6 / 40
06
しおりを挟む
「女の子……?」
おうむ返しに十束が巡査に確認すると、彼は「はい……」と小声でつぶやき青い顔でうなだれた。
見るからに真面目そうな青年で酒に酔っているわけでもなければふざけているようにも見えない。
「十束先輩……これ、上にどう報告したら……」
メモを取っていた榊が困惑した様子で十束に尋ねた。
「……すみません、混乱させるようなことを言って」
「いや、何でも話してほしいといったのはこちらの方ですから……」
頭を下げる巡査に対して平静を装ってそう答えた十束だったが、榊と同様、この目撃情報をどう扱うべきか内心では迷いがあった。
「巡査長さんは、その女の子に心当たりは?」
「防犯カメラも確認していますが、午後二時から四時までこの交番に来たものはおりません。第一、入り口から誰かが詰め所に入れば、すぐに気がつくはずです。
引き戸の滑りが悪くて、音がするもので……」
「なるほど……確かにそうですね」
先ほど詰め所に入る際に軋むような音を立てた入り口の引き戸を横目で見ながら十束は頷いた。
「……ちなみに、その女の子の容姿は憶えていますか? 服装とか、髪型とか」
「長い黒髪の、中学生か高校生くらいの子でした。服装は……学校の制服のようで、セーラー服を着ていました」
「ん? セーラー服?」
巡査の説明に巡査長は首を傾げた。
「この辺の学校でセーラー服が制服なとこなんてないぞ? ブレザーかベストか、ワンピースなら見かけるが」
「え……それじゃあ。俺の見間違い……なのか」
巡査長の言葉に巡査は再び視線を落としてボソリと呟いた。
「疲れがたまっていたのかもしれないさ。お前は普段から真面目に頑張っているし」
落ち込む巡査を励ましながらも、巡査長はすがるような視線を十束たちに向けた。
「そういう訳で……。何分不確かな部分もある情報ですから。今話したことは……」
「分かりました。私たちの胸にとどめておきます。……上には防犯カメラの映像の確認結果と停電の件だけ伝えておくんで」
十束がそう伝えると巡査長は明らかにホッとした表情で頷いた。隣の榊も少し安心したように十束と巡査長のやり取りを聞いている。
その他、夜勤前の状況などについてニ、三の質問を終えると、十束たちは早々に警察署に引き上げることにした。
「署に戻ったらまず、報告書の作成と……あとは遺留品の筆跡鑑定の結果待ちだな。例の『地図』には捜査班がすでに向かっているから、今日の夜には報告が聞けるだろう」
「そうスね。……また、死体がわんさか出てきたりして……」
「まだ、そうと決まったわけじゃない。とりあえず、運転頼むぞ」
げんなりとした顔でつぶやく榊の肩を軽くたたいてそういうと、十束は先に車に乗り込んだ。
「ま――、そうですけど。……あーあ、また日がな一日地取りばっかりやらされるのかなァ」
ブツブツ言いながら運転席に乗り込み、シートベルトを着けてバックミラーを覗き込んだ……途端に榊がすべての動作を止めた、かと思えばすごい勢いで後部座席を振り返った。
「……? どーした?」
榊の視線の行方を追って何もない後部座席をチラリとみてから、十束が声をかける。
十束の声が聞こえているのかいないのか車のハンドルを握りしめたまま、エンジンもかけずに俯いているその顔色は紙のように白かった。
「……すいません、十束先輩。俺も疲れてるみたいです。今、後ろに誰かが乗ってるように見え」
「おいおいおいおいおい止めろ止めろ! 分かった、俺が運転する」
車を降りて運転席と助手席に改めて座り直してから十束は榊を気遣うように言った。
「……俺もお前も、ここ一か月まともに家に帰ってないからな。疲れて幻覚を見てもしょうがないだろ。うん」
「いや、幻覚見えてる状態ってかなりヤバいっスよね……? てゆうか、先輩ひょっとして怖い話とか苦手なんじゃ」
「おい、やめろって」
「さっき巡査の話聞いてた時も顔が少し引きつってたし」
「マジでやめてくれ。ほらシートベルト締めろ。車出すぞ」
「……これは、俺の婆ちゃんから聞いた話なんスけど」
「ああもう! 本当にやめろって!」
