先生は腐男子仲間!

御堂どーな

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5 先生だって恋に落ちる

5-2

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 春馬さんが『持って帰ってきた仕事がある』とのことで、14:00過ぎには、彼の家を出た。
 暇だ。
 電車に乗りながら、なんとなく恭平にLINEを送る。

[何してる?]
[ゲーム。部活休み]

 3年が引退して、恭平は水泳部の部長になった。
 顔も心意気もイケメンのモテモテ野郎は、なぜか浮いた噂もなく、貴重な休日も男友達とだらだら遊んでいることが多い。
 まあ、主に俺なんだけど。

 お互い暇ということが分かったので、久しぶりに俺の部屋で、難敵の討伐をすることになった。



 家に戻り軽く部屋の片付けをしていると、階下から姉の声が叫んだ。

「統ー! 恭ちゃんきたよー!」
「はーい」

 トントンと降りていくと、インターホンの前に立つ姉が、慌てて髪をねじって留めていた。
 いまさら清楚ぶったところで、付き合いの長い恭平は姉の黒歴史も余裕で知ってるわけだけど。

 冷ややかな目で横をすり抜け、玄関ドアを開けた。
 よっ、と軽くあいさつをするその手には、駅前のケーキ屋の箱。
 そういえばLINEで、きょうは家族がいるのかと聞かれた。

 騒いでも大丈夫かの確認だと思ってたけど、まさか、手土産の数の確認だったとは……。
 これだから気の利くイケメン細マッチョは。

「楓さんこんにちは。シュークリーム買ってきたんで、食べてください」
「えー! もう、いいのにー。ありがと。恭ちゃんはほんと優しいね」
「いやいや。女子の好みとか分かんないんで、適当ですいません」

 ニコニコと軽くやりとりをして、部屋へ。

「気使ってくれてありがとう。これで向こう3日は俺の身の安全が確保されたわ」
「何が?」
「機嫌悪いと無意味に当たってくるからさ」

 あははと笑って腰を下ろした恭平は、きょろきょろと部屋の中を見回した。

「この様子だと、例のあの子は家には呼んでねえのな」
「は!?」

 思わず大声を上げた俺を見て、恭平はゲラゲラ笑った。

 例のあの子……そういえば、路上で春馬さんからのLINEを読む姿を、こいつに目撃されていたっけ。
 しかし、その後何も聞かれることはなかったし、相手が誰とか進展がどうとかは、一切言っていない。

「でもまあ、うまくいったはいったんだろ?」
「いや……」

 歯切れ悪く、否定も肯定もせずにいると、恭平はカバンからゴソゴソとゲーム機を取り出しながら言った。

「なんか最近の統、見るからに幸せそうだもんな。しかもなんか、普通に彼女できてへらへら~っとしてる感じじゃなくて、なんかもっと、ちゃんと相手のこと責任持って考えてんだろうなって感じがする」

「いや、架空の誰かについてそんなたくましく妄想しなくても……」
「でも実際そうだろ?」

 まるで見ているかのような口ぶり。
 どういう勘の働き方をしているのかは知らないけど、まあ、昔っからそうなので、特に驚きはしない。

 恭平が、電源をプチッとつける。
 俺も真正面にあぐらをかいて、電源ボタンを押した。

「文化祭は? 一緒に回んの?」
「来ない」
「じゃ、俺と回ろ」
「うん」
「ちなみに楓さんは? 後輩の見に来ないかな」
「それは知らん」
「会えたらいいなって言っといて」

 恭平は、ローディング画面を見つめたまま、しばらく黙った。
 そして、ぽつっとつぶやく。

「俺さ。楓さんのこと好きなんだよ。ずっと」
「んー……なんとなく分かってた」

 多分それは、長年のこと。中1くらいからとか。
 ずっと隠していた秘密なはずなのに、こいつのいまの言いぶりは、全然『勇気を出しての大発表』という感じじゃなかった。

 まあ、そりゃあそうだ。
 俺が薄々分かっていたことに、鋭い恭平が気づかないわけがない。

 さすがにヤンキー化したらやめるだろうと思ったけど、全然変わらないから、目を覚ませばいいのにとは思いつつ、本人が何も言わないので俺も何も言わなかった。

 だから逆に、なぜこのタイミングで急に言ってきたのか、謎だ。
 
「楓さんは? 気づいてるかな?」
「いや? 分かんないけど、まんざらでもないんじゃない? 恭平来るとき、なんかそわそわしてる気がするし」

 まあ正直、やめとけとは思う。
 あの性格の姉自身を全くおすすめできないのもあるし、恭平ならもっと可愛くて優しい子といくらでも付き合える。

 しかし恭平は、何ともないような感じで言った。

「こんなこと男相手に何言ってんだって感じだけど、なんか、恋ってままならねえよな」

 そう言って、画面から一切目線を外さない。
 俺はふうっとため息をついて言った。

「なんか手伝う?」
「いや、いい。統だってあれだろ、ほんとはダメな相手。違う?」

 ギクッと肩を揺らす……寸前で止まった。

「統が自力で掴んだんだから、俺も自分でなんとかする。って言っても俺の場合は、どうやってあきらめるか、とかだけど」
「なんで?」

 恭平は、おかしそうに笑った。

「俺がオニイサンとかやだろ?」

 それを聞いて俺は、ぼんやりと、『春馬さんは楓のオトウトか』と思った。
 萌える……のか?
 うん、萌えるかも。
 どのスタンスでいたらいいか分からなくて困る彼を想像すると、思わず笑いそうになる。

 コホンと咳払いして、わざと下から、恭平の顔を覗き込んだ。

「え、いいよ。遠慮なくオニイサンになって、マスオとしてうちに住んで一緒にゲームしよ」
「はあ?」

 お前は出て行けよ、と、笑われた。
 多分、うれしかったんだと思う。
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