魔王様といっしょ

かよ太

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みなさん、こんにちわ!
気持ちのいい日本晴れの下、成績オール三のオレは、このたび俺様美人生徒会長さまを学校の屋上に呼び出すことに成功いたしました!

「君は確か、同じクラスの子だよね。こんなところに呼び出してなんの用かな」
きらめく笑顔がオレに降り注いでいますが、目は完全に笑っていなくて「俺様はこーゆーのキライだってわかってんだろうな」オーラがビシビシ伝わってきます。オレだって、こんなことをしたくてしているわけじゃありません。

今だって緊張のせいで足はガクガクで立っているのがやっとだし、手もふるえています。
本当はこんなことしたくないのだけれど、臆病なオレはとある人とした“約束”を反故にできるほど強くないのです。
そう、とある人「異世界人」との“約束”とは、この学校一と詠われる美貌の生徒会長様を、異世界へと連れ戻してくれ!と言う頼みだったのだあああ~っ(泣)


 ■ ■ ■


そもそも何故オレが「異世界人」と出会ったのかと言えば、スマホでラノベを漁っていたのが発端だった。
携帯を持つようになると、ストレスが溜まるたび浴びるように活字を求めてしまう癖ができていた。その日もムシャクシャしていたので、ストレスを発散するため小説を読み漁っていた。

(あーあ、タップミスした……)
スマホに換えてからと言うもの、ちらちらと動く広告バナーに触れてしまうことがよくあった。だから今回もまたやっちゃったなーと言う程度だったのに。

(うわ……なんだコレ)
切り替わった画面には、黒背景に白い線で描かれた魔法陣が画面いっぱいに広がっていた。
オレはいつもと違う画面に驚き、立ち止まって周りを見渡す。

放課後。駅のホームでは、乗り換えやら駅の出口やらへの移動に周りの人は急いでいた。いつもなら何も気にせず元の画面に戻るのに、オレは後先考えず興味本位でその魔法陣をタップした。
今になって思う、やめておけば良かったのにって。


 ■ ■ ■


「お帰りなさい魔王様! 異世界への旅はいかがでしたかっ!」
いきなり元気のいい人に声をかけられた。分厚い一冊の本を両手にがっしりと持った、薄紫色の長い髪をした眼鏡男だった。

(まおう……さま?)
圧倒されて何が起きているのかわからない。

「は? あなた誰ですかっ!」
「えっ、オレですか」
「魔王様ではないっ! どうしてだっ!」
外人さんの面もちで言葉が日本語なのが若干違和感があるが、窓のない薄暗い地下室のようなところで苦悩している彼を見て唖然とするしかない。

「失敗したんだろう」
地を這うような男性の声が長髪の人に声をかけた。奥にいるのできちんと見えないが、騎士のような格好をしているようで、蝋燭の明かりが時折甲冑に反射して光っている。

「私が失敗しただとっ!」
「その坊やは陛下ではない。見ればわかる」
どう考えてもオレが主人公クラスの役回りをもらう世界なんてありえない。
自分でも分かっているだけにそう言ってもらえてホッとした。

「あの……手違いならそれでかまわないので、元の世界に帰していただけませんか」
「こうなったら仕方がない。あなたにお願いがあります」
オレの話なんて聞いちゃあいない。

「魔王様を呼び戻してください」
「魔王様、知りません」
「だまらっしゃい! 間違ってやって来たあなたが悪いのです!」
なんでだ!

「我々の魔力では、向こうの世界に実体を持っていけないのです。そのためにあーでもないこーでもないと手を尽くしたら、お呼びでないあなたが来たのです! ということはあなたなら移動できるということですよ! わかりますかっ!」
なんかもう滅茶苦茶だ。呆れてしまって反論する気も起きない。

「わかりましたよ……その魔王様に帰ってくるように言えばいいんですね。それでオレはお役目御免ですね」
「ええ、もちろんですともお帰りください!!!」
それはいくらなんでもちょっと非道すぎるよ紫眼鏡さん……。
まあトリップして、そのあといろんな大変な目に遭うよりかは少しの好奇心が満たせそうなので、由とすることにした。


 ■ ■ ■


「で、俺に帰れと」
すんなりと自分の身元をバラしてくれた会長もとい魔王様だったのでラッキーだった。
これで記憶喪失だとか、この人も人違いだとかおそろしい設定だったらこの話も続いちゃうし、どうしようかと思ったが案外そうではないようだ。

「生憎だけれど、この日本の生活は嫌いじゃないんだ」
「えっ」
すんなりと帰ってくれると思いきや。

「せっかくこんな平和な楽しい生活をやめるとなると、とてつもない苦痛を伴うわけだ」
「……はあ」
「俺だけこの暮らしをやめるのは不公平だと思わないか」
「へ、だってあんた魔王様でしょ」
「そこでだ。……だから、お前もいこうか」
魔王様の目が黄金に光った。

「へっ?」


 ■ ■ ■


魔王様の魔力は桁違いなのか、気がつけば謁見の間のような豪華な装飾の施されたところに移動していた。

「なんであなたがここにいるのですかっ!」
「私が連れてきたのだが」
さっきまで「俺」様だったのに一人称が魔王らしくなっている。
紫眼鏡さんも、その威圧感に頭を下げた。

「は、それは失礼いたしました」
俺を睨みつけてくるウルサイ紫眼鏡さんはさることながら、謁見の間にはこの間の甲冑のお兄さん、大勢の人がいた。並んでいる魔族(魔王の臣下だもんね)たちが一斉に頭を下げた。

「王よ、ご帰還心よりお待ち申し上げておりました」
そして部外者のオレは呆然としていた。
オレの配役は、魔王様の平和な日常の代償なワケで……。
オレの平和な日常は?

つーか、
「ここじゃラノベ読めないじゃん! バカ魔王ーっ!」
とオレは空気を読まないで、謁見の間に響きわたるほどの大きな声で絶叫したのだった。




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