興奮などすぐに引いた。

「……やっぱり、本当は嫌だったのに俺が無理にお願いしちゃったから? ごめんなさい」

「違うよ、嫌だったわけじゃない。僕の気持ちの問題。君の中で達してしまったら、月曜日からもう先生はやれないかもって思っただけ」

 教師が生徒に、劣情をぶつけてしまっては。
 しかし直貴は、涙目でぶるぶると首を横に振る。

「俺、先生が優しいからって甘えて、……調子乗っちゃってごめんなさい。泊めてもらえるだけで十分なのに、もっと優しくして欲しいとか、エッチして欲しいとか」

「謝らないで。直貴は何も悪いことしてないでしょ」

 腹に散った精液を丁寧に拭き取り、まぶたに軽くキスする。

「先生、優しい」
「良くないことだって、先生の先生には言われたよ」

 不安げなこの子に、もう一度キスをしてしまうこととか。
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