おうむ返しに十束が巡査に確認すると、彼は「はい……」と小声でつぶやき青い顔でうなだれた。
見るからに真面目そうな青年で酒に酔っているわけでもなければふざけているようにも見えない。
「十束先輩……これ、上にどう報告したら……」
メモを取っていた榊が困惑した様子で十束に尋ねた。
「……すみません、混乱させるようなことを言って」
「いや、何でも話してほしいといったのはこちらの方ですから……」
頭を下げる巡査に対して平静を装ってそう答えた十束だったが、榊と同様、この目撃情報をどう扱うべきか内心では迷いがあった。
「巡査長さんは、その女の子に心当たりは?」
「防犯カメラも確認していますが、午後二時から四時までこの交番に来たものはおりません。第一、入り口から誰かが詰め所に入れば、すぐに気がつくはずです。
引き戸の滑りが悪くて、音がするもので……」
「なるほど……確かにそうですね」
先ほど詰め所に入る際に軋むような音を立てた入り口の引き戸を横目で見ながら十束は頷いた。
「……ちなみに、その女の子の容姿は憶えていますか? 服装とか、髪型とか」
「長い黒髪の、中学生か高校生くらいの子でした。服装は……学校の制服のようで、セーラー服を着ていました」
「ん? セーラー服?」
巡査の説明に巡査長は首を傾げた。
「この辺の学校でセーラー服が制服なとこなんてないぞ? ブレザーかベストか、ワンピースなら見かけるが」
「え……それじゃあ。俺の見間違い……なのか」
巡査長の言葉に巡査は再び視線を落としてボソリと呟いた。
「疲れがたまっていたのかもしれないさ。お前は普段から真面目に頑張っているし」
落ち込む巡査を励ましながらも、巡査長はすがるような視線を十束たちに向けた。
「そういう訳で……。何分不確かな部分もある情報ですから。今話したことは……」
「分かりました。私たちの胸にとどめておきます。……上には防犯カメラの映像の確認結果と停電の件だけ伝えておくんで」
十束がそう伝えると巡査長は明らかにホッとした表情で頷いた。隣の榊も少し安心したように十束と巡査長のやり取りを聞いている。
その他、夜勤前の状況などについてニ、三の質問を終えると、十束たちは早々に警察署に引き上げることにした。
「署に戻ったらまず、報告書の作成と……あとは遺留品の筆跡鑑定の結果待ちだな。例の『地図』には捜査班がすでに向かっているから、今日の夜には報告が聞けるだろう」
「そうスね。……また、死体がわんさか出てきたりして……」
「まだ、そうと決まったわけじゃない。とりあえず、運転頼むぞ」
げんなりとした顔でつぶやく榊の肩を軽くたたいてそういうと、十束は先に車に乗り込んだ。
「ま――、そうですけど。……あーあ、また日がな一日地取りばっかりやらされるのかなァ」
ブツブツ言いながら運転席に乗り込み、シートベルトを着けてバックミラーを覗き込んだ……途端に榊がすべての動作を止めた、かと思えばすごい勢いで後部座席を振り返った。
「……? どーした?」
榊の視線の行方を追って何もない後部座席をチラリとみてから、十束が声をかける。
十束の声が聞こえているのかいないのか車のハンドルを握りしめたまま、エンジンもかけずに俯いているその顔色は紙のように白かった。
「……すいません、十束先輩。俺も疲れてるみたいです。今、後ろに誰かが乗ってるように見え」
「おいおいおいおいおい止めろ止めろ! 分かった、俺が運転する」
車を降りて運転席と助手席に改めて座り直してから十束は榊を気遣うように言った。
「……俺もお前も、ここ一か月まともに家に帰ってないからな。疲れて幻覚を見てもしょうがないだろ。うん」
「いや、幻覚見えてる状態ってかなりヤバいっスよね……? てゆうか、先輩ひょっとして怖い話とか苦手なんじゃ」
「おい、やめろって」
「さっき巡査の話聞いてた時も顔が少し引きつってたし」
「マジでやめてくれ。ほらシートベルト締めろ。車出すぞ」
「……これは、俺の婆ちゃんから聞いた話なんスけど」
「ああもう! 本当にやめろって!」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる