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「ここが、今回の現場か」
S県警本部から車で五分ほどの距離にある市営U公園。
旧制高校の跡地に造られた市営の公園は日本庭園やゲートボール場があり、高齢者の憩いの場となっている。
隣接する県営のK公園の駐車場に車を停め、十束と榊は封鎖されて人気のないU公園の敷地に足を踏みいれた。
今のところ完全に封鎖されているのはU公園のみで、隣のK公園にはまだ散歩中らしき人の姿がちらほらとみられる。
「犯人のヤツ、県警に近いこんな場所に首を遺棄するなんて……何、考えてるんスかね!?」
「さあな……。何か思うところがあったのか……何にせよ今までとはちょっと雰囲気が違うな」
一、二件目の生首遺棄現場はいずれも駅前や町中の小さな交番前だった。
当然、犯人が第一発見者として想定するのは警察関係者……。
いやむしろ、被害者の身元を記すメモを残しているあたり、まるで警察に対して届け出をしているような雰囲気さえ感じると十束は思っていた。
遊歩道を進むとすぐに現場を覆っているブルーシートが嫌でも目についた。
現場保全を担当している警官に軽く挨拶をしてから、入り口部分を捲り、ブルーシートの囲いの中に入る。
「えっ……像?」
先に入った榊が目の前にそびえる銅像に、びっくりしたように立ち止まる。
榊の声に内部作業をしていた鑑識官の内、数人がこちらを振り返った。
その中に先日救急搬送された鈴谷の顔を認めて、榊が「あ」と驚いたような声を漏らした。
「鈴谷さん!」
「榊さん、十束さん、お疲れ様です」
「鈴谷さん、もう大丈夫なんですか」
十束が声をかけると鈴谷は振り返ってどうも、と軽く頭を下げた。
「はい、おかげさまで……あの時はすみません。ご心配かけて」
幸い大事には至らず、すでに退院しているとは聞いていたが顔色もよく元気そうだ。
「遺棄されていた首は男性の物で、現在身元確認中です。発見者はU公園に散歩に来ていたご老人ですね。早朝五時過ぎにこの銅像の前を通りかかった時、足元に首が置かれているのに気づいたそうです」
旧制高校の学生服姿の銅像は平台の上に立っており、ちょうどその足元部分を指し示しながら鈴谷は遺体発見の状況を説明した。
「ここか? 赤黒いしみが出来てる。……血が付着しているようだが」
「ええ、今回は紙袋が使われず、直に首が置かれていましたから」
「直に、ですか? では今回、メモや地図の類はありましたか?」
「ありますよ。これです……首の傍に置かれていました」
証拠品保存用の袋に入った紙が十束の前に差し出された。
A4ノートサイズの黒い紙に赤字で文字がかかれている。
「これは……」
右下がりの定規で引いたような、神経質に角ばった文字で書かれている内容を見て十束は顔をしかめた。
『罪人 夾竹 亮』
『罪状 恐喝、傷害、窃盗、薬物使用 他多数』
『無能なケイサツに代わり、悪人に裁きヲ』
『子供タチに現実ヲ』
「なんだか、前回までと雰囲気がまるで違う……というか、別人レベルっすね」
「手口は似せているが……模倣犯の可能性もある。慎重に捜査しないとな」
「でも『子供達に現実を』って……何のことスかね。 十束さん、どういう意味か分かります?」
「榊、お前気づいてなかったのか」
十束がメモから顔を上げて榊を見た瞬間、チャイムの音が鳴り響いた。
「あ……小学校、か!」
榊が反射的に音がした方向を向いた。
隣の敷地に建てられた校舎と公園を遮るものはまばらに生えた樹木くらいしかなく、建物の二、三階からならば死体遺棄現場である銅像のあたりは見えてしまうだろう。
「見せつけるつもり、だったんだろうなァ」
呟くようにそう言いながら、十束はこれまでの一連の犯行と明らかに異なる犯人像に強烈な違和感を感じていた。
「犯人は何がしたいんだ? 子供を怯えせるようなマネを……!」
「落ち着け、榊。幸いにも首が発見、回収されたのは登校時間前だ。見てしまった子供はいない。だが、早いとこ犯人を捕まえるぞ」
榊をなだめながら、十束は周辺の様子を調べるために入り口から外へ踏み出した。
K公園の方に歩いていくと数人の野次馬に混じって、どこか見覚えのある赤茶色の髪の少女の姿が見えた。
――中学生……高校生くらいか? ……こんな時間に?
