51 / 69
11初詣
11-2
しおりを挟む
元日は、姫はじめとかなんとか言って、お恥ずかしながら1日中セックスをしていた。
あした歩き回るのにと何度も抗議しようとしたけど、なんというか、幸福感に負けた。
端的に言って幸せで、ずっと抱き合ってふわふわして、……そしていま、後悔している。
「いたたた」
「すいません。まさか改修工事してるとは……」
佑哉の実家は、うちから電車で1時間ほどの場所で、さして遠くなかった。
しかし、駅が改修工事中で、エスカレーターが使えなかった。
エレベーターはお年寄りと赤ちゃん連れで、乗れそうにない。
というわけで、きのうあれだけ求め合ったのが吹き飛ぶほどの後悔のなか、頑張って階段を上がっている。
行きからこんな調子で、カメラを回しながら初詣なんてできるのか。
「もうちょっとです」
「……僕、虚弱体質なんだよね」
「知ってます。可愛い。だから頑張って」
改札を出ると、ロータリーの周りにスーパーやら飲食店やら銀行やらが並んでいた。
ごくごく一般的な郊外の街。
でも、ここで佑哉が育ったのだと思うと、文化財でも見に来た気分になる。
住宅街に入っていくと、同じ形の家が何軒も並ぶ中に、立派な門構えの家がぽつぽつ見られるようになった。
さりげなく見ると、小西率の高いこと高いこと。
本家というのがどのくらいの権力なのかは分からないけれど、あのひょうひょうとした辰哉さんがお坊ちゃんというのは、面白いようで、納得するような節もあった。
佑哉が、モダンな2階建ての家を指さす。
「ここです、俺んち。でもすいません、通過で」
「うん。今度、部屋見せてね」
佑哉が遊んでいた公園、受験勉強を乗り切ったコーラの自動販売機、専属モデル決定の電話を受けたポストの前。
思い出話を聞きながら10分ほど歩いたところで、立派な日本家屋の家についた。
「ただいまー」
「おじゃまします」
玄関を入ると、長い廊下。
つるりとした木の床をスライディングして、子供が3人出てきた。
「ゆうやにいちゃんだー! あけおめー!」
駆け寄る子供たちを、佑哉が抱き止める。
「この人だれー?」
「一緒に住んでる人だよ」
「あっ、スーパーヒーロー!? この人!?」
子供たちが、頬をてからせて俺を見上げている。
「えーっと、ヒーローではないんだけど、佑哉の友達の佐久間広夢です」
「あー、やっぱりそうだ! ママ言ってた! ゆうやにいちゃんのこと守ったんでしょ!」
どういうことかと聞けば、ラグビー部の件で犠牲になった俺は、小西家の子供たちの中で、佑哉を助けたかっこいい人ということになっているらしい。
「もっとムキムキかと思った」
「先輩は頭脳派なんだよ」
「かっこいい!」
子供たちの盛り上がる声を聞きつけて、大人が出てきた。
恐縮してしまうくらいの歓迎のなか、大広間へ通される。
:豪華絢爛(ごうかけんらん)のおせち。
目をみはっていると、小柄な女性がすすっとやってきた。
「はじめまして、佑哉の母です」
「佐久間広夢です。お招きいただいてありがとうございます」
ぺこっと頭を下げると、佑哉のお母さんは胸の前で両手を握りしめた。
「いえいえ。こちらこそ、一緒に住んでもらうことにしたのに、あいさつにも行けなくてごめんなさいね」
佑哉のお母さんは、祖父母両方の介護をひとりでしていて、なかなか家が開けられないのだという。
引っ越しの時にあいさつという話もあったのだけど、事情を聞いて、僕が断った。
「怪我は大丈夫?」
「はい。もうすっかり治りました」
「それなら良かった。佑哉は迷惑かけてない?」
「いえ、楽しく暮らせてますし、僕が苦手なこととか率先してやってくれるので、助かってます」
「俺この間、先輩のコートにくっついてた蛾やっつけたんだよ」
ニコニコする佑哉を、お母さんが軽く叩く。
「そんなことで自慢してるんじゃないわよ」
「いやあ、先輩可愛くて。ぎゃーぎゃー騒いでたから俺がいなかったら……」
「ゴホン」
咳払いすると、佑哉はてへへと笑って話をうやむやに終わらせる。
佑哉のお母さんは、同じような笑顔でにっこり笑って言った。
「着物、何着か用意してあるから、好きなの選んでね」
あした歩き回るのにと何度も抗議しようとしたけど、なんというか、幸福感に負けた。
