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2 放課後は独り占め
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食事をしながら、お互い思っていることとか、どうしようかとか、そういう話をした。
甘い告白のやりとりとは程遠い、どちらかというと、意見のすり合わせとか、討論に近いような。
「お互い好きなのは分かった。気持ちとしては進展も望んでいる。でも社会的にも倫理的にも、それはまずい。ここまではいい?」
「はい。バレたときに滅びるリスクがすごいというのも分かりました」
主に傷つくのは春馬さん。
仕事を失い変なレッテルも貼られ、犯罪歴になるのかは分かんないけど、身の破滅に直結しているのは確かだ。
法律に守られる立場の俺が、良し悪しの判断をしちゃいけないと思う。
「俺、卒業まで待てって言われたら、がんばって待ちますよ。会えないのも、遠距離か何かだと思えば耐えられる気がしますし」
「うん……そうだよね、それがベストなのかなと思う」
口ではそう言ってるけど、心の中は全然違いそう。
俺だってそうだ。
一旦手が届いてしまったものを待つのは、ただ憧れてるのとは違う苦しみがあるはずだから。
ふいに、BLが思い浮かんだ。
春馬さんがこの間再読したという、『放課後は独り占め』。
あの作品は、穏やかな性格の先生が道徳観念ゼロの攻めに描かれているところがウリなんだけど、実のところ、きっかけは生徒の脅迫だったりする。
BLのくっつき方なんて、フィクションだからこそ成立するものだけど、あのくらい二面性がはっきりすれば、現実でもいける気もする。
「あの、春馬さん。俺に無理やり脅されてくれませんか?」
「え? 何が?」
「『放課後は独り占め』を参考にしましょう。俺が先生の秘密を握りますから、仕方なく従ってください。そしたら俺たち、同罪になりますよね。社会的には春馬さんが変態みたいになっちゃいますけど、俺が無理やり従わせてたんなら変態は俺です」
春馬さんは、目を見開いて絶句している。
俺は続けた。
「お互い好きなら、痛みも分かち合いましょうよ」
「……それはできないよ。だって」
こほんと咳払いする。
「こんな可愛い顔した子の脅しなんて、全然怖くないし、無理がある」
だ、大事な話のときに萌やさないでくれ……!
不覚にもキュンとしつつ、気を取り直して話を戻す。
「便宜上でいいんですよそんなのは」
「ダメダメ。分かった、ごたくを並べてあれこれ言い訳を考えてた僕が悪い。潔く、君のことが好きだから君をかっさらう。そうしよう」
「は!?」
春馬さんはすっと立ち上がると、ソファ席に座る俺の横に浅く腰掛けて、俺の腕を引っ張って抱き寄せた。
「好きだよ。一生大事にするね。幸せにするし。だから僕のそばにいて?」
ちょこっと顔をかたむけて、ギリギリまで近寄って、くちびるが触れる直前で止まる。
心臓が、心臓がやばい。
小さくうなずいて、たまらず春馬さんのTシャツの裾を握りしめたら、そのままふにっと、キスされた。
ほんのちょっと顔を離して、もう1回。
「ん、……っ」
「可愛い。初めてだった?」
こくっとうなずく。
春馬さんは、こんなときでも表情なし。
だけど、目だけはちょっと、熱っぽいような。
「してみて、キス。できる?」
「はい」
ドギマギしながら、目を閉じて口づける。
少し長くしてゆっくり離したら、頭をなでられた。
「上手。よくできました」
え、え? 嘘でしょ?
先生属性が顔を出すと、こんなに尊いのか……!