なんとなく気になって見つめていると、自分に向けられた視線に気づいたのか少女はふっと十束の方に目を向けた。
S県警本部から車で五分ほどの距離にある市営U公園。
旧制高校の跡地に造られた市営の公園は日本庭園やゲートボール場があり、高齢者の憩いの場となっている。
隣接する県営のK公園の駐車場に車を停め、十束と榊は封鎖されて人気のないU公園の敷地に足を踏みいれた。
今のところ完全に封鎖されているのはU公園のみで、隣のK公園にはまだ散歩中らしき人の姿がちらほらとみられる。
「犯人のヤツ、県警に近いこんな場所に首を遺棄するなんて……何、考えてるんスかね!?」
「さあな……。何か思うところがあったのか……何にせよ今までとはちょっと雰囲気が違うな」
一、二件目の生首遺棄現場はいずれも駅前や町中の小さな交番前だった。
当然、犯人が第一発見者として想定するのは警察関係者……。
いやむしろ、被害者の身元を記すメモを残しているあたり、まるで警察に対して届け出をしているような雰囲気さえ感じると十束は思っていた。
遊歩道を進むとすぐに現場を覆っているブルーシートが嫌でも目についた。
現場保全を担当している警官に軽く挨拶をしてから、入り口部分を捲り、ブルーシートの囲いの中に入る。
「えっ……像?」
先に入った榊が目の前にそびえる銅像に、びっくりしたように立ち止まる。
榊の声に内部作業をしていた鑑識官の内、数人がこちらを振り返った。
その中に先日救急搬送された鈴谷の顔を認めて、榊が「あ」と驚いたような声を漏らした。
「鈴谷さん!」
「榊さん、十束さん、お疲れ様です」
「鈴谷さん、もう大丈夫なんですか」
十束が声をかけると鈴谷は振り返ってどうも、と軽く頭を下げた。
「はい、おかげさまで……あの時はすみません。ご心配かけて」
幸い大事には至らず、すでに退院しているとは聞いていたが顔色もよく元気そうだ。
「遺棄されていた首は男性の物で、現在身元確認中です。発見者はU公園に散歩に来ていたご老人ですね。早朝五時過ぎにこの銅像の前を通りかかった時、足元に首が置かれているのに気づいたそうです」
旧制高校の学生服姿の銅像は平台の上に立っており、ちょうどその足元部分を指し示しながら鈴谷は遺体発見の状況を説明した。
「ここか? 赤黒いしみが出来てる。……血が付着しているようだが」
「ええ、今回は紙袋が使われず、直に首が置かれていましたから」
「直に、ですか? では今回、メモや地図の類はありましたか?」
「ありますよ。これです……首の傍に置かれていました」
証拠品保存用の袋に入った紙が十束の前に差し出された。
A4ノートサイズの黒い紙に赤字で文字がかかれている。
「これは……」
右下がりの定規で引いたような、神経質に角ばった文字で書かれている内容を見て十束は顔をしかめた。
『罪人 夾竹 亮』
『罪状 恐喝、傷害、窃盗、薬物使用 他多数』
『無能なケイサツに代わり、悪人に裁きヲ』
『子供タチに現実ヲ』
「なんだか、前回までと雰囲気がまるで違う……というか、別人レベルっすね」
「手口は似せているが……模倣犯の可能性もある。慎重に捜査しないとな」
「でも『子供達に現実を』って……何のことスかね。 十束さん、どういう意味か分かります?」
「榊、お前気づいてなかったのか」
十束がメモから顔を上げて榊を見た瞬間、チャイムの音が鳴り響いた。
「あ……小学校、か!」
榊が反射的に音がした方向を向いた。
隣の敷地に建てられた校舎と公園を遮るものはまばらに生えた樹木くらいしかなく、建物の二、三階からならば死体遺棄現場である銅像のあたりは見えてしまうだろう。
「見せつけるつもり、だったんだろうなァ」
呟くようにそう言いながら、十束はこれまでの一連の犯行と明らかに異なる犯人像に強烈な違和感を感じていた。
「犯人は何がしたいんだ? 子供を怯えせるようなマネを……!」
「落ち着け、榊。幸いにも首が発見、回収されたのは登校時間前だ。見てしまった子供はいない。だが、早いとこ犯人を捕まえるぞ」
榊をなだめながら、十束は周辺の様子を調べるために入り口から外へ踏み出した。
K公園の方に歩いていくと数人の野次馬に混じって、どこか見覚えのある赤茶色の髪の少女の姿が見えた。
――中学生……高校生くらいか? ……こんな時間に?
なんとなく気になって見つめていると、自分に向けられた視線に気づいたのか少女はふっと十束の方に目を向けた。
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