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「その言葉、信用してもいいのね」
ユーコの問いに、桃実は深く頷いた。
「……じゃあ、まずは何を聞きたいの?」
「そうだな……では、お嬢さんの名前を伺っても?」
「名前はユーコよ。苗字は覚えてないから知らないわ」
「覚えていないのか、それは大変だね。……次、ユーコ君と十束刑事との出会いは?」
「初めて会ったのは弟切の事件の時、H山に捜査に来た刑事さんに会ったのが――……」
質疑応答は淡々と進められていった。
質問のほとんどはユーコ達が関わった事件についてのものだったが、徐々に内容はユーコの体質や普段の生活にまで及んでいった。
桃実の質問が『仲間』――ヨミに関わることになっても、ユーコはほとんどの質問に素直に答えた。
ただ、名前は決して出さずに、終始ヨミのことは『その子、あの子』で通していた。
一時はどうなることかとヒヤヒヤしていた十束だったが、心配は杞憂だったと思えるくらい話し合いは穏やかに、順調に続いていた。
十束が知る限りの情報がほぼ出そろった頃、頃合いを見計らったように桃実が一つの質問を投げかけた。
「君たちが手にかけた人物の中に、ユーコ君を死に至らしめた男は含まれているのかな?」
ユーコの表情が一気に暗くなった。
「……いい、え」
動揺を抑えきれず、かすれた声でユーコが答えた。
「確実に、そうだと言えるかね?」
「……ええ、相手の顔、覚えてないけど……あの男は、違う。全然、違うの……」
ユーコが俯いたその直後から、カタカタという異音が鳴り響いた。
見れば、桃実のデスクの上にある万年筆などの小物類が小刻みに揺れ始めている。
――また、暴走しかけているのか?
ヨミの家でユーコが暴走しかけたあの時のことを思い出して十束は戦慄した。
「おい、ユー…」
隣に座っているユーコに声をかけようとしたが、すんでのところで十束は思いとどまった。
ユーコは目を瞑りぎゅっと両手を交差させて身体を抱きしめ、何かに耐えているようだった。
「……」
桃実もユーコの様子に驚くこともなく静かに成り行きを見守っている。
異常現象を目の当たりにしても動じない桃実を見て、改めて十束は確信した。
――桃実警視監は、間違いなく知っている。この子たちの身に降りかかった事態とその原因を……。
そのまま五分ほどか経過しただろうか。異音が鳴りやみ、ユーコがはあ――と息を吐いて顔を上げた。
「――桃実さん、あなたは何を知っているの? どうして私を殺した相手が関係しているの?」
「簡単なことだよ。前にも、同じことがあったんだ」
「ちょっと待ってください、桃実警視監。同じとは……」
「とある男によって殺害された女性が、死後に蘇る。公にはなっていないが、これはこの国の中で数十年毎に起きている事件なんだよ」
「そんな……ことが」
絶句した十束とユーコの顔をかわるがわる見つめてから、桃実は一段と低い声で宣言した。
「にわかには、信じられないかもしれない。しかし、私がこれから話す内容は全て事実だ」
椅子から立ち上がり、目を細めてブラインドの隙間から窓の外を見ながら桃実は続けた。
「信じるか信じないかは、君達に委ねる」
ユーコの問いに、桃実は深く頷いた。
「……じゃあ、まずは何を聞きたいの?」
「そうだな……では、お嬢さんの名前を伺っても?」
「名前はユーコよ。苗字は覚えてないから知らないわ」
「覚えていないのか、それは大変だね。……次、ユーコ君と十束刑事との出会いは?」
「初めて会ったのは弟切の事件の時、H山に捜査に来た刑事さんに会ったのが――……」
質疑応答は淡々と進められていった。
質問のほとんどはユーコ達が関わった事件についてのものだったが、徐々に内容はユーコの体質や普段の生活にまで及んでいった。
桃実の質問が『仲間』――ヨミに関わることになっても、ユーコはほとんどの質問に素直に答えた。
ただ、名前は決して出さずに、終始ヨミのことは『その子、あの子』で通していた。
一時はどうなることかとヒヤヒヤしていた十束だったが、心配は杞憂だったと思えるくらい話し合いは穏やかに、順調に続いていた。
十束が知る限りの情報がほぼ出そろった頃、頃合いを見計らったように桃実が一つの質問を投げかけた。
「君たちが手にかけた人物の中に、ユーコ君を死に至らしめた男は含まれているのかな?」
ユーコの表情が一気に暗くなった。
「……いい、え」
動揺を抑えきれず、かすれた声でユーコが答えた。
「確実に、そうだと言えるかね?」
「……ええ、相手の顔、覚えてないけど……あの男は、違う。全然、違うの……」
ユーコが俯いたその直後から、カタカタという異音が鳴り響いた。
見れば、桃実のデスクの上にある万年筆などの小物類が小刻みに揺れ始めている。
――また、暴走しかけているのか?
ヨミの家でユーコが暴走しかけたあの時のことを思い出して十束は戦慄した。
「おい、ユー…」
隣に座っているユーコに声をかけようとしたが、すんでのところで十束は思いとどまった。
ユーコは目を瞑りぎゅっと両手を交差させて身体を抱きしめ、何かに耐えているようだった。
「……」
桃実もユーコの様子に驚くこともなく静かに成り行きを見守っている。
異常現象を目の当たりにしても動じない桃実を見て、改めて十束は確信した。
――桃実警視監は、間違いなく知っている。この子たちの身に降りかかった事態とその原因を……。
そのまま五分ほどか経過しただろうか。異音が鳴りやみ、ユーコがはあ――と息を吐いて顔を上げた。
「――桃実さん、あなたは何を知っているの? どうして私を殺した相手が関係しているの?」
「簡単なことだよ。前にも、同じことがあったんだ」
「ちょっと待ってください、桃実警視監。同じとは……」
「とある男によって殺害された女性が、死後に蘇る。公にはなっていないが、これはこの国の中で数十年毎に起きている事件なんだよ」
「そんな……ことが」
絶句した十束とユーコの顔をかわるがわる見つめてから、桃実は一段と低い声で宣言した。
「にわかには、信じられないかもしれない。しかし、私がこれから話す内容は全て事実だ」
椅子から立ち上がり、目を細めてブラインドの隙間から窓の外を見ながら桃実は続けた。
「信じるか信じないかは、君達に委ねる」
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