脳味噌オーバーヒートでぼすっと胸のところにおでこをくっつけたら、春馬さんはちょっとだけ笑って言った。
「一緒にいてくれるなら、対等でいたいな。さん付けなんてやめて、言葉遣いも普通で。ね?」
春馬、とか呼び捨てにするところを想像する。
なんだろう、なんか、すごい違和感。
「えっと、なんか『春馬さん』はそこまでで単語ひとつって感じだし、そのままがいいです。敬語はやめるんで」
彼は不思議そうな顔をしていたけど、すぐ何か納得したのか、「まあいいか」と言った。
すかさず聞き返す。
「じゃあ、春馬さんは、俺のことはなんて呼んでくれるの?」
「みい」
「……みい!?」
声が裏返ってしまった。
春馬さんは、くすくす笑っている。
「ほら僕、受けのこと呼び捨てにする感じ、あんまり好きじゃないでしょ?」
「あー……たしかに」
だからって『みい』はないだろう、と思ったけど、真顔の春馬さんに『みい、おいで』とか呼ばれるところを想像したら破壊力がやばかったので、そのまま採用することにした。
春馬さんと、付き合うことになりました。
<2 放課後は独り占め 終>
甘い告白のやりとりとは程遠い、どちらかというと、意見のすり合わせとか、討論に近いような。
「お互い好きなのは分かった。気持ちとしては進展も望んでいる。でも社会的にも倫理的にも、それはまずい。ここまではいい?」
「はい。バレたときに滅びるリスクがすごいというのも分かりました」
主に傷つくのは春馬さん。
仕事を失い変なレッテルも貼られ、犯罪歴になるのかは分かんないけど、身の破滅に直結しているのは確かだ。
法律に守られる立場の俺が、良し悪しの判断をしちゃいけないと思う。
「俺、卒業まで待てって言われたら、がんばって待ちますよ。会えないのも、遠距離か何かだと思えば耐えられる気がしますし」
「うん……そうだよね、それがベストなのかなと思う」
口ではそう言ってるけど、心の中は全然違いそう。
俺だってそうだ。
一旦手が届いてしまったものを待つのは、ただ憧れてるのとは違う苦しみがあるはずだから。
ふいに、BLが思い浮かんだ。
春馬さんがこの間再読したという、『放課後は独り占め』。
あの作品は、穏やかな性格の先生が道徳観念ゼロの攻めに描かれているところがウリなんだけど、実のところ、きっかけは生徒の脅迫だったりする。
BLのくっつき方なんて、フィクションだからこそ成立するものだけど、あのくらい二面性がはっきりすれば、現実でもいける気もする。
「あの、春馬さん。俺に無理やり脅されてくれませんか?」
「え? 何が?」
「『放課後は独り占め』を参考にしましょう。俺が先生の秘密を握りますから、仕方なく従ってください。そしたら俺たち、同罪になりますよね。社会的には春馬さんが変態みたいになっちゃいますけど、俺が無理やり従わせてたんなら変態は俺です」
春馬さんは、目を見開いて絶句している。
俺は続けた。
「お互い好きなら、痛みも分かち合いましょうよ」
「……それはできないよ。だって」
こほんと咳払いする。
「こんな可愛い顔した子の脅しなんて、全然怖くないし、無理がある」
だ、大事な話のときに萌やさないでくれ……!
不覚にもキュンとしつつ、気を取り直して話を戻す。
「便宜上でいいんですよそんなのは」
「ダメダメ。分かった、ごたくを並べてあれこれ言い訳を考えてた僕が悪い。潔く、君のことが好きだから君をかっさらう。そうしよう」
「は!?」
春馬さんはすっと立ち上がると、ソファ席に座る俺の横に浅く腰掛けて、俺の腕を引っ張って抱き寄せた。
「好きだよ。一生大事にするね。幸せにするし。だから僕のそばにいて?」
ちょこっと顔をかたむけて、ギリギリまで近寄って、くちびるが触れる直前で止まる。
心臓が、心臓がやばい。
小さくうなずいて、たまらず春馬さんのTシャツの裾を握りしめたら、そのままふにっと、キスされた。
ほんのちょっと顔を離して、もう1回。
「ん、……っ」
「可愛い。初めてだった?」
こくっとうなずく。
春馬さんは、こんなときでも表情なし。
だけど、目だけはちょっと、熱っぽいような。
「してみて、キス。できる?」
「はい」
ドギマギしながら、目を閉じて口づける。
少し長くしてゆっくり離したら、頭をなでられた。
「上手。よくできました」
え、え? 嘘でしょ?
先生属性が顔を出すと、こんなに尊いのか……!
脳味噌オーバーヒートでぼすっと胸のところにおでこをくっつけたら、春馬さんはちょっとだけ笑って言った。
「一緒にいてくれるなら、対等でいたいな。さん付けなんてやめて、言葉遣いも普通で。ね?」
春馬、とか呼び捨てにするところを想像する。
なんだろう、なんか、すごい違和感。
「えっと、なんか『春馬さん』はそこまでで単語ひとつって感じだし、そのままがいいです。敬語はやめるんで」
彼は不思議そうな顔をしていたけど、すぐ何か納得したのか、「まあいいか」と言った。
すかさず聞き返す。
「じゃあ、春馬さんは、俺のことはなんて呼んでくれるの?」
「みい」
「……みい!?」
声が裏返ってしまった。
春馬さんは、くすくす笑っている。
「ほら僕、受けのこと呼び捨てにする感じ、あんまり好きじゃないでしょ?」
「あー……たしかに」
だからって『みい』はないだろう、と思ったけど、真顔の春馬さんに『みい、おいで』とか呼ばれるところを想像したら破壊力がやばかったので、そのまま採用することにした。
春馬さんと、付き合うことになりました。
<2 放課後は独り占め 終>
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