端的に言って幸せで、ずっと抱き合ってふわふわして、……そしていま、後悔している。
「いたたた」
「すいません。まさか改修工事してるとは……」
佑哉の実家は、うちから電車で1時間ほどの場所で、さして遠くなかった。
しかし、駅が改修工事中で、エスカレーターが使えなかった。
エレベーターはお年寄りと赤ちゃん連れで、乗れそうにない。
というわけで、きのうあれだけ求め合ったのが吹き飛ぶほどの後悔のなか、頑張って階段を上がっている。
行きからこんな調子で、カメラを回しながら初詣なんてできるのか。
「もうちょっとです」
「……僕、虚弱体質なんだよね」
「知ってます。可愛い。だから頑張って」
改札を出ると、ロータリーの周りにスーパーやら飲食店やら銀行やらが並んでいた。
ごくごく一般的な郊外の街。
でも、ここで佑哉が育ったのだと思うと、文化財でも見に来た気分になる。
住宅街に入っていくと、同じ形の家が何軒も並ぶ中に、立派な門構えの家がぽつぽつ見られるようになった。
さりげなく見ると、小西率の高いこと高いこと。
本家というのがどのくらいの権力なのかは分からないけれど、あのひょうひょうとした辰哉さんがお坊ちゃんというのは、面白いようで、納得するような節もあった。
佑哉が、モダンな2階建ての家を指さす。
「ここです、俺んち。でもすいません、通過で」
「うん。今度、部屋見せてね」
佑哉が遊んでいた公園、受験勉強を乗り切ったコーラの自動販売機、専属モデル決定の電話を受けたポストの前。
思い出話を聞きながら10分ほど歩いたところで、立派な日本家屋の家についた。
「ただいまー」
「おじゃまします」
玄関を入ると、長い廊下。
つるりとした木の床をスライディングして、子供が3人出てきた。
「ゆうやにいちゃんだー! あけおめー!」
駆け寄る子供たちを、佑哉が抱き止める。
「この人だれー?」
「一緒に住んでる人だよ」
「あっ、スーパーヒーロー!? この人!?」
子供たちが、頬をてからせて俺を見上げている。
「えーっと、ヒーローではないんだけど、佑哉の友達の佐久間広夢です」
「あー、やっぱりそうだ! ママ言ってた! ゆうやにいちゃんのこと守ったんでしょ!」
どういうことかと聞けば、ラグビー部の件で犠牲になった俺は、小西家の子供たちの中で、佑哉を助けたかっこいい人ということになっているらしい。
「もっとムキムキかと思った」
「先輩は頭脳派なんだよ」
「かっこいい!」
子供たちの盛り上がる声を聞きつけて、大人が出てきた。
恐縮してしまうくらいの歓迎のなか、大広間へ通される。
:豪華絢爛(ごうかけんらん)のおせち。
目をみはっていると、小柄な女性がすすっとやってきた。
「はじめまして、佑哉の母です」
「佐久間広夢です。お招きいただいてありがとうございます」
ぺこっと頭を下げると、佑哉のお母さんは胸の前で両手を握りしめた。
「いえいえ。こちらこそ、一緒に住んでもらうことにしたのに、あいさつにも行けなくてごめんなさいね」
佑哉のお母さんは、祖父母両方の介護をひとりでしていて、なかなか家が開けられないのだという。
引っ越しの時にあいさつという話もあったのだけど、事情を聞いて、僕が断った。
「怪我は大丈夫?」
「はい。もうすっかり治りました」
「それなら良かった。佑哉は迷惑かけてない?」
「いえ、楽しく暮らせてますし、僕が苦手なこととか率先してやってくれるので、助かってます」
「俺この間、先輩のコートにくっついてた蛾やっつけたんだよ」
ニコニコする佑哉を、お母さんが軽く叩く。
「そんなことで自慢してるんじゃないわよ」
「いやあ、先輩可愛くて。ぎゃーぎゃー騒いでたから俺がいなかったら……」
「ゴホン」
咳払いすると、佑哉はてへへと笑って話をうやむやに終わらせる。
佑哉のお母さんは、同じような笑顔でにっこり笑って言った。
「着物、何着か用意してあるから、好きなの選んでね」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
58
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる