頭が堅くて何が悪いっ

御堂どーな

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11初詣

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 佑哉の家から1時間ほど電車に揺られて来たのは、白ヶ丘天満宮という、市内では有名な神社だ。
 参拝客があまりにも多く、改札を出たところから既に、列が始まっている。
 よほど目立つことをしなければ、葛城佑哉の存在には、誰も気づきそうにない。

 辰哉さんからは『彼氏感が出るように、カメラの距離は近めで、目線は少し下から。佑哉は下手にレポートとかはせず、普通にカメラマンと会話するように。カメラマンはたまに突っ込み程度で声が入った方が面白い』というアドバイスをもらった。
 でも、それって話を総合すると、普段の僕の目線で撮って、ただ会話すればいいだけだから、ものすごく、ものすごく普通だ。
 敬語封印というところだけ、新鮮か。

「うわ、すごいね、列。30分以上待ちそう。寒くない?」

 話しかけられて、僕は、カメラを持ったままふるふると首を横に振る。
 佑哉はふわっと笑った。

「疲れたら言ってね」

 彼氏感を狙った発言なのだろうけど、でも、全くの嘘というわけでもないのは分かっている。
 どう見ても、僕を気遣ってるから。

「せっかくVLOGだし、何か最近のこと話そうかな」

 佑哉はキョロキョロと周りを見回し、にっこり笑った。

「最近料理するようになって、学校も仕事も休みの日は結構凝ったやつも作ってます。パエリアとか」
「焦がしたけどね」
「うん、上の方はおいしかった」

 学校から支給される食費は、寮のバイキング利用費と同額なので、そこまで高くない。
 なので、普段は節約して、たまに趣味感覚で、手の込んだ料理を作ることにしている。

 その他適当に趣味の話をしていたら、列が大きく動いた。
 佑哉の着物の全貌が入りそう。
 足元から頭の先まで映すと、モデルの習性なのか、瞬間で雑誌みたいな笑顔を浮かべた。

「祖母が和裁の先生で、いま着てるこれも、おばあちゃん作。で、着付けてくれたのは母。なんか資格持ってるはず」
「すご」
「服が好きなのは似たのかも。俺は着る専門だけどね」

 そしてまた適当に話し、一旦カメラを止めた。
 途端、佑哉がぴったりとくっついてくる。

「なんか盛大にノロケてるみたいで楽しいですねこれ」
「……僕、もうちょっと存在感消した方が良さそうな」
「えー先輩と話したいです」

 列の前後が年配の人でよかった。
 こんな内容の撮影、佑哉を知っている世代だったら、確実にパニックになっていたと思う。

 佑哉は僕に耳打ちした。

「ほんとは、着物脱がしながらエッチしたいんですけど、着崩しちゃったら直し方分かんないんで、我慢します」
「……っ、あったりまえでしょ」

 不適切。風紀が乱れてる。
 晴れやかな初詣でそんな煩悩まみれなことを言って、バチが当たるんじゃないかとか。

 くだらない話をするうち、お:賽銭箱(さいせんばこ)の前に到着した。
 するとなんと佑哉は、大胆にも千円札をぶっ込み、強く手を叩いて、ぎゅーっと目をつぶり、お祈りを始めた。
 僕は不思議に思いながら、お財布の中の小銭を全部入れ、静かに手を合わせる。

 ふたりで穏やかに過ごして、僕は受験生になるから、学業も頑張りたい。
 佑哉が、好きな仕事で活躍できますように。
 僕も、最後の高校生活を充実して過ごせますように。

 顔を上げると、佑哉はまだ何かをお願いしていた。
 さっきとは打って変わって、静かに目を閉じている。
 僕は黙ってその横顔を眺めた。
 佑哉のルックスは色々な表現方法があるけれど、凛とした着物姿で目を伏せているのは、『美しい』だと思う。

「……よし」

 顔を上げた佑哉は、こちらへ振り向き、晴れやかな笑顔を見せた。

「お待たせしました。じゃ、お店見てまわりましょうか」
「うん。僕さっきから、あの豚汁が気になって仕方ないんだよね」

 屋台を指差すと、佑哉は眉根を寄せて笑った。

「先輩、可愛い」
「……? 豚汁食べたいって言っただけだけど」
「先輩が欲望を口にするって珍しいから」

 佑哉は機嫌良く、僕の片手をとった。

「ちょ……っ!?」
「ほら、転びますよ。着物だと歩幅が狭まりますから。気をつけて」

 石段を降りながら、再び、きのうのダメージを感じる――ただ歩く分にはいいけれど、上り下りが腰にくるのだ。

 佑哉に先導されて、無事、豚汁の屋台の前まで来た。
 ふたり分を買い、境内の隅に腰掛ける。
 真横に並んでビデオカメラを回すと、なんというか、彼氏感がすごい。
 佑哉は画面に近寄ってきて、小首をかしげた。

「とりあえず食べたら? 冷めちゃうよ」
「……」
「ふふ、分かった。じゃあお先に、いただきまーす」

 はふはふと白い息を吐きながら、薄い大根と肉の切れ端を口に運ぶ。
 おいしいと言って顔をほころばせる佑哉を見て、これはコメント欄が盛り上がりそうだなと思った。

「味染みてておいしい。やっぱ、大量にぐつぐつ煮込むとおいしくなるのかな」
「かもね」
「新年から良い思いしちゃってるなー。あとでお餅も買いたい」
「何が好き?」
「きなこ」
「佑哉は甘党だよね」

 視聴者にさりげなく、情報を与えてみたりして。

 佑哉の表情は、いつもの僕に対する甘えた感じじゃなくて、ただただかっこいい男子高校生だった。
 僕としても、日常の佑哉を普通の友達感覚で見ているようで、楽しい。
 佑哉は豚汁をすすりながら、あたりを見回した。

「今年の目標は、趣味をいっこ極める」
「何?」
「ビリヤード。教えてもらってるんだけど、けっこう楽しくて」
「へえ」
「俺、趣味とかで『形から入る』というのは普段はあんまりないんだけど、ビリヤードは、マイキューとか欲しくなるね。男のロマンなのかな」
「武器っぽいからじゃない?」
「あー、冒険の:剣(つるぎ)が欲しい的な? ありえる。愛剣1本でボールをやっつけていくからね」

 そういえば、キューを持ち込む常連さんを見て、少しうらやましそうにしていた気がする。

 佑哉の話はどれも、別に僕がどうとか言ってるわけじゃないのに、結局は全て僕との生活の話に結びついていて、こうして改めて聞いてみると、お互いが日常に溶け込んでいるのだなと思った。



 白ヶ丘天満宮の名物をいくつか撮り、帰路についた。
 まだ夕方だっだけれど、小西家ではすっかり宴会になっていて、子供たちははしゃぎ回っているし、賑やかだった。

「先輩、良ければうち泊まっていきませんか?」
「佑哉の家?」
「はい。別に変わったものはないんですけど、なんとなく」
「見たい見たい」

 夕飯は小西家でたらふくいただいて、葛城家へ向かった。
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