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6 No Longer Teacher
6-14
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下校のチャイムが鳴って、俺は教室を飛び出した。
校門の前に人だかりを見つけてしまったら、ダメになる気がしたからだ。
ダッシュで中央線に乗って、新宿を回って小田急線・代々木上原駅へ。
走って走って、春馬さんのマンションに着いた。
鞄のサイドポケットから、革のパスケースを取り出す。
初めて合鍵を使うのはきょうにすると、決めていた。
ちょっとドキドキしつつカードキーをかざすと、ガチャッとロックが外れる音がした。
そっと、真っ暗な室内へ。
当たり前だけど、誰もいないこの部屋に来るのは初めてだ。
しんとしていて、変な感じ。
電気をつけて、コートとブレザーは定位置にかけて、そのままもふっとベッドにダイブする。
たくさん泣いて疲れた。
もしかしたら飲み会になるかも知れないと言っていたし、帰るのは遅いかも知れない。
早く会いたい気もするけど、お世話になった先生たちとちゃんとお別れして欲しいから、来ていることは特に知らせないことにした。
冷えた布団にもぞっとくるまり、そっと目を閉じる。
春馬さんのにおいをかすかに感じて、ほっとした。
泣き疲れて寝てしまうなんて子供みたいだ……と思いながら、いつ寝たかも分からないくらい、自然に眠ってしまったらしい。
「みい、ただいま」
「ん……?」
目を覚ましたのは、19:00過ぎ。
コートを着たまんまの春馬さんが、ベッドの縁に腰掛けて、俺の頭をなでていた。
「……おかえり。ごめん、寝てた」
ごろっと寝返りを打ち、立ち上がろうとしたら、春馬さんの方が俺の横にぽすんと寝転がった。
「帰ってきたら、可愛い子が寝てるんだもん。びっくりしちゃった」
「ごめんね、勝手に入って」
「ううん。ここはみいの家だよ」
寝ていた子が想像以上に可愛かったからびっくりしたのだと、春馬さんは言った。
「飲み会は?」
「また後日、忘年会と兼ねてやりましょうってことになった。だから、普通に最後のお仕事をして帰ってきたよ」
「お疲れさま」
春馬さんが、俺の手に冷たい手を重ねて、そのままそっと握ってくれた。
「みいの手、あったかい。やわらかいし」
その声色が愛しくて、ちょっと赤くかじかんだ春馬さんの手に、小さく口づけた。
春馬さんはくすくすと笑って、俺の手に同じようにしてくる。
そして、腕ごと引っ張って、むぎゅっと俺を抱き寄せた。
「みい。あのね、僕いま、分かったことがある」
「なあに?」
顔を上げようとしたけど、さらに強い力でむぎゅっとされて、顔が春馬さんの胸に押し付けられる形になってしまった。
春馬さんの声が、胸骨を伝って、直に響いてくる感じ。
春馬さんは、どんな大事なことに気づいたんだろう。
そっと耳を澄ませると、彼は、穏やかにこう言った。
「萌えるって、こういうことなんだね。BL歴十数年で、初めて知った」
「ん? 萌えた?」
「うん。とっても。みい、可愛い。キュンとするし、萌える」
すっごく大事なことに気づいてくれて、うれしい。
「萌えた状態でキスしたら、めちゃめちゃキュンとするよ」
「試していい?」
腕がゆるまったので、そのままちょっと、顔を上げた。
口がくっつくギリギリのところで、寸止めされる。
「可愛い。大好き」
こんなシンプルなセリフだって、春馬さんが言ったら……。
ふにっとやわらかく、くちびるがくっついた。
この世の全てのBLを読み尽くしても、このちっちゃなキスに勝つキュンなんて、見つけられないと思う。
<6 No Longer Teacher 終>
校門の前に人だかりを見つけてしまったら、ダメになる気がしたからだ。
ダッシュで中央線に乗って、新宿を回って小田急線・代々木上原駅へ。
走って走って、春馬さんのマンションに着いた。
鞄のサイドポケットから、革のパスケースを取り出す。
初めて合鍵を使うのはきょうにすると、決めていた。
ちょっとドキドキしつつカードキーをかざすと、ガチャッとロックが外れる音がした。
そっと、真っ暗な室内へ。
当たり前だけど、誰もいないこの部屋に来るのは初めてだ。
しんとしていて、変な感じ。
電気をつけて、コートとブレザーは定位置にかけて、そのままもふっとベッドにダイブする。
たくさん泣いて疲れた。
もしかしたら飲み会になるかも知れないと言っていたし、帰るのは遅いかも知れない。
早く会いたい気もするけど、お世話になった先生たちとちゃんとお別れして欲しいから、来ていることは特に知らせないことにした。
冷えた布団にもぞっとくるまり、そっと目を閉じる。
春馬さんのにおいをかすかに感じて、ほっとした。
泣き疲れて寝てしまうなんて子供みたいだ……と思いながら、いつ寝たかも分からないくらい、自然に眠ってしまったらしい。
「みい、ただいま」
「ん……?」
目を覚ましたのは、19:00過ぎ。
コートを着たまんまの春馬さんが、ベッドの縁に腰掛けて、俺の頭をなでていた。
「……おかえり。ごめん、寝てた」
ごろっと寝返りを打ち、立ち上がろうとしたら、春馬さんの方が俺の横にぽすんと寝転がった。
「帰ってきたら、可愛い子が寝てるんだもん。びっくりしちゃった」
「ごめんね、勝手に入って」
「ううん。ここはみいの家だよ」
寝ていた子が想像以上に可愛かったからびっくりしたのだと、春馬さんは言った。
「飲み会は?」
「また後日、忘年会と兼ねてやりましょうってことになった。だから、普通に最後のお仕事をして帰ってきたよ」
「お疲れさま」
春馬さんが、俺の手に冷たい手を重ねて、そのままそっと握ってくれた。
「みいの手、あったかい。やわらかいし」
その声色が愛しくて、ちょっと赤くかじかんだ春馬さんの手に、小さく口づけた。
春馬さんはくすくすと笑って、俺の手に同じようにしてくる。
そして、腕ごと引っ張って、むぎゅっと俺を抱き寄せた。
「みい。あのね、僕いま、分かったことがある」
「なあに?」
顔を上げようとしたけど、さらに強い力でむぎゅっとされて、顔が春馬さんの胸に押し付けられる形になってしまった。
春馬さんの声が、胸骨を伝って、直に響いてくる感じ。
春馬さんは、どんな大事なことに気づいたんだろう。
そっと耳を澄ませると、彼は、穏やかにこう言った。
「萌えるって、こういうことなんだね。BL歴十数年で、初めて知った」
「ん? 萌えた?」
「うん。とっても。みい、可愛い。キュンとするし、萌える」
すっごく大事なことに気づいてくれて、うれしい。
「萌えた状態でキスしたら、めちゃめちゃキュンとするよ」
「試していい?」
腕がゆるまったので、そのままちょっと、顔を上げた。
口がくっつくギリギリのところで、寸止めされる。
「可愛い。大好き」
こんなシンプルなセリフだって、春馬さんが言ったら……。
ふにっとやわらかく、くちびるがくっついた。
この世の全てのBLを読み尽くしても、このちっちゃなキスに勝つキュンなんて、見つけられないと思う。
<6 No Longer Teacher 終>
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