先生は腐男子仲間!

御堂どーな

文字の大きさ
上 下
17 / 72
2 放課後は独り占め

2-10

しおりを挟む
 食事をしながら、お互い思っていることとか、どうしようかとか、そういう話をした。
 甘い告白のやりとりとは程遠い、どちらかというと、意見のすり合わせとか、討論に近いような。

「お互い好きなのは分かった。気持ちとしては進展も望んでいる。でも社会的にも倫理的にも、それはまずい。ここまではいい?」
「はい。バレたときに滅びるリスクがすごいというのも分かりました」

 主に傷つくのは春馬さん。
 仕事を失い変なレッテルも貼られ、犯罪歴になるのかは分かんないけど、身の破滅に直結しているのは確かだ。
 法律に守られる立場の俺が、良し悪しの判断をしちゃいけないと思う。

「俺、卒業まで待てって言われたら、がんばって待ちますよ。会えないのも、遠距離か何かだと思えば耐えられる気がしますし」
「うん……そうだよね、それがベストなのかなと思う」

 口ではそう言ってるけど、心の中は全然違いそう。
 俺だってそうだ。
 一旦手が届いてしまったものを待つのは、ただ憧れてるのとは違う苦しみがあるはずだから。

 ふいに、BLが思い浮かんだ。
 春馬さんがこの間再読したという、『放課後は独り占め』。
 あの作品は、穏やかな性格の先生が道徳観念ゼロの攻めに描かれているところがウリなんだけど、実のところ、きっかけは生徒の脅迫だったりする。

 BLのくっつき方なんて、フィクションだからこそ成立するものだけど、あのくらい二面性がはっきりすれば、現実でもいける気もする。

「あの、春馬さん。俺に無理やり脅されてくれませんか?」
「え? 何が?」

「『放課後は独り占め』を参考にしましょう。俺が先生の秘密を握りますから、仕方なく従ってください。そしたら俺たち、同罪になりますよね。社会的には春馬さんが変態みたいになっちゃいますけど、俺が無理やり従わせてたんなら変態は俺です」

 春馬さんは、目を見開いて絶句している。
 俺は続けた。

「お互い好きなら、痛みも分かち合いましょうよ」
「……それはできないよ。だって」

 こほんと咳払いする。

「こんな可愛い顔した子の脅しなんて、全然怖くないし、無理がある」

 だ、大事な話のときに萌やさないでくれ……!
 不覚にもキュンとしつつ、気を取り直して話を戻す。

「便宜上でいいんですよそんなのは」
「ダメダメ。分かった、ごたくを並べてあれこれ言い訳を考えてた僕が悪い。潔く、君のことが好きだから君をかっさらう。そうしよう」
「は!?」

 春馬さんはすっと立ち上がると、ソファ席に座る俺の横に浅く腰掛けて、俺の腕を引っ張って抱き寄せた。

「好きだよ。一生大事にするね。幸せにするし。だから僕のそばにいて?」

 ちょこっと顔をかたむけて、ギリギリまで近寄って、くちびるが触れる直前で止まる。
 心臓が、心臓がやばい。
 小さくうなずいて、たまらず春馬さんのTシャツの裾を握りしめたら、そのままふにっと、キスされた。

 ほんのちょっと顔を離して、もう1回。

「ん、……っ」
「可愛い。初めてだった?」

 こくっとうなずく。
 春馬さんは、こんなときでも表情なし。
 だけど、目だけはちょっと、熱っぽいような。

「してみて、キス。できる?」
「はい」

 ドギマギしながら、目を閉じて口づける。
 少し長くしてゆっくり離したら、頭をなでられた。

「上手。よくできました」

 え、え? 嘘でしょ?
 先生属性が顔を出すと、こんなに尊いのか……!

 脳味噌オーバーヒートでぼすっと胸のところにおでこをくっつけたら、春馬さんはちょっとだけ笑って言った。

「一緒にいてくれるなら、対等でいたいな。さん付けなんてやめて、言葉遣いも普通で。ね?」

 春馬、とか呼び捨てにするところを想像する。
 なんだろう、なんか、すごい違和感。

「えっと、なんか『春馬さん』はそこまでで単語ひとつって感じだし、そのままがいいです。敬語はやめるんで」

 彼は不思議そうな顔をしていたけど、すぐ何か納得したのか、「まあいいか」と言った。
 すかさず聞き返す。

「じゃあ、春馬さんは、俺のことはなんて呼んでくれるの?」
「みい」
「……みい!?」

 声が裏返ってしまった。
 春馬さんは、くすくす笑っている。

「ほら僕、受けのこと呼び捨てにする感じ、あんまり好きじゃないでしょ?」
「あー……たしかに」

 だからって『みい』はないだろう、と思ったけど、真顔の春馬さんに『みい、おいで』とか呼ばれるところを想像したら破壊力がやばかったので、そのまま採用することにした。

 春馬さんと、付き合うことになりました。


<2 放課後は独り占め 終>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

昭和から平成の性的イジメ

ポコたん
BL
バブル期に出てきたチーマーを舞台にしたイジメをテーマにした創作小説です。 内容は実際にあったとされる内容を小説にする為に色付けしています。私自身がチーマーだったり被害者だったわけではないので目撃者などに聞いた事を取り上げています。 実際に被害に遭われた方や目撃者の方がいましたら感想をお願いします。 全2話 チーマーとは 茶髪にしたりピアスをしたりしてゲームセンターやコンビニにグループ(チーム)でたむろしている不良少年。 [補説] 昭和末期から平成初期にかけて目立ち、通行人に因縁をつけて金銭を脅し取ることなどもあった。 東京渋谷センター街が発祥の地という。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

処理中です...